見出し画像

蒙古【ss】

モンゴリアの人々は
一家族ひと家族ごとに
あらゆる生活を抱えて
大陸中を
羊たちと共に移動し
その自然と一体となって
暮らしていた。

家族以外と交わる機会は
極々、稀だった。

自然を相手にする上では
巧みな話術など必要なく
しかし
感応道交の能力は優れていた。

自分が何処に居て
次はどこに行けばよいのか、
必要な物や情報を持つ者と
自然を介して繋がっていた。

その力によって
大地も
大空も
生きるための
あらゆる問い掛けに
応えてくれたから
どこでも生きていける。
いや、
だから生きていけた。

時代が進むにつれ若者は
変化の無い毎日に
不満を募らせ
そこにない何かを求め
毎日を送った。

世代が進むにつれ
異民族との交流から
食糧や道具を
安定して生産する事が
生活を豊かにすると考え
定住する若者が増えていった。

大きな集落になるほど
言葉を介して
人と交わることが
必要となる。

言葉を巧みに操る事で
感応道交の力は
次第に失われた。

集落に一人
その力を持った者が居れば
心の安寧は
保たれていた。

しかしその者も
人里の中で
力が衰えて
人々もまた
その力を必要とせず
ただ昔の記憶として残った。

その間、
集落は大きくなり
定住による弊害として
土地の力は衰えた。

また、
災害を避けることも
難しくなった。

そのような時
他人の富を奪うことで
苦労もなく
いや
汗を流して大地に向かうより
多くの財を得ることを覚え
それが拡大し
隣から沢山
確実に奪うため
武民が生まれ
自分の武力を売る者も
現れる。

こうして
大きくなった人口への
利便を図る官民
守護する軍民が生まれる。

統治は、
支配と被支配を肯定し
いつしか守護するという
契約は消失し
支配者としての権力を
守る仕組みに変遷していく。

定住により豊かな
安定した生活は
文化を創り
高速強力な武力の移動は
版図を拡大し
同じ言葉を用いることで
文明が広がる。

武力の占有は
支配の恒常化に繋がり
共通の言語を通じて
文化文明は共有され
さらに文化は隆盛する。

知の再生産のために
より大きな富を得る
その機会を求めて
教育が進むと
統治者はその中で
自らの安定という要素
つまり批判する力を削ぐ
思考力創造力の制限を
根付かせていく。

仕組みが巧妙になるほど
役割の分化は進み
統治に関わる
文武の人材が増えるほどに
腐敗は進み
末端から中央へと
壊死していく。

その惨状を憂う者は断罪され
人民は忍従するのみ。

腐敗はシステムを形骸化し
抜け殻をまとった支配力は
じわじわ低下し
統治者に不都合な思想は
徹底して弾圧され
恐怖を植え付けられた
人民のみか
支配者までもが
疑心暗鬼となる。

いいなと思ったら応援しよう!

カエル少尉
サポート、ありがとうございます。もっと勉強して、少しでもお役に立てる記事を送りたいと考えております。今後ともよろしくお願いいたします。