【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第八章 邪悪なる前奏曲
①
ガルフリード一行が、アクレアスト大陸東部のやや内陸にある広大な森林地帯「帰らずの森」を抜けたのはおよそ1週間後であった。
森は帝都アレニアとウェリス王国との国境としても機能しており、森を抜けるということは無事に本拠地に帰国ができたということでもある。
一行が王都オルドに入ったのは翌日深夜のことであった。国王が、自らの主であるアレニア帝国および皇帝エリチャルドスに、半ば宣戦布告するような形で帰還する。この事実にオルドの者たちは内心戦々恐々とし、王宮では夜間でも松明が絶やされることはなかった。
「国王様、よくぞご無事で」
「う、うむ。しかし、あまりの強行軍で…もう疲れたぞい…早く寝室に行きたい。女官を呼べ…」
「ははっ」
程なく女官が手配され、ガルフリードは衛兵隊長ティクティルスに先導され寝室へと向かった。
寝室の扉が開けられティクティルスは室内へと入っていった。
続けてガルフリードも室内に立ち入ろうとする。が、ティクティルスは腕を横に伸ばし静止した。
「国王陛下、入ってはなりませぬ」
「な、なにっ!」
「室内に何者かが侵入したようです。誰だッ!出てこい!」
するとベッドの天蓋の影より、ぬるりと黒い人影が姿を表した。
「貴様ッ!何者かッ!」
「私は戦争と戦略、それと…あっ、分析系の天才、ウェド・カークとなります」
「ウェド・カークだと!?貴様、先帝リヴィアタイザーとグレイムス様を、よくもッ!」
「それは誤解です!あの”ひとりごとの多い薬屋”を雇ったのは私ではありません!なにせ私は魔王を倒して凱旋するまで帝都に立ち入ることすら許されておりませんでした(※)。あの女を雇ったのは、アリシャ様、現皇帝の妹君です!」
「つまりお前は関わっていないと言うつもりか…」
「はい。それどころか罪を着せられ、危うく命を狙われるところでした。なんとか間一髪逃げ延び、こうしてガルフリード様のご庇護を求めてまいったのです」
「どうやってこの王宮、そして寝室まで忍び込んだ!」
「私は元々盗賊のスキルマスターです。この程度のことは造作もありませぬ」
「フン、貴様、その程度の言い訳で嫌疑が晴れるとでも思っておるのか?」
「繰り返しになりますが、私は盗賊のスキルマスターです。逃げ延びようと思えばアクレアストの大陸の、どこへなりとでも行くことができます。しかしこうしてガルフリード様のもとに参りましたのは、私なりの考えがあってのことなのです!」
「何だと!」
「私はウェリス王国にお仕えし、必ずやガルフリード様に皇帝の玉座を差し上げます!私を陥れた、エリチャルドスとアリシャ兄妹への復讐も込めて…」
「何ぃ!?」
ここに来てガルフリードは初めて口を開いた。
「ワシが皇帝の座に着くのに、お前のようなグラスランナーの力など借りる必要ないわ!皆の者、直ちにこの盗賊をひっ捕らえよ!捕らえられねば殺してしまえ!デンゲンは……デンゲンはどうした!奴を呼んでこい!」
ウェド・カークは両手を高く掲げその場にひれ伏した。
「元より私には抵抗する気などございません。ガルフリード様のお気が変わるまで、このウェド・カーク、どうぞ獄にでも繋がれましょう!」
「連れて行け!監獄塔にでも放り込んでおけ!」
こうしてウェド・カークは衛兵たちに連行され、監獄塔へと向かっていくのであった。
※ウェド・カーク含むグラスランナー族は二代目皇帝アレニムス四世による勅令によりアレニア城内への立ち入りを禁じられていた。
ここから先は
¥ 10,000
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?