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西東京市へようこそ

ぼくは、生まれたまちを離れて住んだことがありません。ずっとひとつの街に住み続けているのです。同じ市内での引っ越しは2度ほどしています。一度は、両親が一戸建てを市内に建てたとき。もういちどは、じぶんが結婚したときです。

この2度目の引っ越しはまた少し変わっています。1度目の引っ越しを経験するまで住んでいたマンションに、結婚して妻となった女性とふたたび住むための引っ越しだったからです。同じマンションで、部屋番号すらも同じ。つまり、ぼくは、生まれてから1度目の引っ越しを経験する17歳くらいまでを過ごした物件に、出戻ったのです。

そうまでしてこのまちに住み続ける理由はなんですかと聞かれたら、ぼくはなんと答えるのでしょう。うーん、住みよいから?(なにが住みよいのだろう)どこへ出ていくのにも、そこそこちょうど良い距離に位置しているから?とくに、なにもないから?そのいずれも、ほんとうの感想です。なんだか、この決め手に欠けるような「なんとなく」感こそを、ぼくはいちばん重んじているのかもしれません。

固有名詞を明かしますと、ぼくの住むまちは西東京市というところです。漫画家のカラスヤサトシさん(『おのぼり物語』作者)は、ある号の『西東京市公民館だより』の取材に対して、西東京市のことを「住むことに意味が生じないまち」というようなことをおっしゃっていたように思います。これには、なるほどと同意する気持ちを抱きます。確かに、よくぞ的確に言い表してくれた、という感じです。

青山に住む、とか、吉祥寺に住む、とか白金に一戸建てがある…とかいうと、確かになにか、「住んでいる」だけでちょっとしたアドヴァンテージがあるかのよう、と言いますか、その「住んでいる状態を保っていること」自体が成果なり目的なりの意味めいたものを孕むような気がしてしまうのは、否めません。ステイタス、なんて言葉であらわした時代もあったかもしれません。職業だとか、住んでいるところだとか自体に何かしらの価値が生じるような現象が、あるにはあるのでしょう。

そうしたことへのカウンター、アンチ、抗議…とまではっきりとした態度でなく、ああ、そういう考えもあるね。ぼくは積極的には参戦せぇへんけど…くらいの、無視せず、けれど脱力した感じこそが、ぼくの人生のスタンスといいますか、結果としてからだの中心にある、核のような、アルゴリズムのようなものなのかもしれません。

実際、西東京市って、東京都のまんなかくらいにあるんですよ。北側は埼玉との境界でもあるので、中央と言ったら「いや、ちょっと北寄りだろう」と反論することもできますが。そんな位置にあるので、東は、都内区部、それから千葉県。西は、立川だとか八王子だとか、山梨県、長野県、静岡県…どこへ出かけていくのも、そこそこ無難な労力でいけます。それでいて、ブランド化された街ほど高い家賃でもない(…はず。相場に明るくありませんが。ある若い人に言わせれば、それでも西東京市は高いと評ぜられる方だ…と聞いたこともあります)。ここに住んで、働きながら、漫画を描くとか、音楽をやるとか、「なにかやる」「どこかへ行って、また帰ってくる」のには「ちょうどエエ」のです(関西からの移住者も多くいらっしゃいます)。ぼくのため息のようなことばでこれを言い表しますと、「コーヒーを飲みに帰るにはちょうど良いまち」です。

これから仕事なり家庭なり個人なりの拠点を探そうという方に、これといって西東京市をおすすめするわけではありません。いえ、もちろん、未来の拠点の候補に入れてもらえたらそれはそれで、目を丸くして歓迎します(悪くありませんよ)。

会社を置くには、ちょっと田舎もいいのかなぁと思います。社員が不便でなければですが。発信は、どこからでもできますからね。最近ぼくが訪れたまちで印象に残っているのは、秩父です。西武鉄道の新型特急車両「ラビュー」が導入されて池袋をターミナルに西武線沿いの街からもより快適で便利に行けるようになりました。自然が多くて、古い町並みを利用して新しくできたカフェなんかがところどころにあって、たのしい街でした。編集や制作の仕事をする環境としては、悪くないのじゃないかしらと思いました。たまに(しょっちゅう?)お祭りもあるようで、「祭りのまち」をアピールしているようにも見受けられますが、ぼくは秩父界隈のまつりを自分の目では見ていません。静かに過ごしたいひとは、参加しなければさほど影響ないのかなとも思います。もちろん、地域でつながりたい、盛り上がりたい、という思いをかなえるぶんには、差し支えないのではないでしょうか。

他市のことを熱心に述べていますが、西東京市にはまつりも、静かな環境も、地域のつながりも、孤独も、自然(二次的自然、ですが)も、人工物もほどほどにありますよ。それを良しとするならぜひ、あなたも西東京市に。

お読みいただき、ありがとうございました。



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