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ブリーダーを卒業した日
9月のとある日、家の電話が鳴った。
2階から駆け降りたけど間に合わなくて受話器を取ったときには切れていた。画面上に表示された番号は見覚えのないものだった。
急な用事だったらもう一度かかってくるかな、と思って20分ほど放置したけど、なんだか気になってその番号を調べてみた。
神奈川からの電話だった。なんとなくふとある家族の顔が思い浮かんだ。もしかして…
家で生まれた子犬を譲った先のリストを調べる。あと1家族だけ最後の連絡をもらっていないのだった。
あーそうだ、間違いなくあの電話はS宅からだった。
慌てて折り返した。でもコール音がむなしく響くだけ。留守電にもならない。きっとグッディのことに違いない。予感は当たっていた。
我が家で生まれたラブラドールレトリバーで最後に虹の橋を渡った子。名前はグッディ。18歳7ヶ月もSさん家族と一緒に大切な時間を過ごしてきた。
大型犬のラブラドールレトリバーの平均寿命は12〜13歳。グッディの両親は母のフィンディこそ14歳半の犬生だったけど、父親のアンディは11歳で天に召されている。グッディは大往生だ!それだけ長い時間を家族と共に生きていた。
Sさんは言う。子供たちの1番多感で難しい時期に親との橋渡しをしてくれました、と。まともに話もできない時期にグッディが全部話を聞いてくれていました。本当に良い子で明るくて、どれだけグッディが大きな存在だったか計り知れないんです。流石に寝たきりがしばらくあったので覚悟はできていたとはいえ、一番最後までグッディから離れられなかったのは次男でした、と。
Sさんはグッディが誕生するまで一年以上待機してくれていた。小学生の男の子2人を連れて家族でうちに遊びにきてくれて、うちの10頭のラブラドールにもみくちゃにまみれて帰って行った記憶が蘇る。
私自身、欧米でいうところのバックヤードブリーダーではなく、シリアスブリーダーを目指して始めたブリーディングだったから、両親共に股関節形成不全の検査のためのレントゲンを海外に送ったり、遺伝性の目の疾患がないことを確認するために海外と同じレベルのアイチェックを受けてからブリーディングにのぞむということを開拓しつつ時期を待った。
色々な事情もあり、実際にブリーディングをした年数は短く、生み出した命はそれほど多くはない。我が家の最後の子、16歳の長老が旅立ったのも数年前で、うちにワンコはもういない。
17歳を超えたN家のネオにも驚いたけど、18歳7ヵ月のグッディが子犬としてお譲りした中で最後に虹の橋を渡った子になる。
迎えてくださったそれぞれの家族のもとでどれだけ大切にされて、大事な存在になっていったかを皆さんがこうして伝えてくれる。犬のブリーディングは家族を生み出すことであり、そんな大切な命をこの世に生み出した責任を悦びに変えてくれて、そしてその命を最後まで全うさせてくれた全ての家族の方々に心から感謝をいたします。
ああ、これでブリーダーとしての区切りがついた、と何ともいえない気持ちが溢れました。