せいかさん_表紙

心のままに糸を繋ぐ。無心に織る。人をHappyにする機織りアーチスト

12月に入り、世間はなんとなくザワついている。
師走の挨拶まわりをして、忘年会に参加して、年賀状書いて、大掃除して、バーゲンセール…。
知らないうちにスケジュールがいっぱいで、時間に追われている。街のイルミネーションの人工的な輝きもキレイだけどまぶしすぎて苦手…。

心からあったまれるところに行きたいな。

そんなふうに感じる人は、私が訪れた「空と海」の話に興味を持ってもらえるかもしれません。

「空と海」は社会福祉法人地蔵会が運営する障害福祉サービス事業所です。
23年も前から、ものづくり、身体づくりを行いながら障害のある人たちが居心地のよい場所であるための運営を続けています。
現在は、目の前に梨畑が広がる自然豊かな土地に、紙漉きと木工、機織りや刺繍など布を使った作品を作る工房と完成した作品を展示、販売するギャラリー、そしてレストラン「らんどね」の3つの施設があり、約50名の通所者が日々、作品制作作業を行っています。

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ここに通ってくるのは、知的障害、身体障害、精神障害をもつ方です。10代から50代の方々が年齢に関係なく、それぞれが好きなもの、得意なものを選びながら、笑ったり、歌ったり、しゃべったり、時には喧嘩したりしながらも毎日、制作作業に励んでいます。

「居心地がいいね」「あったかいね」

ここを訪れた人は、きっと、私と同じように初めて来たとは思えない居心地のよさを感じるのではないでしょうか。「空と海」には、どんな人も受け入れてくれるような温かさがあります。干渉しすぎず、ほったらかしにもしないちょうどいいい温かさ。急がなくていいよ、ゆっくりやっていこうよ。気ままとも思えるそんな寛容さにも、安らぎを感じます。

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無名のアーチストともいえる通所者の皆さんが作品作りを行う工房では、わき目も振らずに夢中で糸を色分けする人、歌をうたいながら絵を描く人、おしゃべり(独り言かな)して布を切る人、無心に機織りする人。皆さん、かなりマイペースです。

職員の方に伺うと…
ここでは、自分がやりたいという意思を尊重しています。もっとも、興味のあることにしか集中しない人が多いですから(笑)。やることが決まったら、私たち職員が少しだけアドバイスすることがあります。でも、ほんの少しです。あとは皆さん、其々のペースで進めているんです」
一つの作業に集中する人もいれば色々なことに興味のある人もいる。手を動かしている時間も毎日まちまちで、厳しい決まりなどないらしい。
だからでしょうか。ここでは時間がゆっくりと流れているように感じられます。

今回は、この雰囲気を壊さないように、私もゆったりペースを楽しみながら取材を進めていくことにします。

好きな糸を選んで紡ぐ。予想不可能な“せいかワールド”に、わくわくがとまらない!

工房に通所される皆さんはとても個性豊か。作品への取り組み方も千差万別です。その中で、ひときわ目を惹く機織りの作品を作り続けている女性がいました。せいかさんです。

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「楽しそうですね」と声をかけると、「うん、楽しい」と愛らしい笑顔。
せいかさん、何を作っているの?
「……」
「いろんな糸があるね。好きなのを選んでいるのかな?」
「そう、好きなの」
とっても真剣な表情。糸を結ぶ手を忙しく動かして、制作に夢中の様子。職員の方に伺うと、色々な作業ができる中でも特に機織りは集中して進められるそうです。多くのことに器用に対応することはできなくても、
何か一つ、夢中になれるものがあれば人は輝ける。そこから可能性が広がっていく。
何かの本に書かれていた一説を思い出しました。せいかさんにとって、機織りは自分が夢中になれる楽しい作業であり、自分の感性を表現することのできる大切な宝物なのかもしれません。作品を素晴らしいと言われた時の、なんともうれしそうな表情。とってもいい笑顔です。

せいかさんの作品は、素材の組み合わせが独創的です。この不思議な色合い、異素材の組み合わせはどのようにしてできるの? 色の組み合わせに決まりはあるの? 等々、完成した作品を見ていると謎は深まるばかり。興味深々にせいかさんの作っている様子を、今度は静かに、観察させていただくことにしました。

■せいか流機織りは…
糸を適当な長さに切って、まったく違う糸と結ぶ。これを繰り返していくと見たこともない多色、多素材が交じり合う1本の糸が生まれます。どういう基準で糸選びをしているのか…。交じり合った色は共通性がなくて、不思議な糸の集合体ができました。ここからどんなものができるのか…。不思議さはますばかりです。

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糸選びは、色や素材を最初から決めているわけではなく、思いついたまま結びつけていく。多種多様な不思議な組み合わせが面白い。

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どんなふうに仕上がるのか。幅やボリューム感が統一されていないところも不思議に魅力的。

■作品を購入する人は?
カメラに向かい笑顔を作ってくれたせいかさんは、とても明るくて人懐こくておしゃべり好き。けれど、機織りを始めるとその表情は一変して、熟練の機織り職人の顔つきです。どのくらいのペースで作品を仕上げているのか、気になる生産性について伺うと…
「販売重視ではないので、彼らの自由なペース優先で進めています。だからいつ完成するのか、どのくらいの数を作るかなど、決まりもありません。作品の完成も、まぁこの辺で…となんとなく様子を見ながらフィニッシュにしているんで、いつ完成するか予測がつかないんですよ」と職員さんが笑いながら教えてくれました。

さらに「それでも、完成するまでいくらでも待つ。待ってもいいから彼女の作品がほしいというお客さんがいます」とのこと。
斬新だけど、とんがってない。愛おしささえ感じる作品に心を奪われるせいかファンは確実に増加中のようです。

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自由な発想、想像力を全開にして作品を楽しむ。

彼女の作品を説明するのは難しいのです。わかりやすい言葉で伝えようとすればするほど陳腐な表現になってしまい、さらに作品自体を型にハメてしまうようで…。あえて言うとすれば、自分自身の想像する力を全開にして楽しませてくれる作品です。
せいかさんの作品ファンのお客さんについて伺うと、「1点ものにこだわったり、個性的なものを好む方が多いですね。マフラーとして首に巻くだけでなくベルトのように腰に巻いたり、バックにまきつけたり。使い方もいろいろ工夫されて楽しんでいるようです」

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固定概念や常識を取り除くと、作品は発想次第で様々なアイテムになり、何倍もの楽しみ方を見つけることができるようです。せいかさんの作品を手にすると、わくわくする遊び心が膨らんできます。彩り豊かな作品を身に纏い、ちょっとした冒険を楽しみたくなります。だから、いつできるかわからなくても、出来上がりを待ちたくなります。待っている時間もわくわくして楽しいから。まるで、作品に恋をしているみたいですね(笑)。

障害をプラスに変える“居心地のよい場所“

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最後に、今回ナビゲートしてくれた事業所のサービス管理責任者である奥野瑠一さんに、「これからの“空と海”の目標や計画は?」と伺いました。

「通所者さんがただ繰り返し作業をするのではなく、自分からやる気を出して取り組めることを探しながら今のスタイルになりました。これからも、それは変わらないですね。大きな目標?…変わらないことですかね。ずっと彼らにとって居心地のよい場所でありたいと思っています」

障害をプラスに変えるには、環境も重要なファクターになります。そして、温かい眼差しで見守ることも。どんな環境がベストと言えるのか、その答えを見つけるのは容易なことではありませんが、「居心地のよい場所」があることは、障害がある、なしに関わらず、私たちが生きていく上でとても大切なことだと改めて気づかされます。

自分が心地よいと感じる場所、受け入れてくれる場所があれば、ハッピーになれる人がたくさんいます。そこから生まれた作品は、人を幸せな気持ちにさせてくれる、幸せってそんなふうに連鎖していくのかもしれません。

今度また「空と海」を訪れたとき、せいかさんの新作は完成しているでしょうか。のんびりと待つことにしますね。

せいかさんの作品はギャラリーで購入できます。
営業時間など、事前連絡が必要です。
アトリエ「空と海」HP:https://www.jizokai.com/blank-2
レストラン らんどねHP:https://www.jizokai.com/blank-1

せいかさん裏 

Writing : Rie Maeda



















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