『地域包括ケアシステム : 「住み慣れた地域で老いる」社会をめざして』西村周三監修. 2013

全ページ数が約300。ここに15章+その他を押し込んだために、1章1章の中身が薄い。内容に統一感がなく、ほとんど見るべきところがない…


◆目次

はしがき

 序章 地域包括ケア――国際的視角から  西村 周三
  1 地域包括ケアとAgeing in Place
  2 Ageing in Place研究の動向

第1部 日本の人口動態と社会保障への影響

 第1章 人口構造と世帯構成の変化  鈴木 透
  1 はじめに
  2 人口高齢化とその都道府県格差
  3 市区町村別将来人口推計からみた高齢化
  4 高齢者の居住状態の地域構造

 第2章 医療・介護サービスへの影響  西村 周三
  1 はじめに
  2 地域ごとの人口構造、世帯構造の変化
   (1)地域のとらえ方
   (2)今後の高齢化の地域ごとの特徴
  3 地域包括ケアを踏まえた今後の医療・介護
   (1)計画vs.競争
   (2)利用者視点への転換はいかにして可能か?
     ――地域の多様性の視点
   (3)ICT活用への期待
  4 地域機能の維持――人材確保と財源

 第3章 社会保障財政および個人負担への影響  金子 能宏
  1 はじめに
  2 社会保障の給付と負担――日本と先進諸国の動向
  3 医療保険・介護保険の給付と負担の推移
   (1)医療保険の給付費の推移
   (2)介護保険の給付費の推移
   (3)医療保険の財源構成と国庫負担の推移
   (4)介護保険の財源構成と国庫負担の推移
  4 少子高齢化が社会保障財政に及ぼす影響 
    ――世代別にみた給付と負担への影響
   (1)世代間の給付と負担の関係を測る方法――世代会計
   (2)人口動態の社会保障負担への影響――世代別の影響
  5 社会保険料・租税負担の公平性――負担の現状と逆進性緩和の方策
  6 まとめと今後の課題

【第2部】 社会保障・税一体改革と地域包括ケア

 第4章 医療・介護制度の展開と社会保障・税一体改革  岩渕 豊
  1 医療・介護制度の展開と社会保障財政
   (1)社会保障の機能強化
   (2)医療・介護政策の新たな展開
  2 社会保障・税一体改革
   (1)持続可能な社会保障制度構築と安定財源の確保
   (2)社会保障・税一体改革大綱
  3 2012年度診療報酬・介護報酬同時改定
   (1)2012年度診療報酬改定
   (2)2012年度介護報酬改定
  4 今後の展開と課題

 第5章 地域包括ケアにおける自助、互助、共助、公助の関係  高橋 紘士
  1 共助と公助――介護保険法と老人福祉法
  2 介護保険の制度原理
  3 自助、互助、共助、公助のパラダイムの意義
  4 低所得者から生活困難層へ――自助と互助の喪失への対応
  5 生活困難層への支援モデル確立へ


第6章 地域包括ケアの前提となる住宅確保にかかる政策的課題 白川泰之

1 はじめに

介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(平成23年法律第72号)は、2012年4月より施行されたが、その趣旨は、「高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるようにするため」に医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを切れ目なく提供する「地域包括ケアシステム」の構築(*)を目指すものである。ここで今一度確認しておくと、地域包括ケアは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で」(地域包括ケア研究会、2009、p. 6)(**)展開されるものである。すなあち、住宅の確保が大前提として据えられているのである。

(*)「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律等の公布について(平成23年6月22日付老発第0622 第1号・都道府県知事あて厚生労働省老健局長通知)、p. 2。

(**)「地域包括ケア研究会報告書――今後の検討のための論点整理」(平成20年度老人保健健康増進等事業)

一方、高齢者住宅財団の推計によれば、高齢者単身世帯のうち、民間借家居住の要支援または要介護者世帯(単身・借家・要介護等)は、2010年に全国で177,524世帯であったが、これが20年後の2030年には、379,906世帯に増加するとしている。これを東京都に限った推計でみると、同じく2010年の29,690世帯から2030年には83,109世帯へと増加するとしており、特に、都市部において、増加が著しいことが分かる(高齢者住宅財団、2012、pp. 25-26)(*)。もちろん、これらの単身・借家・要介護等世帯がすべて住宅確保困難者となるわけではないが、顕在化しうるニーズとして押さえておくべきであろう。

(*)「低所得高齢者の住宅確保と介護施設の将来像に関する調査・検討」(平成23年度老人保健健康増進等事業)

一方で、高齢者の介護施設は、高齢者保健福祉推進十か年戦略以来、計画的な整備が推進されてきたが、都市部においては、現状においても整備計画量に実績値が届かないという状況も生じており、なおかつ、特別養護老人ホームの入所申込者数は、全国で約42.1万人(*)に上るなど、今後、施設への入所によって居住のニーズに対応できる可能性は限定的と言わざるを得ない。

(*)「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」(平成21年12月22日厚生労働省公表資料)

・・・


2 住宅確保にかかる政策の限界

現行の社会保障政策、住宅政策は、高齢者の住宅の確保について、どのような態度をとっているのだろうか。この点については2つの評価が成り立ちうる。1つには、「低所得者向けの残余的居住政策」である。これは、必ずしも高齢者に限られるものではないが、社会保障政策の面からみると、生活保護法では、困窮のために最低限度の生活を維持できない者に対し、居住、補修その他住宅の維持に必要なものについて、住宅扶助を行うこととしている(生活保護法第14条)。こうして被保護者は、住宅扶助により住宅の確保が可能となるが、要保護状態に至らない低所得者については、先進国で普及をみている住宅手当制度も日本には恒久的な制度としては存在せず(*)、住宅を保証するための方策が手薄である。もう一方の住宅政策としては、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、または賃貸するために「公営住宅」を整備してきた。しかし、公営住宅についても、特に都市部では選考倍率が著しく高率となり、抽選結果という運に左右される状況は、「保障」という言葉にはほど遠いと言わざるを得ない(**)

(*)昨今の雇用情勢を受けて、政府では、住宅手当を導入したが、これは住宅を喪失し、またはそのおそれがある者に対し、就労能力と常用就職の意欲があって公共職業安定所に求職申し込みを行うことを前提として、家賃額の補助を行うものである。しかし、この制度では、対象者が低所得者一般ではなく、稼働年齢層に限定され、かつ、支給期間も6カ月から最長9カ月と恒常的なものではないことから、有意義な制度ではあるものの、本質的な限界を抱えていると言わざるを得ない。

(**)高齢者住宅財団(2012、p. 59)によると、全国平均の応募倍率が15.5倍であるのに対し、東京都特別区の場合、平均応募倍率が31.9倍、最大応募倍率は103倍となっている。

もう1つの評価は、「被用者OB向けの住宅政策」である。これは、サービス付き高齢者向け住宅のように、使用料の設定水準が厚生年金等の受給者でないと賄えない水準に設定されることにより、事実上、被用者OBとして厚生年金等を受給する者にしか対応できないということを指す。すなわち、老齢基礎年金(国民年金)のみの受給者や遺族年金受給者には、住宅の保障が及んでいないのである。

以上のように、わが国における高齢者の在宅確保に関する政策は、要保護者または中高所得者に重点化され、その中間にある層に薄い。特に、住宅の確保に困難を抱える低所得者層に着目すると、保護を要しない水準の低所得であれば、住宅の確保がきわめて不安定な立場に置かれ、そこから保護を要する状況にまで達するに至って初めて、住宅扶助によって住宅が保障されるということになる。換言すれば、最低限度の生活として保障されている住宅が、最低限度の生活を越える場合には保証されないという奇妙な「逆転現象」が生じているのである。


3 政策展開の方向性

(1)憲法第25条と住宅
(2)低所得者型かアフォーダビリティ向上型か

住宅確保のための政策を構築する場合に、大別すれば、「低所得者型」か「アフォーダビリティ向上型」かという2つの選択肢がありえる。前者は、文字どおり低所得者層に限って住宅の公的保障を行うものであり、後者は、より広い所得階層をターゲットにして、適正な家賃で適正規模の住宅の確保をよりよういにするものである。・・・

・・・

(3)現物給付と現金給付


4 住宅手当をめぐる論点
(1)誰に保障をするのか
(2)どの水準を保障するのか
(3)他の給付との関係

5 むすび



【第3部】 各サービス供給の現状と諸課題

第7章 在宅医療の現状・理念・課題  島崎謙治:政策研究大学院大学

1 はじめに

本章では在宅医療について論じる。地域包括ケアと在宅医療の関係をどう捉えるかということについては議論の余地がある。すなわち、「地域包括ケアが上位概念で在宅医療はその構成要素である」とする見方が一般的だと思われるが、筆者は「地域包括ケアと在宅医療は表裏一体のものである」と捉えるべきだと考えている(その理由は第4節で述べる)。ただし、後者の立場を採る場合はもちろんのこと、前者の見解に立つ場合であっても、地域包括ケアを進める上で在宅医療が必要不可欠であることは間違いない。問題は、国が在宅医療の政策の旗を振っても、思ったような成果が上がっていないことである。それは一体なぜなのか。理念が間違っているのか、あるいは政策の手法が適当ではないのだろうか。それとも、国民の期待と関係者の意識等が隔絶しているためなのだろうか。本章の目的は、このような問題意識に立ち、在宅医療の現状を押さえた上で、在宅医療の理念について考察を行い、克服すべき課題を明らかにすることにある。


2 在宅医療の現状
(1)在宅医療の政策の動向と沿革

在宅医療や地域包括ケアの推進に向け政策の舵が大きく切られている。2012年度予算では、在宅医療の実施拠点となる基盤整備に23億円、在宅医療の人材育成に1憶900万円が投じられた(メモ者注:モデル事業)。また、2010年の診療報酬改定では医療と介護の連携強化や在宅医療の充実に1,500億円が充てられ、介護報酬改定でも24時間定期巡回・随時対応型訪問介護など新メニューの創設をはじめ地域包括ケアに重点的な配分が行われた。さらに、2010年度の医療計画の改定に当たっては、「在宅医療の体制構築の指針」(メモ者注:「在宅医療の体制構築に関る指針」のことか?)が設けられるなど在宅医療は5疾患・5事業と並ぶ大きな柱と位置づけられた。他方、2011年の法改正により地域包括ケア推進の努力規定が介護保険法に設けられたのを受け、第5期介護保険事業計画の算定に当たっては、医療と介護の連携について明記することとされた(*)。いわば予算・報酬・制度の「総動員体制」であり、厚生労働省の幹部の口から
 「2012年度を”新生在宅医療・介護元年”の年にしたい」
 「法律上は、平成24年をもって、地域包括ケア元年ということになる」
という言葉も発せられている(**)

(*)地域包括ケア推進の努力規定とは、2011年6月に成立した「介護サービス基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により新設された、介護保険法5条3項の規定を指す。

(**)前者は大谷泰夫医政局長(当時)の全国厚生労働関係部局長会議(2012年1月20日)における発言、後者は元老健局長の宮島俊彦の著作(宮島、2012、「地域包括ケアの展望」、p. 18)からの引用である。

・・・

(2)在宅医療の普及状況
(3)家族介護の実態

3 在宅医療の理念
(1)患者中心の医療と在宅医療
(2)個人の意思の尊重と憲法上の根拠
(3)在宅医療の本質

4)在宅医療の定義と地域包括ケアとの関係


4 在宅医療の問題
(1)国民の意識からみた在宅医療の阻害要因
(2)在宅医療が進まない本質的な理由

(3)在宅医療を進めるための制度的な政策課題
  5 おわりに

 第8章 介護予防とリハビリテーションの現状と課題  備酒 伸彦
  1 はじめに
  2 高齢者の障害概念の変遷(時代とともに変わるケア)
  3 生活期にある高齢者の機能および機能低下の特徴
   (1)成長と老化のベクトル
   (2)予備力の少なさへの備え
  4 介護予防の観点からみた現在のケアサービスの問題点
   (1)何のための介護予防事業か(手段なのか目的なのか)
   (2)介護職の意欲に関する問題
   (3)人レベルのケアを実現するために(普通の暮らしを支援するケア)
   (4)人としてのケアを実現するために(生活機能≠身体機能)
  5 おわりに

第9章 サービス付き高齢者向け住宅と生活支援サービス 三浦研・落合明美
  1 はじめに
  2 高齢者向け住まいの整備状況
   (1)サービス付き高齢者向け住宅創設の背景
   (2)サービス付き高齢者向け住宅の登録情報の分析
   (3)分析結果からみた現状と課題の整理
  3 サービス付き高齢者向け住宅における生活支援サービス
   (1)生活支援サービスの実態と課題
   (2)生活支援サービスの提供および実施状況
   (3)生活支援サービスの提供主体
   (4)生活支援サービスの費用の支払い方法
   (5)利潤が生みにくい生活支援サービスの実態
   (6)ハードから浮かび上がる課題1――狭い住戸面積
   (7)ハードから浮かび上がる課題2――行政指導のあり方
  4 高齢者が多数集住する団地や地域の課題
   (1)高齢者が多数集住する団地や地域における訪問介護の事態
   (2)高齢者が多数集住する団地や地域におけるシミュレーション
   (3)地域全体をマネジメントする視点の必要性

 第10章 退院支援/退院時ケアマネジメントの現状・課題と改善策
       ――要介護高齢者の退院後のADL向上の観点から  川越 雅弘
  1 はじめに
  2 退院支援/退院時ケアマネジメントとは――用語の操作的定義
   (1)退院支援とは
   (2)退院支援の流れ
   (3)退院支援/退院時ケアマネジメントの定義――用語の操作的定義
  3 退院支援/退院時ケアマネジメントの現状と課題
    ―退院事例調査から
   (1)回答者(介護支援専門員)の基礎資格
   (2)入院の状況
   (3)退院支援プロセス
   (4)まとめ
  4 訪問リハの新規導入要因分析
    ――リハの継続性を確保するための介入ポイントとは
   (1)独立変数として分析に用いた変数名
   (2)分析方法
   (3)結果
   (4)まとめ
  5 多職種協働ケアマネジメントの効果評価
   (1)調査方法
   (2)結果
   (3)まとめ
  6 退院支援/退院時ケアマネジメントの質向上に向けて
   (1)病院スタッフと介護支援専門員間の具体的な連携方法を提示する
   (2)退院後の多職種による課題認識/ケア方針策定のプロセスを強化する
  7 おわりに

【第4部】 財源/利用者負担からみた持続可能性

 第11章 2025年の医療・介護費用試算と高齢者世帯の家計  山本 克也
  1 はじめに
  2 医療・介護費用の試算
  3 医療・介護費用が高齢者家計に与える影響
   (1)年金額の試算方法
   (2)年金の試算結果と世帯の作成
   (3)高齢者世帯の可処分所得の試算
   (4)夫婦世帯と医療・介護支出
  4 おわりに

 第12章 都道府県別推計年金可処分所得からみた医療・介護の負担能力  山本 克也
  1 はじめに
  2 年金試算の先行研究
  3 都道府県別医療・介護費用、年金受給額の試算
   (1)医療・介護保険料の試算
   (2)厚生年金保険の受給額の試算
   (3)高齢者世帯の推計年金可処分所得の試算
  4 試算の結果と評価
  5 おわりに

【第5部】 地域包括ケアの先行事例

 第13章 民間・行政のコラボレーションによる地域包括ケア
       ――住まいと連続的ケアの連携事例  小山 剛
  1 地域に対する取り組みと気づき
  2 地域包括ケア、サポートセンターへの道
   (1)短期入所生活介護
   (2)訪問介護
   (3)通所介護
   (4)訪問看護
   (5)配食サービス
   (6)認知症対応型共同生活介護
   (7)バリアフリー住宅
   (8)健康の駅
   (9)小規模多機能型居宅介護
   (10)サテライト型居住施設
  3 民間・行政のコラボレーション

 第14章 長寿社会のまちづくりプロジェクト
       ――千葉県柏市豊四季台地域の事例  松本 直樹
  1 柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会発足の背景
   (1)柏市の高齢化の現状と将来推計
   (2)豊四季台地域の現状と課題
   (3)研究会の発足と目指すべき方向性
  2 在宅医療の推進
   (1)在宅医療の必要性
   (2)行政としての役割
   (3)在宅医療推進のための取り組み
  3 高齢者の住まいと医療・介護サービスの組み合わせ
  4 高齢者の生きがい就労の創設
  5 おわりに

 第15章 高齢化の課題解決プロセスと日常生活圏域ニーズ調査
       ――大分県臼杵市の事例  西岡 隆
  1 はじめに
  2 臼杵市の高齢化の現状と今後の見通し
  3 高齢者が抱える課題の抽出と地域のつながりを重視した取り組み事例
   (1)高齢者が抱える日常生活上の課題の抽出
     ――日常生活圏域ニーズ調査を用いて
   (2)大学、医師会、行政、そして地域が連携した“認知症対策”
   (3)「安心生活お守りキット」の普及
   (4)「地域振興協議会」の設置
  4 持続可能な地域づくりと豊かな老後生活

 終章 地域包括ケアの将来展望  金子 能宏・川越 雅弘・西村 周三
  1 はじめに
  2 財源の確保
  3 地域包括ケア提供体制構築上の課題とは
   (1)地域包括ケア提供体制の構築が求められる背景とは
   (2)地域包括ケア提供体制構築上の問題
     ――在宅生活の継続性の確保に向けて
  4 高齢者は変われるか?
    ――参加型地域包括ケアシステムに向けて

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