備忘録|創業時の資本政策
銀行口座決済の当たり前を変えるPay By Bankを磨いている、BANKEYの阪本です。今回はこれから日本で起業しようと思っている創業者の方に向けた備忘録です。
序章:銀行員と資本政策
元銀行員ですというとファイナンスにとても詳しいと思われがちです。財務諸表作るとか読み解くとかは大変得意ではありますが、実際のところエクイティについては正直怪しいです。
必死に、磯崎さんの「起業のエクイティ・ファイナンス」や先人たちの各種Tipsを読んだりしながら学んでいます。
事業や組織づくりについては相談に乗ってくれるベンチャーキャピタルの方々も資本政策については基本的に利益相反(当然ながら、起業家のモチベーションを維持できるギリギリ安値で買いたい投資家側と起業家側では相反します)の関係にもなります。
しかし、資本政策は後戻りできません。話はそれますが住宅業界においては「マイホームは3回建てて初めて理想の家が出来る」といった格言があるそうです。「資本政策も3回起業して初めて理想の…」と言いたいところですが重みが違います。しかし元銀行員、2回の起業で2回ともやらかしてます(なお、1回目は完全に失敗。2回目については個人的には失敗と思っていないのですが、説明コストが高すぎるという問題があります)。
本題:資本政策って
文字通り「政策」です。田所さんの「起業大全」によれば、「資本政策とは、中長期的な事業計画を前提に、株主構成、発行株式数、資金調達などについて検討し、いつ、誰に、どのような手法で実施していくかを計画していく財務戦略のこと」、言い換えると「資金と経営権のバランスをとるのに最適なストーリーを作ること」です。
1回目の起業における失敗
1回目の起業は3人での共同創業で、48:26:26の比率で分けました。3人の共同創業者のうちCEO(48%)ともう1人が合意すれば48+26=74%で物事をスピード感をもって進められると。
しかしながら、共同創業者の1人が退任した際に、その持分をCEOに寄せてしまったが故に74:26になり、CEOの暴走を止めることができない状況で、最終的には会社を去ることになりました。
振り返ってみると、中長期的な事業、業務の役割分担といった計画に関する議論が十分になされないまま、その後の株主構成についても見通しが立たないまま創業の意思決定をしてしまった失敗です。
スタートアップはスタートしないと価値を生まないので出来るだけ早くスタートするために評価を先送りするJ-KISSやSAFE、Convertible Noteといった手法があります。ただこういった手法の議論の前に中長期的な計画を握って誓うといったプロセスがとても大事。
教訓:よーく(事前に)考えよう、おカネ(資本)は大事だよ。テクニカルな手法の議論の前に根幹部分を。
2回目の起業時の後悔
2回目の起業は割と突然にでした。中長期の事業プランを練りながら、1回目の起業時にお世話になった方々への説明(1回目の起業の会社を退職して新たに起業することなど)と並行して最初の資金調達をしなければなりません…同時に元銀行員的には出資してもらったおカネは借入ではないのですが、借りたカネは返す(貸したカネは返してもらう)という思想が非常に強く、お世話になった方々へ少なくとも1回目の起業時に出資いただいたおカネの元本だけでもお返ししたいと考えていました(誰からも要求された訳ではなく)。
そこで、創業時の株式の一部をお世話になった方々にあらかじめお渡しして応援してもらおうと考え、事業プランのご説明と合わせて株主になっていただくことをお願いしました。
が、創業時に対象企業の普通株をお持ち頂いた(私の持分を譲渡した)ことで、1回目の資金調達後に創業者兼CEOである私の持分だけを見ると、通常のフィンテック企業が3回くらい外部から資金調達した後くらいまで低下することになりました。個人的には、外部株主とは言え譲渡してお持ち頂いた方々とはきちんと通じているので問題ないと思いつつも、やはり外部の目は厳しく、その後大変苦労することになります(ひーっ)。
もう少しテクニカルな手法について視野を拡げ対応すべきでした。当時の自分にアドバイスするとすれば以下のアドバイスをします。
「事業と個人の思いは切り離しなさい。つまり事業を動かす株式を、個人の思いを果たすために使ってはいけません。コストはかかるものの個人で持株会社を作って、事業の株式をその持株会社で保有した上で、持株会社の株式をお渡しするようにしなさい」
です。無知だぞ1年とちょっと前の自分…
(この他にも100万円の資本金で創業するときに、50万円だけ資本金として残りを資本準備金とすれば良いところ設立時に全部資本金にするとか細かいお馬鹿なことをやらかしてます。「おちつけ」)
次に起業するときにはどうする?
といったところで後悔してもどうにもならないので前に向けて進んでいくしかありません(例えばテクニカルな話で言えば中間持株会社を作ってみたいな話は交渉すれば出来なくはありません。が、交渉相手にVCなどが入っていると基本的に受入しては貰えません。VCの場合、担当者がYesといってもその裏側にいるLPへの説明がつきませんし、そういった浅はかな投資先に投資したという事実はマイナスにしかなりません。多分)。幸いにも2回目は失敗ではなく後悔レベルです。ただ、これから起業しようかなと思っている人の役に立てばということで、3回目の起業をするとしたらのテクニカルな手法を記録しておきます(2024年11月時点の税制を前提にしています)
(1)会社の設立
仮に100万円で会社を設立するとした場合には資本金を40万円、資本準備金を40万円の80万円でまずは会社を設立します(1株1円)。
設立したら間を空けずに株主総会を開催して新株予約権を20万円分発行して有償で創業者個人に割り当てておきます。この時に新株予約権を柔軟に譲渡出来るように設計します(例えば代表取締役の承認でOKや取締役の過半の承認など)。
このときの新株予約権の評価ですが、業種にもよりますが従業員5人以下の「小会社」であれば純資産評価が出来るので株価1円を基準に算定することができ、基本的には1円とすることができます(実際にやるときには専門家の意見を取得して下さい)
(2)SOの発行
税制適格SOの発行は発行ですれば良いのですが、結局新株発行になればその分希薄化するため、投資家に対しては合理性を説明することが必要です(一般的には10-20%程度は認めてもらえることが多いと思いますが)。ただ、設立時に新株予約権を譲渡可能な形で有償発行しておくことでこの部分の希薄化問題を解消できます。要は新たに新株予約権を発行するのではなく、あらかじめ創業者が新株予約権を持っておいて譲渡契約を都度締結すれば良いのです。有償発行しているため純粋な有価証券としての取り扱いになります。
留意点としては、譲渡時の評価額の算定は必要です。1円で取得した創業者が1年後に従業員に譲渡する場合、譲渡契約は1年後の新株予約権の評価額を元に締結されることが必要です。当然非上場株式であり評価には専門家の助言が必要になります。例えば評価額が新株予約権1個=10,000円とすると、10,000円で譲渡すれば、創業者には9,999円の譲渡益が発生します。逆に5,000円で譲渡すれば、創業者には▲5,000円の譲渡損を計上できる可能性があります(ここの個人の税金の扱いは特に専門家に確認してください)。なぜなら純粋な有価証券だから。このあたりが問題になったのが信託型SOだと思っていまして、譲渡時の評価をしなくても良いというスキームだったので変なことになったのかなと。
ただ、もう1つ重大な問題点としては過去の自分に事業と個人を切り分けなさいとアドバイスしながら、このスキームは完全に事業と個人を一体で見ているという点です。なので、創業メンバーへの譲渡であるとか割と初期のフェーズで活用して順調に事業が進んでいけば通常の形にアラインしていくような対応が必要になるでしょう。
といったところで役に立つか分かりませんが、備忘録でした。