全部嘘のモーニングルーティン
意識が覚醒する。また目覚ましが鳴る前に起きてしまったようだ。原因は、布団の上に横たわるパンチの重みだろう。
パンチはうちで飼っている猫だ。頭のところの毛がルパン三世の髪形に似ている。私がそう言うと、あいつは、なぜかその作者名からとって「パンチ」と名付けたのだ。あいつが拾ってきたときには片手に乗るほどの大きさで、否応ない命の儚さを感じ悲しい気分になった。今の彼の体格を見ているとあの頃の自分がバカバカしくなる。
体を起こす。2人で買いに行ったダブルベッドは、私とパンチが寝るには大きすぎる。
キャットフードを皿に入れ、ベランダに出て本日1本目のアメリカンスピリットに火をつけ紫煙をくゆらせる。もう文句を言う人もいないから部屋の中で吸ってもいいはずだが、4年間で身に付いた習性というのはなかなか抜けない。まあ副流煙は猫にも良くないだろうしこのままでいいか。空を見る。今日も雨が降るらしい。
エヴァンスのスコーンとコーヒーで朝食をとる。糖とカフェインが脳を活性化させる。
軽くシャワーを浴びると、髪をアップにし、スーツを身に付ける。高価ではないが、私の身体に合わせて仕立てられた一品。信頼を得るにはまず身だしなみだというのは師匠の唯一の教えだった。
スマートフォンが鳴る。ノーマンだ。どうやらまた私の交渉(ネゴシエーション)を必要としている人がいるらしい。今日も忙しくなりそうだ。
愛車「グリフォン」に乗り込みイグニッションキーを回す。旧車特有のエンジンの振動が心地よい。私は一度息を大きく吐き出すと、まだ目覚め切っていない街に向け、アクセルを踏み込んだ。
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