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風鳴り.mic9

今夜の裏山は
風鳴りに騒がしい。

故郷、長崎の街を離れて30年を超えた。
小学校入学までは
海を見下ろす丘の中腹の
古い一軒家に住んでいた。

風呂場もトイレも
戸外にあった。

井戸水も
下の畑に居りて
つるべで汲み上げていた。

ここに住んでいる頃の音は
丘を登って来る
町工場で鉄板をたたく音
昼休みや終業を告げるサイレン
入り江を出入りする市営船の汽笛。

それから半世紀以上経った今
裏山の風鳴りを聴いている。

仕事を終え
帰宅しての入浴は
一日の終わりにふさわしい時間。

今日は窓の外
風鳴りが聞こえてきた。

目をつぶると
自分までも山になった気持ちになる。
からだはお湯に溶けてなくなる。
なんとぜいたくな時間だろう。

そうしたくとも
できない人がたくさん。

わたしも入院して
ベッドから降りること
トイレにも行けないときがあった。

望んでそのような状態になったわけで
あろうはずもない。

今、
山鳴りを聴くわたしは
望まない境涯を生きている人を
しずかに
おもう。

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かえる翁じ
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