『征服と文化の世界史:民族と文化変容(下)』トマス・ソーウェル著、2004
感想
第5章 新大陸のインディアン
単純に良く知られていない事実。
5-1. 地理的条件
これは、ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』で有名な命題。この2つはほぼ同時期に出版されている。
第6章 総括
6-1. 富の創出における差異
なるほど、著者の出発点・起点がマルクス主義だとするなら、搾取理論云々を議論するのも当然だし、その代替案として人的資本とか自然環境をもってくるのも当然の議論の流れか。現代的な関心だと、マルクス主義の誤りが明らかなので、流れが分かりにくいかもしれない。
全体
・面白くない
本書がさほど面白くないのは、この本で示されている事実が既に広く知られているからだと思う。例えば、「病気」はアフリカ支配への障壁になった一方で、アメリカ大陸支配を容易にしたが、これは当然『銃・病原菌・鉄』で良く知られている。このダイアモンドの議論自体もさほど新しいものではなく、1968年に政治学者の高坂正尭の著書『世界地図の中で考える』 (新潮選書) で示されている。
おそらく、ここでは普通の議論とは順序がアベコベになっているのだと思われる。第二次世界大戦後の中国、インドという巨大国家や中東諸国の独立、1960年代のアフリカ諸国の独立やベトナム戦争を経て、先進国による植民地支配が悪いものだという価値観が確立された。一方で、所謂「西側」の経済的な繁栄、そしてその前提となる「進んだ」社会制度がその支配の基礎にあったことが事後的にはっきりした。そこで、特に中国やインド、アラブ、ペルシア、トルコといった歴史的には西欧よりも進んでいることが多かった国々が、なぜいとも容易く植民地化されてしまったのだろうか、という問いが生じる。当初は単純に西欧の性悪さ、次に進んだ技術とそれを支える経済力、そして実地の調査が進むと社会制度や病気が重要だったということが徐々にはっきりしてきた、という順番なのだろう。あとは、これらの要因がいつ・どこで・どれぐらい重要だったかの強調の仕方の違いぐらいに議論は収束する。
結果、特に本書の3章「アフリカ人」と5章「新大陸のインディアン」は歴史の被害者として常連であり、それだけに多くの事が知られ語られ、結果特に面白くなくなってしまっている。逆に言えば、2章「イギリス人」の中で所謂「白人」内部での支配・被支配の関係や、4章「スラブ人」におけるスラブ人内外の関係はあまり知られておらず、興味深いものになっている。
・面白い点:自然条件
訳者も書いているように、自然条件を重視している部分が最大の特徴だと思われる。
・微妙な点:「人的資本」
「人的資本」が大事、というのは誰でも同意するのだが、それではその人的資本とやらがどのように作られ、人種・民族・国の間で差がついたかについての分析はない。これを宗教に絡めればウェーバー流の議論になるし、学校教育の供給サイドを重視すれば制度論になり、需要サイドを重視すればシカゴ学派的な話になる。
・結局
歴史の話ってどれだけ事実を知っているかが重要だったりするので、こんな本でも読まないといけなかったりしますね…
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