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【異世界軍記物語】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第八章 邪悪なる前奏曲プレリュード

――帝都アレニア。

「おぬし、フェリオ様を、フェリオ様を見かけなかったか?」

宮殿の中を、ターメスはフェリオを探しうろつき回っていた。

「フェリオ様?であらせられましては神殿で祈祷をしておられるとか」

「何ですと!臨月の体で祈祷とな!?そんなことをすれば、ご自身は元より、お腹のお子様にも何があるかわからぬ!」

ターメスは急ぎ神殿へと向かった。

アレニアの宮殿はこの神殿を囲むように建築物が配置されていた。皇帝の住まう本殿から神殿へと伸びる渡り廊下には遥か昔、魔王ファロンを討ち取ったエルフ族の大賢者にして初代勇者でもあるイグニスと、帝国の建国者であり初代皇帝のアレニムス三世の巨大な石像が鎮座している。

そしてその神殿の四方にはファミス、マイミー、ミャ・ダ、ラーバ、宮殿の中央にはマーヴァと五正神それぞれを象徴する珠が配置されていた。この五正神および六正神を構成する際加えられるファーシス、さらに終末神であるハーディスは、その姿形を捉えることができないとされている。

ターメスは一礼し、神殿の内部へと入っていった。神殿は採光設計と磨き抜かれた大理石による反射により、床と空があたかも一体化するように造られている。マーヴァを象徴する珠が置かれた祭壇へと続く一本道の両側には水が張られ、異国から友好の印に送られてきた巨大なスッポンが泳いでいる。さらに祭壇の後ろには広いプールがあり、そこで「入水の行」が行われることもあった。

「まさかフェリオ様、そのお体で”入水の行”を……」

ターメスの予感は幸いにも外れていた。フェリオはマーヴァの珠の前で気を失っていた。

「フェリオ様!フェリオ様!しっかりなさって下さい!」
ターメスがその体を揺らすと、フェリオは意識を取り戻した。

「ターメス、来ていたのですね…」

「フェリオ様!どうなさいました!」

「見ての通り、神々に祈りを捧げておりました。その最中、強い陣痛で…気を失ってしまったのです。ですが、その時、マーヴァ様が、マーヴァ様が降りてこられました……」

「マーヴァ様が……一体どんなお姿を!?」

「残念ながら、それはわかりませんでした……ただ、お告げを……」

「それは、一体……」

「まず、もうすぐ生まれてくる赤ちゃんは双子です。双子の男の子と女の子だということです…」

「そして、マーヴァ様は二人の名前も託してくださいました…」

「つまり、”女児は母親の名を継ぐ”という古からの慣例を脱せよということですね」

「はい。その二人の名は……男の子は”アークア”、女の子には”ルーヴィ”と名付けよと…」

「……アークア、ルーヴィ……いずれもなんと神々しいお名前でしょう。そしてアークア様は近い将来皇帝に、ルーヴィ様は神殿の巫女パイティアに……」

フェリオはゆっくりと頷く。その額には、汗が滲んでいた。

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