活動記録と応援の声の存在(ゲームマーケット2023秋、出展備忘録)
(最初におことわり)
本記事は12/10(日)サークル「番次郎書店」店主バンちゃんが日曜出店の際に感じたこと、準備したことなどを書き綴ったものです。
・1日目土曜を含む会場全体のレポートではありません(わかりません)
・誰でもゲームマーケットで完売できる!必勝法!的な記事ではありません(こっちもわかりません)
以上、ご了承ください。
序 1年ぶり
僕のスタートは決まってその年のゲームマーケット秋が閉会した瞬間から。
脳の中の創作アイデアや準備、調整などの履修事項をすっからかんになるまで出し切った、その瞬間だ。この時点で、次回作どころか、来年また出展できるかどうかなんて未知のままだ。
「来年もお待ちしています」の応援の言葉にはいつも「来年も出られるかなんて私もわからないっス」と返していた。
そんなさらっさらの身体と脳内から、約一年ほどじっくり時間をかけ、今年もまた有明東京ビッグサイトへと戻ることが叶った。
自分に都合の良いアドバイスが並ぶ占いだけを拾いながら、新刊本の物資両面に加え、フィジカル、メンタルの調整もおこたることなく磨きをかけた、
……はずだったが、結局本番前夜ギリギリまであれこれとペンを握り、クイズを作り、デザインにイラストに、と準備を整える羽目になった。
生活周りも含め、お世辞にもメンタルが調整できたとは言いづらい。
1 当日朝
1.1 到着まで
土曜日までぎっちりとバイトが入っていた僕は、前日も24時の帰宅となった。
そのため、土曜のタイムラインを追うことが一切できず、入場がスムーズだったこと、人の入りが体感としてとても多かったこと、などをあくまで雰囲気で追うことしかできなかった。
疲労したはずの体ではあったが、不思議と当日は4時半に目が覚めた。
いつものように4コマを更新し、朝食を普段より多めに取り、熱めのシャワーを浴び、ここまで特段緊張することもなく、ささっと身支度を整えた。
午前8時、有明東京ビッグサイトに到着。この時の気温は10度くらいだっただろうか。上着一枚を羽織っていた分だけ暖かい。
橙色のハッピをまとったスタッフの案内に従い、そのまま出展者入場口へと進む。
この時間で、すでに来場者の列は入口から長く伸びていた。感染症禍以前の、土曜朝の同じ時間くらいの印象だ。
そそくさと荷物を掌握し、一人、作業に取り掛かる。
1.2ブース設営
配置場所は西1・2ホールの通用口近くということもあり、入口からの強風を心配し(※結果として大きな風や揺れなどもなく、この心配は杞憂に終わった)足場の不安定なポスタースタンドは持ち込みを控えることにした。
荷物の入った段ボールを横に倒し、それを二つ繋げる形のブースを組み立て、その上に見本となる本を置いた。
あらかじめサイズを確認し、ダンボール二つ横に並べた長さが、支給される長テーブル半分ほどの長さとなる。
この設営の一番のメリットは「片付けの際に捨てて帰ることができる」こと。
持ち帰る荷物の重量さえ我慢すれば、数千円単位の搬出費用を浮かせることができる。
通路側の大きなポスターは、セブンイレブンで印刷したB4サイズ9枚の大きさのポスターを貼ったものだ。こちらは結局一度印刷に失敗したものの、480円(×2枚)ほどの値段で済ませることができた。こちらも片付けの際に捨てて帰ることが可能だ。
百均で手に入れた「500円玉と100円玉のみを収納できるコインケース」は今回初めて使ったが、思ったより使い勝手が良かったので、今後のイベントでも活用したい。
ものの1時間足らずで設営は完了。
予約品の準備など細々とした設営の微調整を行うと、ようやく周囲を見渡す余裕が生まれた。
僕の目の前はFILLITも根強い人気のラディアスリー様、バーカウンターのような設営が目を引くLIQUOR GAMES CLUB様だ。どちらも「紳士な大人の佇まい」の印象で、ダミ声を張り上げて問題を読む僕のようなブースは、ひいき目に見ても「月とスッポン」だった。
ブースの近傍はお子さん連れのサークルも多く、斜め向かいの「モノビーズ」様は小学生の女の子が制作した「カザリマスツリー」を発売する。ボードゲームどころか、動画制作まで手を拡げる多彩っぷりだ。
たしかシド・サクソンの名作「アクワイア」も、その原案は、自身が9歳のときにまとまったものと記憶している。1984年ドイツ年間ゲーム大賞受賞作「ダンプフロス」も、作者のデビッド・ワットが少年の頃に思いついたアイデアが骨子だったと伝え聞く。2023年に世間を圧巻させたTAKUMI ZOOも言わずもがな。
制作に年齢の垣根だと関係ないのだ。(たぶん)
1.3 ご挨拶まわり
多少の時間を工面できたので、今回の新刊で、どうしてもお礼を伝えたかった方の元へご挨拶に回った。
一つ目は「ゲームストア・バネスト」の中野店長だ。
ゲームマーケット大阪を含む春・秋で唯一の皆勤賞を続けるバネスト様は今年も中野店長の活気ある笑い声がブース内にこだましていた。海外の輸入作品を積極的に入荷し、老舗ながらInstagramやYouTubeライブなどにも積極的だ。忙しいはずの手を止め、新刊の報告に喜んでくださった。
二つ目は「ボードゲームlab.ddt」のちむ店長。大阪で愛されるボードゲームショップの店長だ。
新刊を含む当サークルの創作を毎回楽しみにされ、お店には過去の作品も多数並べられている。実は今回の新刊「ラボ」は、このお店の名前から拝借したものだ。店長自らがサークル設営に動く中、感謝な言葉と簡単なご挨拶だけは済ませることができた。
バタバタと動き回るうちに、開場となる11時はあっという間に訪れた。
1年間ずっと頑張った。頑張るのは、あと、たったの6時間。
2 開場
2.1 会場直後
午前11時、開場の拍手と同時に、いよいよ僕にとって1年ぶりのゲームマーケットが幕をあける。
通用口の近くには、雅ゲームズのフカセさんが大きな一眼レフを構え、来場者が流れる様子をファインダーに収めていた。
事前の広報で魅力を伝えきれなかったからか、直接ボードゲームではない書籍を頒布する私のブースには、ボードゲームポッドキャスターやユーチューバー、ブロガーなどを含む報道陣やカメラクルーも訪れることはなかった(はず)。
負け惜しみにも聞こえるけれど、そのおかげで販売と試遊に集中することができた。
特に僕のようなワンオペのブースには取材応対の時間も取られることもなく、むしろ好都合だったかもしれない。
開場時間を15分ほど回った頃に、最初の来場者が訪れた。
購入は4コマの新刊だった。それを皮切りとし、4コマは当初の想定を遥かに超えるペースで人の手へと渡っていった。
2.2 動き出す
会場内の詳しい様子は他のニュースブログに任せるとして、ここではあくまで僕正面の動きだけを追って書き綴ることにする。
会場時間から30分ほど経過すると、来場者の歩みも購入から散策へとシフトする。
その瞬間からが、僕のような名もなきブースの「真骨頂」だ。
足早に流れる来場者の様子をテーブル越しに眺めながら、僕も次第に「呼び込みモード」へと頭を切り替えた。
例年だと、やはり開幕30分は予約品の受領へと向かう方ばかりだ。30分を過ぎる頃から、周囲を散策される方がポスターやお品書きに足を止めてくれる。
1年ほどのブランクはあったものの、今まで経験したイベントでの感覚を取り戻すかのように、僕はテーブル越しに試遊を呼びかけ、作品を呼びかけ、興味を持った方に試遊を進めていった。5分もすると声の調子も、視線の先の相手も、「こうだ、こうだった」と体がその感覚を取り戻すかのようにテキパキと動いた。
ひたすら新刊を売り、クイズを読み、テーブル越しにチラシを配った。
メインステージでは海外の大物クリエイターが来場され、ジーピー様主催のリアルカタンが開催されたり、謎解きイベントなども開催されているようで、会場内のアナウンスはひきもきらない様子だった。
もちろんワンオペ出展者の僕にとっては門外漢の話で、目の前の創作物を、求める方の元へ届けることで手一杯だった。
もうしばらくするころ、普段SNSでしかお会いできなかった方々に直接お会いする機会も増えた。
本日出展のインディークリエイターの方や、ボードゲーム会の主催者、有名ポッドキャストに何度もゲスト出演される方、普段のSNSにいいねなどの反応をつけてくれる方、などなど。
「あ!この方だったのか!と脳内イメージと紐付けされる瞬間が何度となく訪れ、その度に嬉しさと喜びが隠せなかった。
メンタルこそ弱りきってはいたものの、体力だけはランニングなどで鍛え、当日は喉を潤す飲み物のほかは何も口にせず、座って休むことも拒み、会の終始を通じずっと立ちっぱなしだった。それが直接売り上げにつながったかどうかはわからない。
2.3 完売が続く
14時30分を回った頃、予定数だけ持ち込んだ4コマの新刊は売り切れてしまい、続けざまに新刊のクイズ本も売り切れてしまった。
実は、普段の反応を過小に受け取り、新刊の2冊とも注文の数を本当に少なく見積もっていた。
完売の報告は嬉しい反面、完全に自分の「読み間違え」とも言える。もっと自分の作品に自信を持つべきだったと反省した。
その頃になると、僕の喉も、声帯が擦り切れる感じのガラガラ声となった。
同時に、会場内の熱気も相まって頭がうまく働かなくなる頃でもあった。具体的には、新刊、旧作をまとめて購入された方の、合計額の暗算ができなくなってしまった。電卓はあったが、数字ボタンを探すのも手間取るほどだった。
海外のイベント「エッセンシュピール」とのコラボが目玉の今回秋、それでも僕が当初で描いたほど海外からの来場者は少なかったように見えた。もちろんそういった来場者のお目当ては国内の大手企業ブースであるはずなので、一介の個人サークル(ましてボードゲームなど販売しない)まで散策される時間も取れなかったことかと邪推する。
一方で、来場者、出展者、ともに、お子さん連れもちらほら見受けられた。これも感染症が幾分緩和された昨年秋以降より顕著になった。
これについては、お子さん向けのクイズ、なぞなぞや動画などを前もって対策したことが功を奏し、各所で喜んでもらえたようだった。
クイズを読み上げる機会も多かったが、一番出題したのは「直接ボードゲームに関わらない、比較的押しやすいクイズ」だった。
「ボードゲームのクイズ=マニア向けの難しいクイズ」というイメージを払拭したい!持ち前の自然な知識で正解できる嬉しさを体感してほしい!の想いが伝わったであろう瞬間が何より嬉しかった。
3.終了間際〜撤収
客足が和らいだ、と体感で知ったのは、実に閉会1時間前だった。
数個のボードゲームを事前に予約してはいたものの、予約フォームの注意書きに「15時までに受領されない場合キャンセル扱いとなります」の文言を見つけるたびに慌てて「当日の出展者です。受領時間は遅くなります」と言葉を添えた、その言葉通りの展開となった。
多少和らいだ、とはいえ、目の前のエリアブースも周りのブースも変わらず盛況だった。
SNSで活動される有名アイドルは大切なノドを枯らしながら出展ブースを周り、ようやく多少の時間が取れたであろう同日の出展者が予約品を回収にまわり、企業ブースも個人ブースも、最後の最後まで来場者に向けて試遊を続けていた。
17時、閉会の拍手喝采が響き渡る。最後の最後まで問題を読み続けた僕。気がつけば、あっという間の6時間だった。
ドッと襲いかかる疲労。負債のように吹き出す汗。一度でも座ってしまうとそのままこんこんと眠ってしまうようだ。
前述の通り、ダンボールや読み合わせ原稿、ポスターなど、捨てられるものは極力会場内のゴミ集積スペースに捨て、大きめのトートバッグとキャリーケースに荷物を詰め込んだ。完売ということもあり、割と身軽ないで立ちで会場を後にした。
17時を回ったばかりだというのに、日はとっぷりと暮れていた。
あれほどの熱気だった会場から一歩外に出ると、照明の下ろされたスペースはひっそりと静まりかえっていた。
4.帰宅の途(応援の声、の存在)
帰りの電車に乗り込み、ふとSNSを立ち上げると、「完売おめでとう!」のリプライがたくさん並んでいた。
その一つ一つに返信を返すうち、ようやく自分にも完売の嬉しさが込み上げてきた。応援の言葉につい涙ぐみ、混雑する電車の中、表情を隠すように隅の車両へと移った。
疲労で回らなくなった頭を使い、帰宅後のことをぼんやりと考えた。
今回体感できたことは「見えなかった応援の声」の存在だった。
応援される方の存在、それは普段の生活やSNSでは決して見ることのない存在で、「けなす側の声」があんなに届くのに比べ、それら応援の声はこちらが意識しなければ耳に届きづらい「声」だ。
イベントのたびに、創作に向けられた「応援の存在」を実感できるもの。
1年ぶりのイベントということも重なり、その受け方が豊かになったからだろうか、打ち上げより休養より、まずは机に向かいたいという創作の意欲がどんどんと湧き上がった。応援の声を裏切ってはいけない、という使命感に似た気持ちもあっただろうか。
電車に揺られながら独りそんなことを誓い、帰宅後すぐにパソコンに向かい、今こうして「思いの丈」を文章に書き綴っている。
後になれば、また熟成された分の反省も出てくるかもしれない。その時はまた別記する形で書き綴ろうかと思う。
カッコいい言葉で一連を締めたいとは思わないけれど、この先、もし仮にイベント出展に興味を持たれた方がいらっしゃるならば、老婆心ながら一言だけ伝えおきたい。
「創作イベントの報酬は創作意欲だよ」