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民法のおすすめ基本書リスト

はじめに

 初めまして、「司法とうさぎ」と申します。「うさぎ」と呼んでください。予備校を全く使わずに京大ローを上位修了し、司法試験に一発合格しました。
 各教科のおすすめ基本書リスト、第1弾は民法です。私が受験生時代に実際に使用していた基本書をご紹介します。
 いろんな本を読みましたので、比較的たくさんの本を紹介することができると思います。


基本書

全分野

・伊藤真の民法入門(伊藤真の入門シリーズ)(伊藤真)
おすすめ度:★★★☆☆
 一番最初に読んだ入門書です。民法の基本的な制度が概説されます。民法の体系を理解してから民法の学習に入ることはとても重要です。難解な言い回しがないので、初学者でも読みやすいと思います。この本でなければならない理由はないので、他の適宜の入門書でも良いと思います。

・民法(伊藤真ファーストトラックシリーズ)(伊藤塾)
おすすめ度:★★★☆☆
 2番目に読んだ入門書です。民法入門よりは少し細かく、民法の基本的な制度が概説されます。難解な言い回しがないので、初学者でも読みやすいと思います。この本でなければならない理由はないので、他の適宜の入門書でも良いと思います。

・民法(全)(潮見)
おすすめ度:★★★★☆
 民法の全分野について、基本的な事柄を中心に解説してくれます。私は家族法の薄めの基本書として使っていました。足りない部分はLQを読んでいました。

総則

・民法の基礎1総則(佐久間)
おすすめ度:★★★★☆
 民法総則のスタンダードな基本書です。司法試験に必要な総則の知識を8〜9割カバーしてくれています。足りない知識は、山敬の民法講義を読みましょう。
 ケーススタディ形式であることに加えて、基礎から丁寧に書き起こしてくれることもあり、本文の説明のわかりやすさは十分です。特に佐久間先生は代理法の専門家であることもあり、代理法の分かりやすさは群を抜いています。ケーススタディでは、簡単な事案の紹介→理論的な説明→事案の解決と一貫している点も評価したいです。
 要件事実への配慮は随所にありますが、要件事実を学習したいのでしたら、大島本・類型別といった実務家の本や山敬本を読んだ方が得られるものが多いと思います。分かっている人には伝わるが分からない人には伝わらない記述という印象があります。
 応用・補論は頑張って読んでも徒労に終わることが多いです。しかし、応用・補論の中に何かキラリと光る記述があることもあり、そういう意味で、読み方のメリハリの付け方にやや難儀するとも言えるでしょう。
 また、「本文は判例通説、補論が自説」と前書きで宣言しておきながら、判例の解釈の仕方が独自のものであることがしばしばあります(94条2項110条類推適用法理、基礎事情の錯誤等)。これらの場所で佐久間の森に迷い込まないように注意が必要です。
 総合すると、この本だけ読んでいるとややおぼつかないですが、総則はまずはこの一冊、と言った本です。

・民法講義1総則(山本敬三)
おすすめ度:★★★★★
 民法が得意になりたい学習者全員に贈るバイブル。とりあえず手元に置いておくと威力を発揮する。整理された記述とそれと両立した平易な言葉遣いで、読者を確実に理解させる。論点の目配りも過不足なく、この本に載っていない知識は知らなくて良いです。
 この本の特徴は大きく二点あります。
 一点目は、ほとんどの論点について、要件事実表が付されている点です。これにより、攻撃防御の構造が一目瞭然です。民法は要件事実が問われていても、問われていなくとも、要件事実を意識して思考することが求められます。この本を読んでいると自然と要件事実的なものの考え方が浸透してきます。
 二点目は、記述が完璧に整理されている点です。これより鋭利な文章で書かれた本は世の中に存在しないのではないか、というぐらいには整理されています。無駄な記述も一切ない。素晴らしい。簡にして要を得た文章とはことことです。とはいえ、読者を置いてけぼりにすることもない。
 他の本では絶対に得られないものがあります。読めば分かります。
 最高の基本書の一冊ですが、債権法改正に対応していない点が難点です。山K先生…まだですか…。
 京大ロー生が民法を得意な理由が詰まった一冊です。

物権法総論

・民法の基礎2物権(佐久間)
おすすめ度:★★★☆☆
 物権法総論のスタンダードな基本書です。司法試験に必要な物権の知識を8〜9割カバーしてくれています。佐久間先生の総則と同じような特徴の本です。
 基本的には悪くない本なのですが、「登記を要する物権変動各論」については、各論点ごとに、佐久間先生のお考えが「これが判例である」という見解のもと全面的に打ち出されているか、十分な説明がないか、の二択であり、佐久間本の中でも最も記述にムラがある点には注意が必要です。物権法総論の重要分野がこれではなぁ、という気もしますので、総則よりは一つ星が下がります。
 佐久間物権を読んでて、??となった部分については、安永先生のを読まれると良いと思います。「相続と登記」に関しては、相続法改正の影響もあるので、議論が流動的である点にさらに注意が必要です。良い法教の連載があるのですが、いずれ機会があれば紹介したいと思います。
 総合すると、やはり、この本だけ読んでいるとややおぼつかないですが、まずはこの一冊、と言った本です。

 佐久間本を無条件で称賛するような合格者の書評が散見されますが、そういった書評を読まれる受験生は十分注意してください。これは、佐久間本の悪いところが見つけられるほど佐久間本を読まなかった、あるいは、民法を勉強しなかったということを表しています。恥ずかしいことです。

担保物権法

・講義 物権・担保物権法(安永)
おすすめ度:★★★★☆
 担保物権法のスタンダードな基本書です(本の前半は物権法総論)。カバーしている論点は十分だと思います。日本語が正確かつ明晰で、丁寧な説明でスラスラと読めます。簡にして要を得た文章です。
 執行法も担保物権法を理解するのに必要な範囲で解説されており、その点も魅力的です。
 譲渡担保や所有権留保でやや説明が舌足らずな場面に遭遇しましたが、それを除けば基本的には文句なしの出来だと思います。そういった場面では道垣内先生の本も参考に読まれると良いと思います。
 なお、安永先生は、抵当権設定後の従物について、判例の立場を紹介されていますが、判例の立場をどのように捉えるかについて、やや争いがある点には留意されると良いかと思います。

・担保物権法(道垣内)
おすすめ度:★★★☆☆
 道垣内説を知るための本です。担保物権法では譲渡担保における設定者留保権構成など、道垣内説のインパクトが強く、道垣内先生のお考えを知っておくべき場面が存在します。そういった時のために、辞書として置いておくと良いでしょう。道垣内先生のお考えが強く押し出された本ですので、これを一冊目にするのは避けましょう。

・京大民法第2部レジュメ(山本敬三)
おすすめ度:★★★★★
 山K先生の民法第2部(物権・担保物権法)のレジュメ。実質的に、未だ出版されていない幻の民法講義2に相当します。総則同様素晴らしい出来で、どの本よりも確実に担保物権を理解できます。
 最高の基本書の一冊ですが、受講した京大生に見せてもらう以外に手にいれる方法がない点が難点です。入手難度が高すぎます。山K先生…まだですか…。
 このレジュメのことを「現代日本民法の到達点」と評している知り合いがいました。やや大袈裟ですがその通りだと思います。

 あとは、アルマや松岡先生のものをたまに読みました。それぞれ、他にはない良い記述が含まれていると思います。

債権総論

・債権総論(日評ベーシック・シリーズ)(石田/荻野/齋藤)
おすすめ度:★★★★★
 債権総論のスタンダードな薄めの基本書です。薄いですが論点のカバー力は十分で、受験生のうちに出会う論点の8〜9割をカバーしていると感じました。
 債権総論の基本書というと、いたずらに抽象的で何を言っているのかわからない説明や、結局答案にどのように落とし込んで良いのかわからないような説明に溢れていますよね(しかもやたらと本が分厚い!)。そういった本と格闘して森に迷い込むよりは、こういった薄めの基本書で基本的な事項を身につける方がコストパフォーマンスは高いのではないか、と思います。
 この本では、図が多用されていますし、実際に設例に当てはめると次のようになる、というな説明があったりして、全く森に迷い込むことなく、債権総論の学習を進めることができます。
 この本に載っていない事項は、必要になった際、後述のもう少し分厚い本で調べれば良い、と思います。

・債権総論(中田)
おすすめ度:★★★☆☆
 
分からないことがある時に引くとたまに助けてくれる本です。持っておくと良いです。

・プラクティス民法 債権総論(潮見)
おすすめ度:★★★☆☆
 
分からないことがある時に引くとたまに助けてくれる本です。持っておくと良いです。

・新債権総論Ⅰ、Ⅱ(潮見)
おすすめ度:★★★☆☆
 
プラ民でも分からないことがある時に引くと意外とこっちの方がわかりやすく説明されていたりします。持っておくと良いです。

契約・事務管理・不当利得法

・基本講義債権各論I(契約・事務管理・不当利得法)(潮見)
おすすめ度:★★★★☆
 債権各論のスタンダードな基本書。論点のカバー力にはやや不安が残る。この本のお陰で革命的に債権各論が分かった、ということはないが、とりあえずこの一冊に書いてある内容を覚え始めれば間違いはないという本。
 不当利得の記述では、潮見先生が少し自我を出しますのでその点だけご留意ください。 

・民法講義4−1契約(山本敬三)
おすすめ度:★★★★★
 民法が得意になりたい学習者全員に贈るバイブル。とりあえず手元に置いておくと威力を発揮する。整理された記述とそれと両立した平易な言葉遣いで、読者を確実に理解させる。論点の目配りも過不足なく、この本に載っていない知識は知らなくて良いです。
 総則と同様の特徴を持った名著です。
 他の本では絶対に得られないものがあります。読めば分かります。
 最高の基本書の一冊ですが、債権法改正に対応していない点が難点です。山K先生…。
 京大ロー生が民法を得意な理由が詰まった一冊です。

・契約法(中田)
おすすめ度:★★★☆☆
 
改正分野について分からないことがある時に引くとたまに助けてくれる本です。持っておくと良いです。潮見先生と中田先生では、改正前の判例法理をどの程度活かすかについてやや温度差のある論点があるのが面白いですよ。

・新契約各論Ⅰ、Ⅱ(潮見)
おすすめ度:★★★☆☆
 
改正分野について分からないことがある時に引くとたまに助けてくれる本です。持っておくと良いです。

不法行為法

基本講義債権各論Ⅱ(不法行為)(潮見)
おすすめ度:★★★☆☆
 不法行為のスタンダードな基本書。とはいえ、不法行為の教科書は多かれ少なかれどれもそうなのですが、この本のお陰で不法行為が革命的にわかって答案が書ける、ということはないです。この本は序盤は比較的わかりやすく進みますが、後半はそうでもないです。共同不法行為については極めてわかりにくく書いているし、プライバシー侵害についてはよく分からないことを書いている気がします。とはいえ、代わりにおすすめできる本もあまりないのが悩ましいところです。
 もしかすると、窪田先生の本の末尾の不法行為の要件事実について論じた箇所が答案を書く、という意味では参考になるかもしれません。
 不法行為の答案の書き方は本を紹介するより、実際によく理解している指導者から指導を受ける中で体得していただく方がわかりやすいかもしれませんね。
 よく不法行為は潮見イエローを理解していれば十分、と言いますが、潮見イエローの内容を理解するためには潮見イエローだけを読んでいては足りない、という複雑なことになっています。本当に受験生泣かせの分野です。

・その他つまみ食いした本
不法行為法 民法を学ぶ(窪田)(さまざまな論点に詳しい)
不法行為法(吉村)(共同不法行為に詳しい)
不法行為法Ⅰ、Ⅱ(潮見)(潮見イエローの内容が敷衍されている)
不法行為法(四宮)(賠償範囲の因果関係について詳しい)
民法Ⅴ事務管理・不当利得・不法行為(LEGAL QUEST)(不法行為部分は橋本執筆)(権利侵害要件について詳しい)

親族・相続

・民法VI 親族・相続(LEGAL QUEST)(前田・本山・浦野)
おすすめ度:★★★☆☆
 改正分野について分からないことがある時に引くとたまに助けてくれる本です。持っておくと良いです。私にとっては短答用の本でした。

・詳解相続法(潮見)
おすすめ度:★★★☆☆
 相続法について分からないことがある時に引くとたまに助けてくれる本です。持っておくと良いです。相続法は財産法絡みで出題される可能性があるため、親族法よりは勉強して置いた方が良いでしょう。

要件事実

・完全講義 民事裁判実務の基礎(上巻)(大島)
おすすめ度:★★★★★
 要件事実のスタンダードな解説書。私の民法、民訴法の実力を初級から中級にランクアップさせてくれた本。全受験生が隅々まで読み、隅々まで暗記すべき本です。
 他の研修所の要件事実本に比べて、分厚いですが、その厚さは民事訴訟法の基礎理論の解説や民法の解釈の解説に当てられています。
 試験で直接要件事実が問われる局面はあまり多くはありませんが、大島本に書いていることくらいは暗記していた方が、色んな科目の理解が進んだり、答案が書きやすくなったりと、様々な点で有利ですので、これくらいは暗記しておきましょう。

・紛争類型別の要件事実(司法研修所)
・新問題研究 要件事実(司法研修所)
おすすめ度:★★★★☆
 大島本に加えてこの三冊は暗記します。とりあえず大島本から入り、新問研や類型別も潰すと良いと思います。

・要件事実マニュアル1、2(岡口)
おすすめ度:★★★★☆
 要件事実の辞書。結局、この条文って何を当てはめたらいいんだっけ?となった時に引きましょう。高確率で助けてくれます。持っておくと良いです。
 とはいえ、たまに変なことも書いています。その点は気をつけましょう。「それは違くない?」と思ったことが2、3回あります。

・新民法(債権関係)の要件事実Ⅰ、Ⅱ(伊藤滋夫)
おすすめ度:★★★★☆
 債権法で改正された条文について要件事実を調べたくなった時はこの本が助けてくれることがありました。持っておくと良いです。

以上で民法はおしまいです!

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それでは〜

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