深く呼吸を整えながら〜有明亭で開催される「ボードゲームのクイズ会」を通じて〜
0.はじめに
番次郎書店、バンちゃんと申します。普段はアルバイトで肉体労働に勤しみながら、ボードゲームのクイズや4コマをせこせこと執筆しております。
本記事はマジ森さんが主催する「Board Game Cafe Advent Calendar 2024」の第9日目(12月9日分)にエントリーしています。
ボードゲームカフェにまつわる話ならば何でも良い、とのことですので、せっかくの機会に、普段からお世話になっております「東京・巣鴨のボードゲームカフェ「有明亭」様(以下「有明亭」)」への感謝の言葉を綴ろうとペンを執りました。
(※文字数は4,500字強です)
1.「ボードゲームカフェ」でのボドゲクイズ会
僕は不定期ながら「ボドゲカフェで遊ぶクイズ会」と称する「出題ジャンルが『ボードゲーム』だけのクイズ会」を主催している。
2ヶ月に一回の頻度で、日曜の夜19時から2時間ほど、ボードゲームカフェ「有明亭」さんで開催し、今年で早2年を迎える。
関東圏外の方も見られると思うので補足すると、僕の住まいは神奈川県横浜市だ。有明亭の位置する東京都・巣鴨まで、電車と徒歩で片道1時間半もの移動を要する。
横浜市街地やその近傍には、全国的に有名なボードゲームカフェやプレイスペースもたくさんある、という環境ながら、それでも、だ。
加えて、僕個人に日曜のアルバイトが入るため、多少身なりを気遣いながらも、仕事終わりに直接巣鴨へと向かうこととなる。
毎度用意する大きなキャリーケースには、購入して6年になる早押しボタン1セットと、当日出題予定の映像クイズが詰め込まれたiPad miniが入っている。
そんな環境の中で、今もひっそりと続く本クイズ会のことを、お世話になった有明亭への感謝の気持ちを込めつつ書き綴ろうと思う。
2.有明亭
簡単に有明亭を紹介したい。
東京都豊島区、JR巣鴨駅から徒歩数分ほど離れた閑静な住宅街に位置する。
レトロモダンな雰囲気が漂う店内は、ドラマ「孤独のグルメ」のロケ地になったほど。
ボードゲーム関係者も大勢が駆けつけ、YouTubeチャンネルでもたびたび紹介される人気ぶりだ。
豊富なボードゲームに加え、提供される飲食物も好評で、月一のメニューは特に人気のある逸品だ。東京都内でClaGlaさんのセンバビールが堪能できる珍しいお店でもある。
3.きっかけ
会の話に戻る。
開催のきっかけは1年前に届いたダイレクトメールだ。
「ボードゲームのクイズイベントを企画しませんか」という内容のDMが、有明亭から直接僕に届いたことから端を発する。
通常のボードゲーム会に加え、早押しボタンを用意し、気ままにクイズ、しかも僕が創作を得意とする「ボードゲームのクイズ」が楽しめる、まさに僕にとって願ったり叶ったりのイベントだった。
がしかし、その時の僕は、素直に「はい、頑張ります!」と受け答えすることができなかった。
今でこそ、「ぶんかぶ(東京都)」、「ひよこの杜(宮城)」、「マリーエンケーファー(福岡)」、「JOGO(大分)」などなど、クイズが楽しめるボードゲームカフェ・プレイスペースも多い時代ではあるが、依頼を受けた当時、それこそ、ほんの1、2年前ですら、早押しクイズの企画がボードゲームカフェのイベントに通るなんて夢にも登らぬ話であった。
これは推測に過ぎないが、ひとつに、クイズ企画の特徴である「早押しボタン特有の甲高い音が、周りの他のテーブルの迷惑になること」を危惧したのだろうと思う。
ブザー音やチャイムの音、出題の声や解答者とのやり取りの声、など、クイズの企画となると、どうしても「音」の問題は切っても切り離せない。(ボードゲームはどうなのか、という議題はさておき)
残念ながら、「問題を読む」→「解答する」の流れを、静謐な雰囲気のまま楽しむイベント、と制限するとなると、当時の僕の力量では到底難しい話だった。
加えて、過去に前例のない「出題範囲をボードゲームに限定したクイズ会」だ。
当時から「ボードゲームのクイズ」を企画する有名ボードゲームカフェ・YouTuberも少なくはなかった。今でも各種動画サイトには、国内外で「ボードゲームの知識を問うクイズ動画」もたくさん現れる。
「ボードゲームでクイズをする企画なら、きっとどこでも喜んで受け入れてもらえるはず!」
……はず、だった。
どのお店でも、僕が「クイズ」の名前を出した途端に、話を聞く店長・店員の顔がサッと曇る。
先ほど話した「音響の話」に加え、全体の先行きが見えない「前例のない企画」という理由もあったのだろう。場を提供するだけならともかく、ややもすれば、マニアックな内輪の話で盛り上がるだけの、隠逸な雰囲気の会になるかもわからない。
そんな理由からか、僕の方から「どうでしょうか」と企画を切り出すと、どこのお店でも渋い顔をされた。中には(店名こそ出さないけれど)僕の個人名を挙げて「店内でのクイズ禁止」を呼びかけるお店もあったほどだ。
「会議室を借りてのボードゲーム会なら普通に受け入れられる企画なのに。」
と内心でボヤきつつも、
「ボードゲームカフェでは、ボードゲームを楽しむもの、だよね。」
と、“実に当たり前の結論”を腹に収めては自分を納得させた。
そんな経緯を経た上で、降って湧いたような「企画しませんか」の話だ。さらには、都内どころか全国でその名が通るほどの有名ボードゲームカフェからの依頼である。
「たっての依頼とあらば受け入れるけれど、果たして、盛り上がるのだろうか」
そんな僕自身が諦めムードの中、かくして第一回目の「早押しボタンも押せるボードゲームクイズ会」が2023年5月24日に決まり、僕は「メインはボードゲームの会だから出しゃばるのは控えめにしよう」といぶかりつつ、「それでも「念の為に」」と、以前別の場で出題したボードゲームのスライドクイズや動画クイズをいくつか用意した。開き直りの気持ちも、やっぱりあった。
お店の2階に用意された大きなテーブルで、そそくさと早押しボタンを広げる僕。当日まで大きな告知もできないままだったが、人数は4名も集まった。
早速、持参したスライドクイズや、この日のために用意した新作早押しクイズをここぞとばかりに読み上げる。
僕個人の疲労もあり長居はできなかったが、それでも開催時間の2時間の中、他にお店が用意した各種ボードゲームには目もくれず、こちらの「ボードゲームの早押しクイズ」に、参加者の全員が熱中した。
お店の方も、来店されたお店の常連さんにどんどんと声がけしてくれた。そのおかげで終始解答席には人が絶えない状況となった。休憩を挟みながら会はつつがなく進行できた。
国内はおろか国外でもおそらく前例のない「ボードゲームカフェでの、ボードゲームのクイズ会」という酔狂な企画に、僕は喉が枯れるまで問題を読み続けた。
4.深呼吸
その後も、僕はお店のご厚意に甘える形で、会は1、2ヶ月に一回の頻度で開催された。
参加人数は多いときで7名ほど、とお世辞にも「大人気御礼」とは言えない。僕自身を含めて参加者が2名のときもあったほどだ。
開催日が日曜夜とはいえ、僕は思うように人を集められないことへの力不足を常に申し訳なく思っていた。
しかしながら、店長もオーナーも、そんな気落ちする僕を見放すことなく、毎回笑顔で迎えてくれた。休憩を促したり、他のテーブルの方にお声がけしたり、言うなれば「僕個人が勝手にお店の一画を借りて開催する会」では決してなく、お店の方からSNSで告知したり、時には人を集めたり、など、積極的に会をバックアップしてくれた。
そんなお店の配慮に応えられぬ己の無力さを嘆き、帰りのホームで涙ぐむ日もあった。
次こそは、お店、そして参加者の期待を裏切らないよう、僕は生活時間のほぼすべてを創作時間に宛て、細かな休憩時間もコツコツとボードゲームのクイズ制作に明け暮れた。
次第に、創作は早押しクイズだけにとどまらず、「他のカフェでは決して味わえないクイズ」をこだわるようになった。
動画編集ソフトを駆使した動画クイズ、スライドソフトを駆使したスライドクイズ、時には、作曲ソフトを用いた音楽クイズや、合成音声を駆使した音声クイズなどにもどんどん着手し、今ではすっかり動画編集から作曲までをそれなりにこなせるようになった。
決して右肩上がり、とはいかない参加人数ではあったが、会の当初から「内輪ノリ」や「初心者お断り」の雰囲気にはしたくない想いから、知識をそれほど要しないアンケートクイズや、全員で協力する協力クイズ形式など、初参加の方も楽しめるクイズを模索し、さまざまなバリエーションを探求した。
更には「どうせやるなら同じクイズは2度出題しない!」と勝手に自分を縛り付け、会が終わると、その日の帰りの電車から次回のクイズ原案を考え始めた。
開催を楽しみにいらっしゃる方のため、そして、ボードゲームクイズ会を盛り立てるお店のために、とあれこれ作り続けるうちに、編集能力や問題作成能力は、我が身で実感できるほど力がついていった。
気がつけば、「早押しクイズ」だけで盛り上げようとした当初の会から大きく進展し、さながら「テレビやクイズ系YouTubeチャンネルに負けじ劣らじのクイズ企画」へと膨れ上がっていった。
それはさながら「深呼吸」のようなものでもあった。
少し前に、ある人気漫画とともに「深く集中して呼吸すること」が話題となったが、文字の中の「呼吸」の順序が意味するように、肺に深く空気を入れるためには、「呼」、つまり、一度肺の中の空気を体の外へと吐ききらなければならない。
吐いて、吐いて、もうこれ以上ないほど吐いたら、「吸」、そこでようやく深く空気を吸いこむことができる。
今風の言葉で例えると、アウトプットし尽くした後で、自然とインプットが叶う。
あたかもカラカラの土地に水が吸収されるように、僕は会の終了直後から、次の回に向けた探究心やモチベーションがいちどきに上がっていくことを実感した。
それがどうやら僕個人の創作スタイルのようだ、と、数度の会で「はた」と気がついた。
僕はいい年のオッサンながらお金持ちではない。だから、というわけではないが、使ったら手元から無くなるお金とは違い、創作のアイデアは、使い切った分だけ不思議と入れ替わるように浮かぶようになった。同時に、新たなアイデアを生み出す、そんな「お金とは違う循環」を得られたことに嬉しさも湧き上がったのだった。
5.御礼
そして、今に至る。
恥ずかしながら、僕の名前がボードゲーム界隈に知れ渡ることもなく、今もまだ小さなブースでひとり、細々と出展を続ける日々だ。
「恩返しをしたい気持ち」を抱きつつ、いまだに御礼もできないまま。お金もないので、来店するたびにコーヒーしか注文できない。
かくも人生とは、おとぎ話のようにうまく御恩が返せないものである。
そんな僕ではあるが、1日たりとも創作の手を休めず、次へ、ダメなら次へ、また次へ、と、しぶとく創作活動を続けている。
いつか本会の御礼が形として伝えられるよう、そして、稚拙な会でも楽しみに参加される方々の期待を今後も裏切らないよう、今はまだ呼吸するかのように、ひたすら努力を続けるだけだ。
そして近い将来に名前が上がるようなことがあれば、いの一番に御恩返しができるよう、そう自分にハッパをかけながら、今日もまた創作を続けている。
本当にありがとうございます。
重ねて、有明亭様に最大の賛辞を送ります。