またたきのスケール
飛行機が飛ぶのは、翼の上側と下側の空気の流れるはやさの違いによって、翼が上側に引っ張り上げられるからだ……という説明で間違いがないか不安であるが、おそらくそんなようなことなんだろうと思う。
大きな質量を持った物体が空を飛ぶことなんて、発明されるよりずっと前にはにわかに信じられないことだったはずだ。その背景には、飛ぶことを目指して地面を一歩ずつ進んだ道がある。
魔法みたいなことが現実に起こるものだと思う。魔法というか、偶然の重なりあいだったり、確率的に低いから奇跡のように思えることだったりする場合もある。飛行機が飛ぶのは「揚力」というもののおかげだとして、揚力がはたらく瞬間をはじめて目の当たりにした人はそこに「魔法」の存在を感じるかもしれない。それを目の当たりにしても、なんでそんな現象が起こるのかその理由が、翼の上側と下側を流れる空気のはやさの違いにあるなどということを一目で判断できる者はまずいまい。
赤ちゃんをみて、次に同じ人を見たら大柄で毛むくじゃらのおじさんだった……となったらインパクトが強いだろう。でも、赤ちゃんは急に大柄のおじさんになったわけじゃない。すこーしずつ、なったのである。まばたきひとつする間にそのようなことは起こらない。まばたきの長さにもよるけれど。
とうてい無理だと思うようなことでも、場合によっては実現する。僕はいろんな楽器を演奏するが、ある楽曲の演奏にはじめて挑まんとするとき、こりゃあ今は全然無理だと思うことがある。それでも、できないところをひとつずつできる方にくつがえしていけば、その先に必ず「(1曲通して)できる」がある。できるようになってみてから、できなかったときを振り返ってみたとき、「ああ、できない時期があったなぁ」と思い出す。「できない」ときが赤ちゃんで、「できる」ようになったときを大柄のおじさんにたとえることができる。まばたきひとつするあいだに、赤ちゃんはおじさんにはならない。まばたきの長さにもよるけれど。
一発逆転のように見えても、それは観測点が始点と終点の2箇所だけだからそのように見えるだけだ、というケースがある。
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