【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第六章 勇者の弟
⑧
「ボク?ボクはね…魔王軍七悪賢の一人、不死身のチェルから生まれたチェルジュニア!」
「しちあくけん?ふじみのちぇる?それは、一体?」
「逃げるのだアリシャ!そいつはゾグラフ魔王軍の大幹部の一人、魔族のチェルから生まれたクローンなのだ!今のゾグラフは世界中の魔族や魔獣を蘇らせ、魔王軍として自らに従わせているのだ!」
「え?え?」
「とにかく逃げるのだ!クソッ、肝心な時に豆の種がない!これじゃ戦えないのだ!」
「逃げられないよ、アリシャ。キミはここでボクに殺されるのだから。キミはボクのママでありパパがこれから始める殺戮ショー”チェルゲーム”の開幕を飾る生贄になるんだよ」
「キエーッ!」
そういうとチェルジュニアはワタシに飛びかかってきた。
――やられる。そう思った時だった。ワタシの視界を赤い布のようなものが覆った。
「アリシャ様に触れるな。下郎」
「レムロス!」
レムロスは愛用の剣でチェルジュニアを斬り伏せた。
「レムロス!どうしてアレニアへ?」
「近衛兵団はクビになりましたが、訳あってエリチャルドス様直属私兵、通称”四天王”として仕えることとなりました。アリシャ様、今の城内は軍と魔物たちとの間で激戦となっています。城外の地下壕に避難しましょう」
「レムロス!嬉しい……アタシのために」
「二人とも伏せなさい!そいつはまだ死んでいないですわ!!」
どこからともなく声が聞こえた。
ワタシたちが咄嗟に伏せた瞬間、頭上をピンクの影が飛び越えていく。
「四国めたん!」
四国めたんはドリル状の先端を持つ銛をチェルジュニアの頭部に突き刺すと、そのままドリルを回転させミンチ状に粉砕した。
「こいつらの核は頭部にあるの。それを粉々にしない限り何度でも再生しますわ!」
「めたん!レムロス!気をつけるのだ!敵は複数いるのだ!」
その言葉の通り、ワタシたちの周囲は7、8体はいるだろうか、チェルジュニアたちによって包囲されていた。
「キッ、キャッ」
一体がアタシたちに襲いかかろうとしたその刹那、何者かが矢を放ち窮地を救った。
「とっとと頭を潰せ!おめえら、イチャイチャしてっから囲まれちまうんだよ!」
声の主は樹上から降り立つとすぐさま第二矢を放ちもう一体を討ち取った。
「レムロス!あの人は誰?」
「ラウィネ!俺と同じエリチャルドス四天王の一人で弓を使う魔法使いだ!」
「弓使い?面白いですわね。ずんだもん!」
そう言うと四国めたんはずんだもんを抱き寄せ接吻した。
――不朽の夢
「わ!わっ!なにするのだめたん!恥ずかしいのだ!ん、ごぉ!!」
その途端、ずんだもんは体中の関節が外れ、全身がぐにゃりと弓なりに折れ曲がった。
「ぐっ、グゲッァァァァ!グゴォ!…なのだ……」
「一体何が起こったの…ずんだもんに何を?」
「宝具ずんだアロー、ずんだもんの真の姿よ!さあラウィネとやら、この弓を使いなさい!今のあなたなら使いこなせるはず!」
「おうやったるよ!レムロス!ここはアタシらに任せて、アンタはアリシャ様を安全な場所に!」
「わかった!任せたぞ!アリシャ様!俺の背中に!」
レムロスはワタシを背負うとそのまま城壁のそばの地下壕まで駆けていった。
――地下壕の中。
「レムロス!会いたかった!もうどこにも行かないで!」
「アリシャ様、そういうわけにはいきません!今こうしている間にも四天王の仲間たちは戦っている!」
「じゃあもう少しだけ話を聞かせて!あのラウィネって人、弓使いなのに矢を持っていなかった」
「ラウィネ、彼女は魔法使いの中でも特異体質の持ち主です。魔力を集中させることで攻撃魔法の術式印を描くことなしに空気中の水蒸気を凍結させることができる…つまり氷の矢です」
「すごい……」
「それよりアリシャ様、兄は、ヒルメスは生きているのですね……」
「ええ…」
「クソッ!なぜ皇帝陛下は奴を処刑しなかったんだ!あの身勝手な兄のせいで俺達家族がどれだけ迷惑を被ってきたか!!あいつが博打でこさえた借金と積み上げてきたトラブルのせいで、俺は学校も退学しなければならなかった!」
レムロスがワタシの眼の前で激高したのは初めてだった。
「だが、そんなあなたの兄上ヒルメスに、皇帝陛下は”龍の相”を見出しているようなのです」
「ターメス!」
地下壕の中にはいつの間にかターメスがやってきていた。
「”龍の相”を持つ者は、宝具の中でも”ウルティマバングル”に次ぐとされる”レイガルの剣”を操ることができるとされています。事実であれば、ヒルメスは今や魔王として君臨するに至ったゾグラフを倒すことができるかもしれない…」
ワタシもレムロスも、ターメスの語りに黙り込んでしまった。
「レムロスよ、アリシャ様を無事に守り通した功績は、皇帝陛下に伝えておきます。恐らくあなたは兄上とともに元老として叙勲されることでしょう。もっとも、この戦いに我々が勝利することができればの話ですが……」
「この地下壕は城内に繋がっています。さあレムロスよ!まっすぐ仲間たちのもとに進みなさい!アリシャ様には私めがついております!」
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