『誰も書けなかった東京都政の真実』鈴木哲夫著、2017


感想

全体

はじめに

メディアの構造で言えば、都庁記者クラブは社会部が担当しているため、記事は社会面に掲載されるが、社会面は事件や事故が優先され、そもそもスペースはかぎられている。そのなかで、たとえば「豊洲での建設で入札ゼロ」「建設工法が変更に」という事実があったとしても、社会面はもちろん、一面や二面、政治面などにも載らない。都庁詰めの新聞記者たちと話すと、彼らも忸怩たる思いをしてきた。

p. 5

第1章 劇場化した東京都知事選の全真相

松添がクビになった背景や、自公与党、野党民進の動きなど。


・小池百合子氏が出馬について相談した意外な相手(pp. 52-54)


これは下村なのだが、このあたりも森の覚えがめでたくなくなったことに繋がったのかもしれない。


第2章 都庁官僚と都議会のカラクリ

石原時代、小池時代の説明も。

小池時代は、都議、都職員と対決姿勢だったことが分かる。


・「本当の闘い」はこれから始まる

よく「伏魔殿」という言葉が使われるが、要はその組織とか個人が動くメカニズムが分かっていない人間が怖がって言っているだけ。官僚機構のメカニズムなんて、19世紀とか100年以上前ににウェーバーが明らかにしている。


・小池百合子氏が決断した「副知事全員続投」の真意

いずれ改革の進み具合を見ながら、小池氏は「副知事」の外部登用に踏み出すだろう。

p. 103

結局2017年中に3人、最後の都職員上がりの川澄俊文も2018年に退任している。


・小池都政のキーマン上山信一氏、小島敏郎氏の素顔

また、坂根氏と須田氏は「利権追及コンビ」(同側近)。坂根氏は小池氏を応援した自民党衆議院議員で元検事の若狭勝氏と同じ弁護士事務所に所属する検事出身。須田氏は債権回収のエキスパート。つまり、オリンピック・パラリンピック問題や豊洲だけでなく、都庁の巨大事業や利権などと噂される物件について、この二人がつねに徹底して調べ上げ、「利権追及」に全力を挙げるということだ。

p. 107

利権追及…?

こうした顧問団に加えて、小池氏が就任早々の記者会見で明らかにしたのが「公開」という武器だ。

「基本的に都政改革本部の会合はインターネットで公開する方針。小池さんはオリンピック調査や豊洲に関しても報道陣などにオープンにすることを考えている。そこに都庁の各担当者を呼んで経緯などを衆人環視のなかで説明してもらう。公開は小池都政の運営では大原則」(同側近)

都庁内ではここに引っ張り出されることに「戦々恐々とする幹部もいる」(現役職員)という。

pp. 107-108

情報公開?


第3章 東京オリンピックと豊洲移転の深層

前半は東京五輪。松添都知事が無駄に切り込んだこと、小池都知事も当初はその方向性だったことが触れられている。ただ、小池の側近から「シンボリック」という言葉が2回出ていて、ちょっと微妙な…もちろん、開催時期までに建設を間に合わせなくてはならなかったのだが…ただ、やっぱり「復興五輪」とか彼女のパフォーマンス先行だった印象は否めない…

伏線として、東京都連の下村が森に嫌われて割を食った印象。


・東日本大震災で失われた公表のチャンス

後半は豊洲移転、特に盛り土問題だが、新銀行東京に費用がかかったので、豊洲の環境対策を盛り土より安く上げたかったという説明は説得的ではない。もしそうなら、それを公表して節約姿勢を示す必要があるが、それは全く行われていない。パフォーマンス抜きでは意味がない。



はじめに:小池百合子知事が打破を狙う東京都の「特殊性」とは

小池百合子氏が東京都知事に就任して三カ月がたった二○一六年一一月。

豊洲新市場問題の解明、さらには都議会との初対決、都政改革など、あらゆる言動が連日全国のトップニュースになり、テレビ局各社のお昼の情報番組などは大々的に伝えていた。

都庁での取材を終えた私は夕方、東京都庁と隣接する都議会棟がつながる通路を歩いていた。サイドはガラス張りで、眼下にはちょうど都庁の正面玄関が見える。その入口にはテレビ局各社と新聞各社のカメラマンや記者、ディレクターたち数十人がズラリと並んでカメラを構えていた。小池氏はその時間、まだ庁舎内にいた。小池氏の、いわゆる「出待ち」だったのだ。

就任からずいぶんたっても、小池氏の東京オリンピック・パラリンピック施設見直しや玄関前で構える彼らは夕方だけではなく、じつは毎朝、小池氏が登庁する際にもここで待って、「入り」を撮影していた。

「おはよう」

その際には一緒に陣取る記者たちが質問を投げかける。

「小池知事、おはようございます」
「今日の都政改革本部会議はどうなりそうですか」

一連の光景と小池氏の表情が、都政ニュースのバックに毎日、映像として流された。どこかで見た風景だ。

同じように毎日「入り」と「出」を映し、ニュースになる・・・・・・官邸に出入りする「総理大臣」である。

「小池さんの注目度は政治分野では、いまは国政以上です。視聴率もずっといいから、私たちも取り上げる。既得権と戦う、税金の使い方を取り上げるなど、とにかくわかりやすい」

(民放キー局情報番組プロデューサー)

小池氏の政局カンや政策の斬新さなど政治家としての資質が、このいわば「小池劇場」をつくりあげていることは間違いない。政治家・小池百合子が敵を仕立てて戦う痛快さと改革への高鳴る期待から、ドラマは日ごとに注目を集めている。

だが、忘れてはならないのは、この「小池劇場」が成り立っているのは、「東京都」という特異な地方自治体がその舞台になっているからこそ、ということだ。

東京都は日本にある四七都道府県のひとつだが、ほかと並列で語るのは少し違う。税収で財政を賄うという唯一の裕福な自治体。予算規模は信じられないほど大きく、そこに行政のゆるみが生まれる危険性をはらむ。また、職員たちは優秀で、「都庁官僚」などと呼ばれているが、逆に官僚社会が陥りがちな「官僚主導政治」になり、ときに知事すら相手にせず、都民の存在すら忘れてしまうことがある。

つまり、小池氏の登場と斬り込むテーマが、首都でもあるこの「東京都」という自治体の実態をもさらけ出したのだ。

メディアの構造で言えば、都庁記者クラブは社会部が担当しているため、記事は社会面に掲載されるが、社会面は事件や事故が優先され、そもそもスペースはかぎられている。そのなかで、たとえば「豊洲での建設で入札ゼロ」「建設工法が変更に」という事実があったとしても、社会面はもちろん、一面や二面、政治面などにも載らない。都庁詰めの新聞記者たちと話すと、彼らも忸怩たる思いをしてきた。

つまり、都庁自身が持つ官僚主導によってことが水面下で進み、一方、メディアでの露出が少なかったことで都政の問題点がやりすごされてきた面がある。

それが前都知事の舛添要一氏の税金の使い方に端を発し、政治資金スキャンダル、辞任、そして小池氏の登場にいたる経緯であらゆる問題に火がつき、派手に燃え上がった。

私は一九九五年に東京にローカルテレビ局として開局した「東京メトロポリタンテレビジョン(通称・TOKYOMX)」の開局メンバーだった。ニュースセンターの一員として東京都や東京の政治を取材し始めた。そうしたこれまでの取材内容とあわせ、今回繰り広げられた「政変劇」の舞台裏の取材、さらにはせっかく首都の行政を「都民ファースト」で見直すきっかけができたことを生かすためにも、「伏魔殿」とも呼ばれてきた東京都と東京都政の真実をまとめた次第である。

今後の小池氏の都政改革の方向などもあわせて東京都政を知り、見直し、考える参考にしていただければ幸いである。

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