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【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第六章 勇者の弟

帝都アレニアは、ワタシが生まれ育ったオリファルオンの都よりさらに大きな世界都市だった。港には毎日のように大きな帆を掲げた貿易船が来航し、城外の広大な宿場町はグラスランナーの商隊によって賑わっていた。

あれ以来、ゾグラフはまるで最初から存在しなかったかのようにひっそりと姿を潜めていた。それを見計らい、父であるファルムスは帝都到着後、正式に皇帝(正帝)に就任し、自らの権力の基盤を固めていった。

アクレアスト大陸東部、すなわちアレニア帝国をただ一人の皇帝が治めるのは、先々代テリス2世以来、実に三十数年ぶりのことだった。

先帝コーセウスの二人の皇子、つまりアタシの従兄弟たちの運命は悲惨だった。まず一人目の皇子は精神疾患を理由に宮殿内に建てられた屋敷(というにはあまりにもこじんまりとしていたが)に家族共々軟禁状態になった。二人目の皇子はパパの皇帝就任から2週間後に首を吊った死体として発見された。彼が本当に自殺をしたのかは、今となっては誰にもわからない。

続いてパパは兄コーセウスに親しかった元老院議員たちを、なんとか理由をつけて処刑、追放、罷免に処していった。そしてその後釜にはこれまで元老院議員の身分に預かれず、燻っていた同じく東方諸侯たちを充てていった。これは東方元老同士で嫉妬や恨み辛みを向け合わせ、元老院自体の強大化を防ごうということだろう。いわゆる分断統治というやつだ。

しかしその結果としてかつての西方のオリファルオン元老院は急速に存在感を失っていき、オリファルオン方面と縁深い西方元老たちは表向きは皇帝ファルムスに忠誠を誓いつつ、面従腹背で西方第一権力者でもある第一皇子グレイムスを神輿として担ぎ上げるようになっていった。これ以降西方および南方を治めるグレイムス、大陸中央部を治める第三皇子ガルフリードとその家臣たちはゾグラフの脅威に対抗するという名目で独自に重武装化を進めていく。それは奇しくも大陸東北部に特に強い影響力を持つ帝都アレニアを包囲するような形になっていった。

ともあれパパ、ファルムスはこうして帝国の権力を一通りは掌握し、絶対的な権力者として君臨した。またそれにともない、攫われた姉フェリオのことなど懸案事項はありつつも、世間一般の関心からゾグラフの影は遠のいていった。

ワタシもその例外ではなかった。アレニアに到着するまで、それに到着してから暫くの間は強張った気持ちで日々を過ごしていたものの、次第に城外に出てみたいという気持ちが強まっていった。ある日、ワタシは衛兵にこっそりと賄賂を渡し、城門の外に出ることに成功したのだった。

城門の外、そこは奴隷たちの働く農園だった。そしてその農園の脇、丘の上の森との境界に小屋が建っていた。ワタシは何故だか知らないが、その小屋にふと惹かれるものがあり、向かっていった。

小屋の脇には小さな豆畑があった。ここに住んでいるのはどうやら奴隷ではなく自由民らしい。でもどうして?

「アリシャ!」
誰かに名前を呼ばれ、ワタシは振り返った。

「ずんだもん!」

「ひさしぶりなのだ!」

「アナタ、アレニアに越してきてたの?よく転居の許可が下りたわね!?」

「ボクは特別なのだ!アリシャ、これからもよろしくなのだ!」

その時、森の茂みの中からガサゴソと音を立て、誰かが姿を表した。

「アリシャ様……だよね?」

そう呼びかけたのは、青い皮膚を持ち、子供ほどの背丈をした何かだった。

「ええ……あなたは?」

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