1000年先まで残したい。そのために今、何が必要?
日本の伝統工芸が時代とともに衰退していることは、売上高や職人の減少など、数字を見てもあきらかな事実です。これから100年先、いえいえもっと1000年先まで残したい匠の技。どんな工夫をしたら、時代の変化に対応していけるのでしょう。
必要なことは何か。BANZAI視点で考えてみました。
ミシュラン★評価。見習いたい世界共通のわかりやすさ。
三つ星評価で有名なミシュランガイドは、フランスのタイヤメーカーであるミシュラン社が発行する100年の歴史を持つガイドブックですが、レストランやホテルの評価に対する影響力は絶大。単なるガイドブックにとどまらず、業界の活性化に大きく貢献しています。
このミシュランガイドで注目したいのは、★が多いほうが評価が高いというわかりやすさ。子供でもわかる、国が異なってもすぐに理解できる、単純明快な仕組みと表現方法です。
日本のものづくりは、職人の存在や技術に対する評価が社会の中に浸透していないのが悩みどころだと思います。優れた職人の手仕事よりも、100円ショップの便利グッズのほうが興味を持たれ、ネットでは買ったばかりの商品が次々と売り買いされて、いいものを長く愛用するという習慣は失われてきていますね。それも時代の流れと受け止めて、マーケットを広げ、積極的に世界へと視野を広げていくことが必要だと思います。
世界をターゲットにすると、日本固有の文化や芸術、優れた技術を高く評価する人は何倍にもなります。そこに、ミシュランのようにわかりやすい表現方法での評価があれば、作品の価値も伝わりやすく、何よりも職人の技術が見える化することで信頼と安心、ブランド力が高まります。あとは、購入しやすい環境があればいいだけ。ネット社会が加速するこれからの時代、世界はもっと身近になってくるはずです。
ところで、ミシュランガイドの評価基準はどうなっているのか?
調べてみると、まず星の基準は“料理”のみで、5つの観点から審査されるそうです。
• 素材の質
• 調理技術の高さと味付けの完成度
• 独創性
• コストパフォーマンス
• 常に安定した料理全体の一貫性
この評価基準、ものづくりにも、通じるものがあるように思えます。
参考にすべき点がたくさんあるミシュラン評価、BANZAIにとってもこれからチャレンジしたい大きな課題です。
「コラボ」「海外向け」商品開発に期待!
世代交代で次世代職人が活躍の兆しをみせる工房では、異業種とのコラボやキャラクターデザインを取り込んだ作品作りを行うなど、新しいことにチャレンジする動きに期待が持ています。
伝統工芸品は古い、そんなイメージを払拭するには、今の時代にマッチする新しい試みも必要です。ネット世代、スマホ世代の作り手が手掛ける“今”をとらえ、遊び心満載で表現する“コラボ”作品は、若い世代へのアプローチに効果を発揮しています。コラボ商品から伝統工芸のことを知った人、関心を持った人もいますよね。きっかけづくりが必要なんだと思うのです。
こんな技術と一緒に作品作りをしたい。
あのキャラを表現したい。
異業種のデザイナーと組んでみたい。
若い世代のアイデアを取り入れたい
そんな作り手の声を届け、実現させる繋ぎ役になることもBANZAIが課題にしている一つです。
反対に、こんな商品があったらいいな、という消費者の声に応えていくことも大切。マーケットを海外に広げるのであれば、外国人が好むもの、望むものを知り、対応することも必要です。
例を挙げると、今、南部鉄の急須が3年待ちといわれるぐらい人気があるそうです。黒くて渋いイメージの商品だけでなく、海外向けに数色のカラフルラインが開発され、見た目がおしゃれで、造りは重厚で丈夫。日本よりも高い金額で販売されていて、それでも売れ行きは上場という記事を目にしました。
海外に視野を広げて販売していくには、海外のニーズに応える作品づくりも必要になってきます。これは、伝統工芸にだけ言えることではなく、すべての生産者に共通する課題だと思います。
一方通行のアプローチから、リアルなコミュニケーション時代へ。
作品づくりを行う工房では、制作を体験できるところがあり、伝統工芸を知るきっかけづくりの場になっています。最近はホームページだけでなく、手仕事の様子を動画にしてネット上にアップする工房も増えていて、世界中に日本の伝統工芸の魅力を伝える動きが見られます。時代に即した方法で、きっかけづくりが広く行われていくのはとてもいい傾向だと思います。
それでは、さらにこれから先の“時代に即した方法”とは?
以前、記事にしましたが、5Gが導入されると、工房や職人と世界中の消費者がもっと身近にコミュニケーションをとれる時代がくることが予測されます。今までの伝え方は作り手からの一方通行的なものでしたが、そこから一歩進んで、ネットを活用したリアルタイムでのコミュニケーションが実現できるようになり、世界中の人と会話しながら作品を販売したり、宣伝したり、後継者や仲間を集めたり。そんな時代は間近のような気がします。
コミュニケーションの方法は時代に即したやり方に変えていくことも必要ですが、テクノロジーが進んでもやっぱり人ありき。この先もずっと変わらずに大切にしたいと思うのは、人と人との関わりです。だから作り手の“見える化”から、次は作り手と“つながる化”をテーマに。これは必要なことというよりも、1000年先まで続いてほしい、願いでもあります。