『「みんなの意見」は案外正しい』ジェームズ・スロウィッキー著、角川文庫、2009
著者がジャーナリストということもあって、内容が取っ散らかっている印象…それをまとめ上げるのが腕の見せ所…まあ、そんな腕があれば、の話ですが…
5-6章、7-1は経済学を一通り勉強した人にとっては退屈かも。また、経済学に精通した人ならば、グローバル・ゲームの議論が参照されていないことを不満に感じるかもしれない…ただ、本書発表当時だとまだ最先端の議論だったのでしょうがない…
感想
7章
本章は「調整が失敗したとき」とあるが、そもそも本書が肯定的にとらえている「多様性」が無かった場合に渋滞が生じないことがありえるので、本書における意義が分かりにくい。
8章
本書の議論からして、科学的研究が多様性、独立性、分散性の条件が満たされているかどうかが分からない。また、1つの研究を選挙などのように多くの人が行う・追試する訳ではないので、その点でも条件は異なる。
なんで、科学の話が本書に登場するか理解できない。
10章
ここも、よくある組織論で、本書の主題との関係が分かりにくい。おそらく、市場の様な効率的なメカニズムとは違う存在を指摘したかったのだろうが、組織は権限・責任の分担など、単なる情報の集約以外の必須作業が多い。
0. はじめに
0-1. フランシス・ゴールトンのプリマス食肉用家畜家禽見本市分析
専門家以外の人が結構入っていても、全体の平均値が実際の雄牛の重さに収束する現象
ダーウィンの従兄弟。
0-2. 集団の知恵(集合知)と、それでも「専門家を追いかける」傾向
「専門家を追いかける」
0-3. 集団の狂気を信じる人々
0-4. 認知・調整・協調:本書の構成
認知:どこかの時点で必ず明快な答えが存在するタイプの問題(1章)
調整:市場や地下鉄の乗客などの集団のメンバー全員が同じような行動を取る中、ほかの人と調整する方法を考えなければならない(5章)
協調:利己的で、不信感いっぱいの赤の他人同士が一丸となって何かに取り組むようにするという非常に難しい課題(6章)
集団が賢くあるために必要な3条件:多様性(2章)、独立性(3章)、分散性(4章)
後半はケース・スタディ
0-5. 沈没した潜水艦を探せ!
ジョン・クレーブン元海軍士官
1. 集団の知恵
1-1. グループ・ダイナミクス
クイズ$ミリオネア
テレフォンの正答率は65%だが、スタジオの視聴者アンケートは91%
グループ・ダイナミクス
・室温の集団による推測、ヘイゼル・ナイト
・「ビンの中のジェリービーンズ」、ジャック・トレイナー
・ノーマン・L・ジョンソンの迷路
1-2. チャレンジャー爆発から21分で関連株価が暴落…
1986年1月28日午前11時38分。
ファイナンス教授、マイケル・T・マロニーとJ・ハロルド・マルヘリンの研究
関連企業の中で、事故に関する公開された情報はないのに、原因が固体燃料ブースターを担当していたモートン・サイオコールであることを突き止めた株式市場。
集団が賢くあるために必要な4条件:多様性、独立性、分散性、集約性
1-3. 確かなことが何もわからない未来の出来事に関する意思決定
ロバート・ウォーカー:スポーツ・ベッティングの胴元
https://www.linkedin.com/in/robert-walker-6469a741
1-4. 超優秀なGoogle検索:共和制
1-5. 投票・エンタメのギャンブル
IEM: Iowa Electronic Market
HSX: Hollywood stock eXchange
興行成績や後悔した週末の売り上げ、オスカーの受賞者などの賭け
・アニータ・エルバースの研究
・オーバーチュア社 デービッド・ペンノック
・UCLA エリー・ダハーン教授
・MIT, Technology Review, Innovation Future
・ジョージ・メイソン大学経済学部教授、ロビン・ハンソン
2. 違いから生まれる違い:8の字ダンス、ピッグズ湾事件、多様性
2-1. ランサム・オールズの11種類の試作車と蜂のハチミツ探し
・エジソンの電気自動車
・スタンレースチーマー(蒸気エンジン)
・その他の何百という自動車会社
蜂のハチミツ探し
・トーマス・シーリー:『ミツバチの知恵:ミツバチコロニーの社会生理学
可能性のある選択がありすぎるので、できるだけ多くの蜂を偵察に出す
イノベーションでは、絶対成功しそうにもないような大胆なアイディアを後押しする投資システムの存在が重要
2-2. 多様性の維持の重要性
多様性の推奨は、大きな集団よりも小さな集団やメンバーが限定されているかっちりとした組織体にとってより大きな意味をもつ。
会社などの組織の場合は、それとは対照的に認知的多様性を積極的に奨励しなければならない。特に組織が小規模であればあるほど、特定の偏向を持った少数の人物が不当な影響力を行使して、集団の意志決定を簡単に歪められるので、多様性を大事にしなければならないのだ。
ミシガン大学の政治学者 スコット・ペイジの意思決定のコンピューター・シミュレーションの実験
・結論:個々人のレベルで見ると、与えられた課題の解決に適しているエージェントもいれば、そうでないエージェントもいる。だが、頁の最終的な発見は優秀な意思決定者とそれほど優秀ではない意思決定者が混在している集団のほうが、優秀な意思決定者だけからなる集団よりも必ずと言っていいくらい、よい結果を出しているというものだった。
集団のレベルで考えれば、知性だけでは不十分だ。問題を多角的に検証する視点の多様性が得られないからである。知性というのは、スキルが入った道具箱のようなものだと考えると、「ベスト」と考えられるスキルはそれほど多くなく、したがって優秀な人ほど似通ってしまう。
・新しいメンバーの重要性:なんとも奇矯な結論だと思われるかもしれないが、それが真実なのだ。似た者同士の集団だと、それぞれが持ち込む新しい情報がどんどん減ってしまい、お互いから学べることが少なくなる。組織に新しいメンバーを入れることは、その人に経験も能力も欠けていても、より優れた集団を生み出す力になる。その集団にいる古参のメンバー全員が知っていることと、新しいメンバーが知っているわずかなことが重複しないからだ。
2-3. 専門家への妄信
ウォートン・ビジネススクールの教授J・スコット・アームストロング
ジェームズ・シャントー:専門性の本質の研究に関してはアメリカを代表する研究者
専門家の判断が必ずしも同分野のほかの専門家の判断と一致しないことや、一人の専門家の判断さえも一貫していないことを明らかにした調査を挙げている。
経済学者のテレンス・オディアン
専門家は自信過剰
アームストロング
リチャード・ラリックとジャック・B・ソル
平均することは妥協であり、レベルを下げることだと直感的に思っている
本当の知力は個人に備わっているという私たちの思い込み
私たちが「偶然のいたずらにだまされてしまう」
ことがある。世の中に予測をしている人がたくさんいれば、そのうち何人かは何年かの間になかなかの成績をおさめることになる。だが、その成績は必ずしも優れたスキルのおかげでもたらされたわけではないし、同じような成績が未来にも得られる確証もない。
2-4. 個人の判断が正確でもなければ、一貫性も持っていない:ビッグス湾事件
心理学者のアービング・ジャニスが言うところの「集団思考」の餌食になりがちである。
ソロモン・アッシュ
3. ひと真似は近道:模倣、情報の流れ、独立性
結論:モノマネで上手く行くかどうかは運任せ
3-2. 空を見上げる実験とNFLのセイバー・メトリクス
NFLの戦術:ながらく間違った戦術が用いられたのはなぜか?
3-3. ハーディング(群集行動):情報カスケード
plank road(失敗した例)
Klein, Daniel B., and John Majewski. "Plank road fever in antebellum America: New York state origins." New York History 75.1 (1994): 39-65.
情報カスケードに関する2つのモデル
・ティッピング・ポイント
Gladwell, Malcolm. The tipping point: How little things can make a big difference. Little, Brown, 2006.
・Bikhchandani, Hirshleifer and Welch (1998)
Bikhchandani, Sushil, David Hirshleifer, and Ivo Welch. "Learning from the behavior of others: Conformity, fads, and informational cascades." Journal of economic perspectives 12.3 (1998): 151-170.
通行人(メイヴン)・媒介人(コネクター)・セールスマン・モデル
Bikhchandani, Sushil, David Hirshleifer, and Ivo Welch. "Learning from the behavior of others: Conformity, fads, and informational cascades." Journal of economic perspectives 12.3 (1998): 151-170.
ネジの規格化
3-4. 『ヒトはどのように進化してきたか』
Boyd, Robert, and Joan B. Silk. How humans evolved. WW Norton & Company, 2014.
Gross, Neal C. (1942) The diffusion of a culture trait in two Iowa townships. M.S. Thesis, Iowa State College, Ames.
Dimit, Robert Morgan. Diffusion and adoption of approved farm practices in 11 counties in southwest Virginia. Iowa State University, 1954.
3-5. ビー玉の実験
Plott, Charles R., and Kathryn Zeiler. "The willingness to pay–willingness to accept gap, the “endowment effect,” subject misconceptions, and experimental procedures for eliciting valuations." American Economic Review 95.3 (2005): 530-545.
4. ばらばらのカケラを一つに集める:CIA、リナックス、分散性
4-1. 真珠湾、9・11とアメリカの情報機関
4-2. なぜアメリカの情報機関は分散していたのに失敗したのか?
分散した情報が成功・失敗する条件
4-3. Linuxの分散性がもたらす多様性
4-4. 分散した情報の集約:イラク戦争の例
4-5. 情報を集約と判断の集約:DARPAの未来予測システム
5. シャル・ウィ・ダンス?:複雑な世の中でコーディネーションをする
5-1. 歩行者や市場の動き
5-2. エルファロル問題
5-3. フォーカル・ポイント
5-4. 交通に関する慣習
5-5. 価格メカニズムを阻害する慣習
5-6. 簡単な個のルールが導き出す自生的秩序、市場メカニズム
5-7. 市場メカニズムの実験
第Ⅱ部
6. 社会は確かに存在している:税金、チップ、テレビ、信頼
6-1. 不正まみれのイタリア・サッカー:日韓WC
6-2. 最後通牒ゲーム
6-3. 繰り返しゲームとその批判
社会ではプラス・サムが多いと主張
6-4. 資本主義の成立に貢献する協力
6-5. 信頼を担保する制度
6-6. 特定地域の視聴率調査に関する協調の問題
6-7. 公共財ゲーム
Fehr, Ernst, and Simon Gächter. "Cooperation and punishment in public goods experiments." American Economic Review 90.4 (2000): 980-994.
7. 渋滞:調整が失敗したとき
7-1. 渋滞時間帯の混雑課金
7-2. 応用数理と交通工学の分析
応用数理
摩擦があるので、「物が上から下に落ちる」という単純な動きが生じないことがある。極端な例は、砂時計の砂を湿らしたりして、砂同士の摩擦を大きくしてやれば、砂は下に落ちなくなる。穴の詰まった塩とか胡椒のビン。
交通工学
7-3. 運転手の多様性が無かったらどうか? そしてそれは実現可能か?
8. 科学:協力、競争、名声
現代科学の進歩の源泉を端的に示す好例:チームワーク
科学における協力、競争、名声
・科学の特徴:リーダーがいない
厳密には、ヒルベルトの23の問題のように、業界のリーダーが研究の方向性を提示することはあるし、それがある程度その後の研究の方向性に一定の影響を与えることもありえる。
・科学の特殊性
まず、「知識・・・はほかの資源と違って、消費されて枯渇してしまうような類のものではなく、価値を失うことなく広く行き渡らせることができる」
これは非競合性という経済学的な概念である。
ジョエル・モキル
ロバート・K・マートン
・科学の問題点
ルイス・ウォルター・アルヴァレズ
9. 委員会、陪審、チーム:コロンビア号の惨事と小さなチームの動かし方
今までは多くの人が係る問題で、どの様な条件であれば上手く行くかを検討してきたが、この章では少人数のグループの場合に陥りやすい問題を指摘している。
コロンビア号空中分解事故
小さな組織の運営上の問題
陪審員の研究
・証拠ベースと評決ベース(pp. 195-196)
・チャ―ラン・ネメスの模擬陪審実験
集団極性化
10. 企業:新しいボスって、どうよ?
10-1. ザラのスピード生産体制
10-2. ギャング映画に学ぶビジネス理論
ゴッド・ファーザー2に見るプリンシパル・エージェント問題
10-3. 組織の問題
10-4.
10-5. 分権化
分散化のメリット1
分散化のメリット2
スーパーマンの様なCEOなどいない
11. 市場:美人投票、ボウリング場、株価
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https://scholar.google.com/citations?user=mENuLvUAAAAJ&hl=en