シューファルシ
ビストロでバイトしている友人が言っていた。「うちのは裏メニューなんだけど、必ず用意しているよ。常連さんは、8割はオーダーしてくれるかな。」シューファルシとは、そういう食べ物らしい。和食で言えば…なんだろう。角煮とか、もつ煮とか、そんな感じなんだろうか。
フレンチのロールキャベツ。そう言ってしまえばそうなのだが、細かいところは結構違うし、何より、私自身が納得いかない。シューファルシとは、ロールキャベツにはない、優しさと芳醇さがある。もちろん、ロールキャベツという、心の温まる料理は否定しない。いや、むしろ好物だ。それでも、私の中では、シューファルシのほうが格上なのだ。
そもそも歴史が違う。ロールキャベツは『包んだもの』であるし、シューファルシは『詰めたもの』なのである。そこの違いは、結構大きいのだ。少し話の色が違うかもしれないが…親の愛で包まれているもの、親の胎内に居るもの…そのくらいの差はあるように思うが、話していて蛇足に思えてきたので、この話はこのくらいにしておく。
さて、そのシューファルシ。言ってみれば、シュー(キャベツの葉)の間に、ミンチされた豚肉を詰めて(挟んで)、スープで煮込んでいくという、さほど手間のかからない料理である。しかし、手間の割には、仕上がりのレベルが随分と高い。まず、この料理をテーブルの中心に「でん」と置かれると、誰しもが「おぉ」と声を出さずにはいられない。キャベツが丸ごと煮込まれて、まるでケーキのように8等分された切れ目から、ハーブと肉の脂から香りが立ち、そしてスープが染み出している。湯気とともに、テーブルを囲んでいる家族やゲストたちの機嫌も、ぐんぐん上に登っていくというものだ。
一口、箸でもフォークでもスプーンでも、好きなように一口ちぎって、食べてほしい。これほどまでに芳醇な香りと、そして優しい味、柔らかな食感を同時に受け取って、目を閉じない人はいまい。美味いだろう。そして、熱いだろう。ハフホフと言いながら、香りと味を堪能したら、冷えた辛口の白ワインで、口の中をリセットしてほしい。あなたは、次の幸せを再び口に運ぶ、その準備が出来上がることだろう。そして気づいたときには、同じ卓上のピックルスや、スパイシーな副菜、バゲットとお気に入りのパテ…テーブルが楽園に代わっていることだろう。それが、ひとりであっても、複数人であっても、だ。
もし、ご自身での調理にチャレンジされる方がいたら、是非、一つだけ、気を付けてほしい。詰めるひき肉には、たっぷりと好きな香りをつけて。ローリエ、ローズマリー、タイム…煮込むスープにも、ブーケガルニなんかを。そして、黒コショウをガリガリと挽くのも、忘れずに。
あ、合わせるのに最高のワインは…何本か、事前に試してみて。
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