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【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第八章 邪悪なる前奏曲
④
大内裏を出たパルムスの面持ちは明るくはなかった。
たとえ演技とはいえ、彼のこれまでの行動は「無能」の烙印を押されても仕方のないものであった。
彼はもはや宮廷に仕える身ではなくなった。ただ故郷でもあるオリファルオンには先帝ファルムスより賜った土地もあり、奴隷たちもいるはずだ。そこで本格的に農園でも始めてみるのもよいかもしれない。もしフェリオやウェド・カークたちの手によってエリチャルドスが倒され、フェリオの息子が皇帝の座に着くとすれば、その時にはまた都にて何かしらの地位が与えられるだろう。
さて、フェリオに都を離れる旨を伝え、荷造りでも始めようか――などと考えていた矢先、慌てた顔をしたターメスと出くわした。
「パ、パルムス様!早く、一緒に来てくだされ!大変なことが!!」
「なに?どうかしたのか?」
「フェリオ様が…フェリオ様が破水いたしました!お子様が生まれそうなのです!」
「なんだと!」
二人は急ぎフェリオの屋敷へと向かった。
寝室の入口に着いたとき、既に中からは赤ん坊のけたたましい泣き声が聞こえてきた。
「生まれたか!」
「はい!元気な男の女の双子です!」
「やはり!マーヴァ様の予言通り!」
「ターメスどの……」
パルムスは申し訳無さそうにターメスの肩を叩いた。ターメスはその目に涙を浮かべている。
「ターメスどの、お喜びのところ申し訳ないが、俺、いや私はフェリオ様にお別れを申し上げに参ったのだ。残念ながら私は、エリチャルドス様に宮廷の任を解かれ、都を出ねばならぬ」
「何を仰りますか!この二人、皇子アークア様、皇女ルーヴィ様を守り育て上げるのに、あなた以上の適任者はおりませぬ!たとえ皇帝陛下が任を解いたとしても、フェリオ様が替わりの任をお与えになるでしょう!」
ターメスは赤子を抱いた女官を呼んだ。
「さあパルムス様、この子らをお抱きになるのです!このお二人の未来は、あなたのその両腕にかかっているのですぞ!」
パルムスは渋々双子を抱きかかえた。
ターメスは再び涙を流し始めた。
「思い出します…。フェリオ様がお生まれになったあの日のことを……。私も今の貴殿のように……」
双子を抱きかかえながら、パルムスはふと何かを思いついた。
「この二人の将来は、この俺にかかっているというのか…。だが待て、ということは、もしこの雄餓鬼が皇帝に、雌餓鬼が神殿の巫女にでもなろうものなら、俺は実質的な養父として、コイツラを通じ天下に号令を発することも……」
パルムスは心の中でニヤリと笑みを浮かべた。
「さあパルムス様、フェリオ様、いえお母様に赤ちゃんのお顔を見せて差し上げて下さい」
「あ、ああ…」
パルムスはフェリオに赤子を近づけた。
(……お母様……?何のことだ……?ヨーコか?ツルコか?私は一体、どこでなにをしているのだ?私は確か、あの日駅前で……。駄目だ!頭にモヤがかかったように何も思い出せない……うッ、お腹が、お腹が痛い!ブリュリュリュリュリュリュ!)
「うわっ、なんだ!?」
「大変ですパルムス様!アークア様がウンコを!」
「生まれてすぐウンコする赤ちゃんは初めてですわ!」
「パルムス様、お召し物が汚れています!すぐにお着替えを!」
―――――
深夜。昼間までの喧騒が嘘のように、フェリオの寝室は静まり返っていた。
ベッドの上のフェリオは、一人これまでの計画の進捗を振り返っていた。
(ウェド・カークの、いえ私の思い描いた構図は、徐々にその形を整えつつある……)
(まずエリチャルドスお兄様とガルフリードが正面から対峙する状況を作り上げた。もちろんこのまま戦えばガルフリードに勝ち目はない。だがガルフリードの陣営にはウェド・カークが加わっている。また方々での斥候、撹乱要員としてコンジェルトンとエイデンを。さらにアレニアの宮殿内では、お兄様ではなく私の直属の配下としてパルムスがいる……)
(だが懸念材料も……ガルフリードのウェリス王国とアレニアとの国境には渓谷と広大な森林があり、守りには適しているが同時に攻めにくい。大陸の内陸部ということもあり、ウェリスの国土の半分は砂漠地帯だ。石高、兵数ともにそこまで潤沢ではない……戦いが長引けば文字通り干上がってしまう……)
(また補給を受けようにも南のミレーア、南東のカノス両大公国は恐らくお兄様に味方をするはず……特にカノスはアレニアを除けば大陸随一の海運都市。さらにオリファルオンはじめとする西方諸国は元老粛清事件の余波で未だ政情が不安定……)
(つまり、今のままではまだエリチャルドスお兄様に勝つことはできない……。何もかもが決定的に足りていない……!!)
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