えねーちけーアーカイブス #154 井祝町奇譚[R-1]remix
ながちろのオンライン作品を掘り出して再利用しようというNHKアーカイブス。第154回は「井祝町奇譚[R-1]remix」。
SNS以前のネット文化についてはどっかで生き証人として取り上げてみたいと思っている。つまり、わりあいに明確な個人がサイトを立ち上げて、その周辺に人が集まってなんやかやサークルを形成している状態。ネットワークではあるが、ソーシャルではない。この表記が正確かどうかは誰かの判断を待ちたい。
前世紀末に福神町プロジェクトというものがあってな、架空の町「福神町」にまつわるエピソードを持ち寄ることによってオンライン上にじっさいに町を顕現できないか、という試みであった。ちょっと調べたらざっとした顛末について書かれたサイトがあったが、関わっていた藤原カムイがウルトラジャンプで「福神町奇譚」を連載するに至る。筆者が知ったのは単行本が出たあたりで、当時ビビリの大学生だったので、この流れで福神町そのものに参加することはなかった。
で、このシステムをやってみようと思ってGREEのコミュニティでしばらくやっていたのがこの「井祝町奇譚」であり、過去のログを3000字にリミックスして出した、という作品が本作でございます。舞台の想定としては月島とか、明治時代あたりに埋め立てられて、関東大震災で孤立した、みたいな、総じて平べったい地形。この辺の上下水道のつくりかたとか、ずいぶん調べた記憶がございます。
さて、どっちに話を転がそう。ソーシャルでないネットワークサービスは楽しかった。若かったからというのも当然あろうが、ソーシャル、つまりゃ「人とつながること」が目的になると急につまんなくなる。もっとコアな、おんなじような感性の持ち主が少人数であつまってディープなことをし、年に一回くらい各村の対抗戦で運動会をやるくらいが精神的にも「ちょうどいい」はづなのだ。
かつて文藝サイトをやっていましたが、その文藝サイト対抗で小説を戦わせるなどしていましたが、規模が大きくなって、関係各所に配慮しなければならなくなった時点で急に面白さの濃度が減っていく。なんでそんなことまで説明しなきゃならないの? がモチベーションを下げる。SNS以前のネット民の生き残りとしては、SNSの最大の悪行って「純粋に楽しむことだけに集中できる環境を奪った」ことなんじゃないだろうかしら。
今、もういっかいSNS以前のディープな感じに戻るとしたらなにか出来ることはないのかな。真面目に考えてみる価値はあるかと思う。多分そっちのほうが絶対的に楽しいはづだ。
「福神町」「井祝町」……ただ、当時から25年近くを経たおっさんの意見としては、まったく興味のない層からは「それ、なにが面白いの」といわれてしまうタイプのコンテンツであることは、わかる。創業した人間たちだけ。新規参入者が入りにくい、という問題はかならずついてまわる。
ただその一方で「なにをしたら楽しいか」という問題のとっかかりにはなるかもしれない。ならないかもしれない。
みなさんのおかげでまいばすのちくわや食パンに30%OFFのシールが付いているかいないかを気にせずに生きていくことができるかもしれません。よろしくお願いいたします。