【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第七章 最終決戦 / 闇からの招待
②
「フェリオ様は…フェリオ様は神殿の巫女として勇者たちの戦いを見届け、必勝を祈願すると……」
「何?つまり天空城に……フェリオめ、この期に及んで巫女としての役目を全うすると言い出すとは……ゲフッ!ゲフッ!」
「大丈夫ですか、陛下。ここのところ咳をなさることが多いような……」
身を案じ、駆け寄ってくる宦官たちをパパは静止した。
「心配するな。大したことはない…季節の変わり目に体調を崩しただけじゃ……フェリオよ、お前の覚悟はよく分かった……」
パパはそう言うと、一呼吸間をおいて宣言した。
「皆の者よく聞け!フェリオが神殿の巫女としてその身を捧げる以上、ワシもここで座して待つわけにはいかん!これより帝国最高神祇職として、我ファルムス・アレニムス・チルクンダトゥスは”入水の行”に入る!」
「お父様、お止めになってください!今のその体でそんなことをすれば何が起きるかわかりませんわ!」
「言うなアリシャよ!どの道我らの祈願が通じなければ世界は終わる。そうなれば…ゲホォッ、ゲホォ!」
「お父様!」
「そうなれば……アリシャよ、もしフェリオが帰ってこなければ、お前が神殿の巫女に就任するのだ……世界はほどなく終末神の元に落ちるだろう。しかしそれは新たなる始まりでもあるのだ。始原神の五体と心臓から生まれし六正神、即ちファミス、マーヴァ、マイミー、ミャ・ダ、ラーバ、ファーシスがこの物質界に再臨される。そして終末神と六正神との間で戦いになり、そこから飛び散った血と肉片により、世界は再生される……それを見届けるのが、お前の役目じゃ……」
「私が、神殿の巫女に……」
「ゲフッゲフッ、し、私情を挟むな……アリシャよ、我ら帝室は、あくまで始原神、五正神に仕える身である。そのことを忘れるではない……」
「お父様……」
「脱衣!」
宦官たちはすぐさまパパの衣類を剥ぎ取った。
「ちょんわー、ちょんわー、クエッ!クエッ!」
「クエッ!クエッ!クエッ!クエッ!クエーッ!」
パパは完全なるトランス状態に入り、全裸で踊りながら神殿のプールへと向かっていった。このまま最低限の息継ぎを除き水中で坐禅を組み、決着まで飲まず食わずで過ごすのだ。
パパが渡り廊下を走り去っていく後ろ姿を見送った時、ワタシはバルコニーにレムロスがいるのを見つけた。彼は空を見上げていた。
「レムロス!」
「アリシャ様!御覧ください!空が!」
空は綺麗な赤紫色の夕日に染まっていた。レムロスの指差す方角に目を凝らすと、ワタシはようやく異変に気付いた。
「空が…歪んでいる……もしかして……」
「ゾグラフがメテオストライクを発動させ、冥界からマンモゾーアを呼び出しつつあるのでしょう……マンモゾーアは自らの周囲に亜空間の巣を作り出し、そこから次元の障壁を突破し、物質界にやってくる」
「レムロス……」
「アリシャ様、兄は、ヒルメスは勝てるでしょうか……?」
「わからない……でもアナタは、お兄さんに勝って欲しいと思っているのですか?それとも……」
「俺自身わからないんです…兄が勝利した時……。アリシャ様、唐突ですが”黒魔術衆”という存在を知っていますか?」
「え、ええ……レムロス、あなたまさか……!黒魔術衆を使って、兄を……!」
――そんな二人のやり取りを、物陰からこっそり覗き見る者がいた。
「クックックッ、ガキどもめ、いずれ我ら教団の力を借りるときが来るだろう…。その時を、楽しみにしておくぞ……」
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