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【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第七章 最終決戦 / 闇からの招待
⑤
「アリシャ様、レムロスです。お呼びでしょうか」
「お入りなさい、レムロス」
「レムロス!」
ワタシは裸になりレムロスに抱きついた。ワタシたちは熱く抱擁と接吻を重ねると、そのままベッドに雪崩込む。
――その時。
「何者!」
レムロスは咄嗟に懐のナイフを部屋のカーテンに向かって投擲した。
ナイフは不自然なまでに軌道を逸らすと、側面の壁に突き刺さった。
「これはこれは物騒ですな。私は呼ばれたからやって来たまでのこと…」
「アラ、いつの間に来ていたのね。この部屋まで一切の気配を立てずに侵入するとは、これは期待できそうだわ」
「アリシャ様、奴は一体!?」
「レムロス、これがアナタの言っていた黒魔術衆よ」
「黒魔術衆!?」
レムロスは半裸のままその黒づくめの男を見渡した。男は目元以外の全身を黒いマントで覆い尽くしていた。
「私はこの宮殿に仕える宮廷魔術師。そして同時に忠実なるファーシスの信徒である。俗には”黒魔術衆”と呼ばれているな……」
「馬鹿な、お前のような黒づくめの者など、宮殿内で見たことはない…」
「フッ、当然よ、我ら魔法使いにとって姿形を変えて見せることなど然程難しくもない。加えて我らの組織力をもってすれば、身分を偽ることも造作もない……」
「しかし、ヒルメスはもう死んだはず……。そうでしょう、アリシャ様!」
「フェリオ」
「えっ!?」
「レムロス、アナタが兄ヒルメスを殺したがっていたように、ワタシにも是非とも殺したい人物がいるの。それがフェリオお姉様よ……」
「フェ、フェリオ様を、なぜ……どうしてそんな畏れ多い……」
「パパは言っていたわ。お姉様が死ねば、アタシは神殿の巫女に就任することができる。冥界からの神託を、その一身に授けられる巫女に……」
この世界、この帝国において神殿の巫女の権力は皇帝に次ぎ、時に凌駕することすらあった。フェリオがこれまで奔放な振る舞いを許されてきたのも、それが神意を体現しているという前提のもとであった。
神殿の巫女に就任するための条件、それは初代帝室アレニムス家の血を、もっとも濃く受け継いだ女であること。
「お姉様たちは今、大陸中央の砂漠から帝都へと戻って来るところよ。できれば都に入る前に殺してほしいのだけれど」
「フム。確かに合理的だが、実際には難しいでしょうな」
「何故?」
「コンジェルトン、フェリオ様の側には奴がついている」
「コンジェルトン…? 確か、ヒルメスのパーティにいた魔法使い……」
「強いのか?そいつは」
「恐らくはな。だが確かなことは何もわかっていない。奴はファーランドの断崖絶壁の修道院にて育ち、やがて島を出てこの大陸にやって来た…」
「それで?」
「奴はそれから、居住を定めず無宿人として旅をしながら用心棒のような仕事をしていたらしい。その途中でドワーフのエイデン、グラスランナーのウェド・カークと知り合いになり、ウェド・カークのツテでヒルメスのパーティに……」
「なるほど……ファーランドと言えば前人未到の魔境、そこで育ち、なおかつ用心棒をやっていたのなら腕は立つでしょう。でも、そこまで強いのかしら?」
「それがわからぬ。わからぬが、各地のギルドの親分衆から客分として迎えられ、幾多の”出入り”に加わっている。ここ50年ほどは、どの現場でもかすり傷一つ負っていないようだ……」
出入り、つまりその辺のヤクザの抗争だ。それと魔王や黒魔術の世界とでは、あまりにもスケールに違いがあるようにも思えた。
「ともかくコンジェルトンという者、油断ならぬ。そして奴の実力が判明するまで、フェリオ様には迂闊に手は出せぬ。だが、アリシャ様、あなたが我々と盟約を結ぶのであれば、その証として教主様からお預かりした黒魔晶石を、あなたにお渡しします」
ワタシはこくりと頷いた。するといつの間にか、手の中には丸い玉が握られていた。それは半透明で黒光りしている。
「アリシャ様、あなたは我々教団に資金を供与してもらいたい。我々はコンジェルトンはじめ勇者パーティーの面々について調査をし、時来たれば武力であれ権謀術数であれ、我らが教団の全力をもってフェリオ様を討つ」
「わかりました。では金品の受け渡しはレムロスが」
黒づくめの男は頷くと、窓を開けふわりと飛び立った。その体は間もなく外の景色と同化して見えなくなった。
―――――
黒づくめの男はレピテーションで宙を舞い、シャドウボディで姿を消していた。
「ガキどもめ。上手く口車に乗ってくれた……フェリオなどはどうでもよい。我ら教団が帝国を裏から牛耳るに当たり、一番の不確定要素はコンジェルトンだ。これから奴らのカネと権限を存分に利用し、コンジェルトンの行動パターン、戦闘データを徹底的に収集してみせよう……」
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