医師国家試験 神経領域の解説C
さて、続けていきます。A、Bともに引っかかる問題があったので、さすがに速報等と照らし合わせることにしました。
REM睡眠のREMはRapid Eye Movementです。
×a 徐波睡眠は、NonREM睡眠のうちsleep stage Ⅲ、Ⅳを指します
×b むしろ骨格筋の活動は抑制されています。この抑制が外れてしまうのがREM睡眠行動障害(RBD)で、怪物から逃げる夢を見て実際に寝たまま走り出したりしてしまうわけですね。運動が抑制されているため、変な夢をみても怪我しないわけです。
×c REM睡眠時に夢を見ると言われています
〇d レム睡眠には脈拍、呼吸、血圧などが不規則に変化します。
×e REM睡眠は新生児期には半分程度を占める一方、成人では20%程度、高齢になると15%とされます。
尖足というのは足関節底屈状態になったまま固まってしまっていることです。ニュートラルの位置から背屈は-20度から動かないのでb
こういう聞かれ方をすると「ファッ!?」となるかもしれませんが、「反回神経麻痺による嗄声」の中身を知っていれば解ける、という問題。内喉頭筋は、声門閉鎖筋、声門開大筋、声帯緊張筋に分けられ、反回神経は迷走神経の枝です。つまり「c」。
なんつーかどんどん「安易な暗記は許さん」という姿勢が強まっている気がする。受験生がんばれ。
これは割問になっていると聞きましたが答えはdですね。
色々な意見もあるようですが個人的には出題者の意図が伝わってくる良い問題だと思っています(が国家試験として適切かというとさすがにキツくないかと思う)。
認知症の診断基準はこちら
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_01.pdf
認知症はいくつかの診断基準がありますが、上記をざっくりまとめると「後天的に、記憶障害と、その他の認知能力(判断能力等)の障害により、日常生活に支障が出ている状態」です。
さて、患者さんは「物忘れ」主訴で来院していますが、問題文が実はよく作られていて、認知症診療をしている人間からすると「あ、こういう感じね」という空気が読み取れるんですよね。
「物忘れ」は本人が心配しているパターンと、家族が心配して連れてくるパターンがあります。ざっくり言って、本人が心配している場合は加齢の範疇の機能低下を過剰に心配したり、不安神経症等の精神症状の表出としての受診行動だったり、が混じっています。家族が心配して連れてくる場合は(この問題文には本人の病識は書いてありませんが)本人はあまりそのエピソードに自覚的でない場合が多くて、この場合はより強く認知症を疑います。
で、どの程度の物忘れかというと財布をしまったことを忘れる。うん、これはまぁ僕にもある(笑)。ただ食事をしたことを思い出せない、となるとまぁまぁな記憶障害がありそうです。高齢者のうつが認知症と紛らわしいこともあるので、うつの評価も同時にした方が望ましいですが、積極的にうつを疑うエピソードは問題文中にありません。
ということで、既に記憶障害としてはまぁまぁなものがありそうで、認知症の蓋然性が高そうな患者さんの診断として有用な検査はどれか、という問題になります。
こういう試験問題の原則として「ワンベスト」という考え方があります。「これもあれも考えようによっちゃー外せないよね」みたいな選択肢が複数あっても、「まぁこれでしょう」という選択肢が1つあればそれを選ぶ、というものです。
認知症の評価スケールについてはこちら。
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf
Wechsler成人知能検査(WAIS)は全般性脳機能検査で、記憶障害だけでなくその他の認知能力を評価することもできます(なお最近WAIS-ⅢからⅣに改訂され、言語性IQ・動作性IQという概念がなくなりました)。ので、「後天的に、記憶障害と、その他の認知能力(判断能力等)の障害により、日常生活に支障が出ている状態」を証明するためにはこの5つの選択肢の中で最適と判断できるでしょう。
Wechsler記憶検査(WMS-R)じゃないの?という意見もありましたが、「記憶障害と、認知能力の障害」の両者が重要、というメッセージなんちゃうかな、と思っています。
ただね、WAISもWMS-Rも時間かかりすぎるんですよ。
もし試験が「まず行う検査はどれか」だったらWAISは選べません。
まぁ普通はHDS-RとかMMSEやりますわね。
と、こんだけ熱く語りましたが、採点除外になるかもしれません(笑)
これも現場がありありと分かる問題ですね。
「頭をぶって頭が痛い」という高齢者が来た時には、背景をよくよく聴取して、背景を考えて診療しましょうねというメッセージです。
薬の管理が怪しい、パーキンソン様症状?、息子が患者の状態を全部把握しているわけではなさそう、若干HbA1cが高い、頭部CTでは頭蓋内出血なし。パーキンソン様症状の原因は脳血管性パーキンソニズムですかねぇ?既に両側慢性硬膜下血腫を発症していてそのために小刻み歩行になり転倒を繰り返している…というパターンも実臨床では割とあるんですが、今回は頭部CTで否定されています。
×a 薬の管理が怪しいため、認知機能障害の有無は確認すべきです。
×b どんな内服をしているのかは何にしても要チェック。睡眠薬でふらついたかもしれないし、HbA1cが若干高いのは、ひょっとしてもっと高くて他院で血糖降下薬を出されていたかもしれない…とかいろいろ想像できます。
〇c A1c高値だからですかね?さすがにこの件の根本的解決にならないですし、極端に太っているわけでもないし、内服薬をしっかり把握しないと逆に危ないかもしれません。
×d 訪問看護を依頼して、家での生活の問題点を洗い出してもらったり、服薬管理をしてもらったりで生活が改善する可能性があります。
×e 頭部打撲後の鉄則の説明ですね。
そんなわけで「c」
魚や乳製品の接種不足ということで、dのビタミンDですね。Caが低めなのもヒントになってます。骨軟化症や筋肉痛、筋力低下、骨痛などを引き起こします。厳格な菜食主義ではビタミンB群の欠乏が起こることもあります。B1欠乏のWernicke脳症、B12欠乏の末梢神経障害や亜急性連合性脊髄変性症も忘れないで。
はい。よくこんなん国試で出しましたね。
×a, b 突然変異が4割程度いるとされていますので、母親が保因者とは断定できません
×c 保因者の女性で(疾患を持つ男児ほどではないが)軽度の筋力低下等を呈する場合があります
×d 〇e MLPA法の遺伝子解析で異常が出なくても、筋生検で解析を行い診断に至る場合があります。
神経内科専門医試験で出す問題と間違えたんじゃないか?
まず行うべき対応、というのは優先度が高いものです。
〇b, cですね。酸素投与と、痙攣をしているのでそれを止めなければいけませんからジアゼパム投与が必要です。
×a これらの治療なしに頭部MRIに行くのは危険です。特に痙攣なんてしてたらMRIなんて撮れないでしょう。
×d レントゲンはすぐ取れますが、b,cより優先度は低いです。
×e 高圧酸素治療ができる施設は限られています。
とりあえず低Naと尿中Na高値と尿浸透圧>100、副腎・腎機能が正常、実測の血漿浸透圧は書いてないですがNa低すぎるしBUN、Gluは正常範囲なので低浸透圧です。ADHのことは書かれてないためSIADHの診断基準を厳密には満たしませんが、SIADHでしょう。
〇d
これは知らないと解けませんが、カルバマゼピンの稀な副作用としてSIADHがあります。〇d
SIADHといえば水制限!と思いきや、「血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経系症状を伴うなど速やかな治療を必要とする場合は、3%食塩水を点滴にて投与する」ため答えはb。
いやこれむずくないか…
なお、カルバマゼピンはSIADHにならなくても、高齢者でふらつきを起こしたりすることがあるのと、薬剤の相互作用に注意が必要なんです。特に問題文にある「ワルファリン」の効果を減弱させることがあります。その他にもいっぱいあるので、高齢者に処方するときは必ず相互作用をチェックして。
但し薬価が低く、てんかんの部分発作・部分発作の全般化の治療薬として第一選択の薬なので、敬遠しすぎることなく適切に使いたいものです。実はつい最近、これに関連したツイートをしてました。
ALSで球麻痺症状を来している患者さんの問題ですね。
〇a,e これらは保たれます。(体動が著しく減ることによって相対的に便秘気味になることはあり得ますが…)
〇d
在宅療養に向けて、どれほどの嚥下機能が残存しているかをチェックし、必要があれば側臥位を利用した嚥下法等の工夫をする場合もあります。ただしそれなりに進行のスピードが速いため、在宅に移ってからも、適宜食形態等の検討は必要になります。他は診断(あるいはその参考)にする検査ですね。
〇a,b,eですね。球症状が出てくると発声に支障が出たりするので、コミュニケーションボードや視線を使ったコミュニケーションツールなどを習得すると良いです。筆談もすぐに限界を迎えたりするので、そうなると身体が不自由なだけでなく意思の伝達が上手くできないことによるイライラ感、QOL低下、家族と距離ができてしまう、といったことが起きます。ALS患者さんのコミュニケーション手技習得はかなり大事。口腔ケアと住宅改修はまぁ、言うまでもないですね。
×c ALSでは過負荷となる運動・リハビリはかえって逆効果と言われています。リハビリテーション、なら〇ですが筋力増強は×という判断で良いでしょう。
×d 排尿障害の記載はないしALSでは尿閉にならないですし、導尿の手技習得は上肢機能的に難しいでしょう。