市場でどうやって青果を仕入れているの?八百屋が教える市場仕入れの方法その①〜売り場の種類と買参権について〜
<市場で仕入をするとは?>
みなさん、市場と聞いて何をイメージするでしょうか。おそらく大半の人が築地市場(現豊洲市場)の魚のセリをイメージするのではないでしょうか。
ここでは魚ではなく、青果(野菜やくだもの)の卸売市場(以下:市場)での仕入れについて解説するのですが、結論から言うと、上記のような一般的な市場での仕入れのイメージと実際の市場での仕入れはけっこう違います・・・
市場仕入れの実情・方法について話をする前に、このnoteでは、そもそも市場仕入れとはどういう形態があるのか、市場仕入れのために必要な資格とは何なのかについて説明します。
<市場仕入れにも2つの種類がある>
まず市場での仕入れというのは大きく二つに分けられます。一つが"卸売場での仕入れ"、もう一つが"仲卸売場での仕入れ"です。
「いきなりどういうこと?」と思った方もいるかと思いますが、通常、市場には卸売場と仲卸売場という二つの場所が存在しています(それぞれの名称は市場によって違ったりします)。
卸売場では売手は卸売会社であり、買い手は仲卸業者、または売買参加者となります。一方で、仲卸売場では売手は仲卸業者、買い手は売買参加者や飲食店、たまに一般の消費者も含まれます(下記の図を参照)
<素人からプロまでが取引可能。仲卸売場とは?>
先ず仲卸売場について説明すると、よく寿司屋さんなんかで「うちは毎日市場へ仕入れにいってます」というお店があるかと思いますが、こうした仕入れは仲卸売場での仕入れを意味している場合がほとんどです。
(写真は豊洲市場の仲卸売場。各仲卸業者がお店を構えている)
仲卸売場の主な買い手は、買参権を持った八百屋などの小売や食品納め業者などのその道のプロです。
また、買参権を持っていない事業者や個人でも、飲食店の仕入担当者で毎日この仲卸売場に仕入れにきている人なんかは商品の目利き力をしっかりと持っているので、そういう意味ではそうした人たちもプロと言えます。
一方で、仲卸売場では一般の人でも仲卸業者から青果の仕入を行うことができます(市場によっては、仲卸売場であっても一般の消費者が入れない(売買参加者のみ取引可能な)市場もあったりと様々ですが、実際、一般の人が市場に入ったとしてもそれほど分かりませんし、基本的には現金を持っていけば仲卸は商品を売ってくれます)。
すなわち、仲卸売場には一般的にイメージされる市場のバッジがついた帽子を被っている人(買参権保持者)以外にも、飲食店や一般の消費者もいたりと、バイヤー側(買う側)は素人からプロまでが幅広く仕入れを行える場であると言えます。
<プロ同士がせめぎ合う卸売場とは?>
次に闇のベールに包まれている(別に全然闇でもネガティブなものでもないが・・・)卸売場についてみていくと、まず卸売場での売り手は仲卸ではなく卸売会社となります(上記の図参照)。
仲卸売場の売手であった仲卸業者も基本的にはこの卸売場で卸売会社から購入した青果物を仲卸売場で販売しています(直引きといって、卸売会社を通さず、産地の出荷者から直接仕入れを行なっている場合もあります)
そして、卸売場で卸売会社から青果を仕入れるためには"買参権"の取得が必要となります。すなわち、卸売場で取引を行う事業者は、買参権を持ったその道のプロたちのみといえます。
売手が卸売会社であること、取引には買参権が必要であることの2点が卸売場と仲卸売場の大きな違いです。
(写真は大田市場の卸売場)
<市場仕入れの登竜門"買参権"の取得>
買参権を取得するためには、各市場を運営する開設者(市場のオーナー的存在)へ申請し、承認をしてもらう必要があるのですが、そのためには表向きには"業界経験"と"保証金(&加入金)"のふたつが必要となる市場が多いです。
"業界経験"というのは、大体の市場で、"3年以上青果の販売に携わったことがある事業者"、というのが申請の条件としてつけられていて、要するにど素人はお断りということになっています。
"保証金"とは、市場の仕組み上、購入した商品代金は3〜5日後に引き落とし、または振込支払いを行うのですが(市場によって支払日と支払い方法は若干異なる)、そうなると、たまに、商品を購入したものの、3日後にキャッシュがなく代金の支払ができないという事業者がでます(自転車操業的な八百屋さんに多かったりします・・・)。
ひと昔前だと、市場で大量に仕入れをして、3日後に飛ぶみたいなことを故意的にする事業者も多かったみたいです・・・。
そうしたリスクを未然に防ぐため、市場側は売買参加者に対して担保として保証金(不動産賃貸でいう敷金のようなイメージ)の差し出しを要求します。
金額としては、年間仕入総額の10%くらいが相場となっています。ただ、保証金なので、買参権を返上した場合にはこの保証金は戻ってきます。(加入金は開設者へ支払うお金だが1万円程度と高額ではなかった気がします)。
先ほど表向きと書いたのは、実際上記の二つの条件を満たしても必ずしも買参権を取得できないケースをチラホラと耳にするからです。ここでポイントとなるのが市場の"商業組合(以下:組合)"という存在です。
<組合への参加なくして買参権の取得なし>
買参権を取得し、売買参加者となった事業者はこの組合へ参加する必要があるのですが、実態としては開設者への買参権取得の申請については、組合との面接(身辺調査)をパスしなければいけない形となっています。
各組合には村の長老的な組合長がおり、この組合長の承認なくして、組合への参加は不可能です(組合への参加ができない=開設者への申請ができない、という裏の公式が成り立ちます)。
すなわちこの組合が開設者の代わりに、新規の買参権希望者を審査する役割を果たしているといえます(開設者は基本的に組合がOKであれば問題なく買参権をくれます)。
組合というのは、売買参加者の集まりでもあり、わるい言い方をすると八百屋(青果小売)の既得権益を守ろうとする人たちの集まりです(かっこよく言うとギルド的なものです)。
当然、新しい組合員(売買参加者)の増加は、仕入・販売において競合が増えることを意味することもあり、既存の組合員としては新参者即ウェルカムという感じにはなりにくい力学が働きます。
そういう意味でも組合員の絶対的なトップである組合長にどう認めてもらうかが買参権取得のための一つのポイントといえます。
買参権の取得を目指す人や事業者へのアドバイスとしては、まずは市場内関係者(卸売事業者や仲卸、買参人など)と仲良くなり、そこからの紹介ということで組合へ繋いでもらうのが一番スムーズだと思います。
誤解があってはいけないのでいくつか補足しておくと、組合員である売買参加者の人たち(八百屋さんたち)は基本的にはやさしいです。
弊社も市場に入って右も左もわからなかった頃は他の八百屋さんたちにすごく助けてもらいました。
そして、昔に比べてだいぶ新規事業者の買参権取得のハードルは相当下がっており、ウェルカムな感じになってきています。これは既存の売買参加者の高齢化も大いに関係していると思います。
実際、市場の売買参加者の大半が高齢の方であり(よく農家の高齢化が叫ばれるが、八百屋さん(小売)の高齢化もかなり進行しています)、彼らのほとんどがすでに一昔前の八百屋が儲かった時代にひと財産を築いた人たちです。
どちらかというと自分たちの権益を守ろうと言うよりは、若い人を育ててやろうという気持ちが大きかったりします(これは自分たちのような新参者にとってはすごいありがたいことです)
また、市場側(開設者&卸売事業者)としても将来を見据えた若い事業者、法人格を有する事業者などの取り込みが急務となっているのが実際のところであり、そういう意味では昔と比べると買参権も大分取得しやすくなっていると言えます。
ただ、以前とある中央卸売市場にある卸売会社の役員にこのあたりの話を聞いたところ、市場としては、ある程度の数量を買える(仕入量の多い)規模の大きな新規参加者は歓迎だが、町の小さな八百屋さんみたいな仕入量がそれほど見込めない事業者についてはそれほど欲していないというリアルな意見もありました・・・。
尚、買参権の取得方法については、東京都など地域の自治体が開設者(持ち主)となっている主要な卸売市場の場合は上記のようなケースが多いのですが、開設者が民間企業などの地方市場の場合は、それぞれ買参権の取得方法も異なったり、組合の影響力についてもマチマチだったりするので念の為、補足しておきます。
ちなみにこの買参権というのは市場ごとに取得が必要となります。分かりやすくいうと、例えば、市場Aで買参権を取得しても、市場Bで仕入を行うためには新たに市場Bの買参権が必要となります。
(このことについても個人的に色々と思うところはあるが、長くなりそうなのでスキップします)。
<買参権を取得するメリットは?>
なんとか買参権を取得できたとして、買参権をとって卸売場で仕入れができるようになると得られるメリットについては下記の通りです。
○ 仲介業者を通さず卸売会社から直接買えるので仲介業者の手数料分が安くなる(10%程度?)
○ 前日に市場に届いた鮮度の良い品物を買える可能性が高くなる
○ 競売(セリ)に参加できるので、その時々で発生する投げ売り品(市場側が売り切りたいためにセリにかける商品)などを安価に購入できる。
上記の各項目はいろいろと補足が必要なので説明していきます。
<直接仕入れるよりも仲卸から仕入れる方が安くなる!?あまり知られていない市場の仕組み>
卸売場で直接卸売会社から買うと仲卸業者(仲介業者)の手数料分が安くなるということについては、意外とケースバイケースだったりします。その理由については大きく次の二つがあります。
①卸売場では"ケース買い"が原則であるため、それほど数量が必要でない場合には逆に損するリスクが発生する
②同じ品物でも卸売会社よりも仲卸業者から購入する方が安い場合がある
①について、卸売場で卸売会社から直接商品を仕入れる場合、基本的にはケース単位での購入となります。
一方で、仲卸業者の主要機能として、"商品の小分け機能"というものがあり、ケース単位で卸売会社から仕入れた商品を仲卸事業者は1個単位から販売してくれます。
お店の規模が小さい場合や、飲食店などへの納めの場合でそれほど数量が必要のない場合、ケース買いをするよりは、多少場内で仕入れる場合の商品の単価より高くても(ロスするリスクを考えると)仲卸から必要量をピンポイントで購入する方が最適な場合も多かったりします。
(例えばパセリ1袋という注文があった場合、卸売場だと10袋購入しなければいけないのだが、残りの9袋が売れなかったりすると大きな損がでます)
②について、「なぜ直接卸売会社から買える(仲卸業者へ仲介手数料を払う必要がない)のに、仲卸業者から買う方が安くなるの!?」と思われるかもしれませんが、そのことを説明する上で重要なこととして、卸売市場では、"利益率をどう高めるか"というよりは、"数量を動かしてなんぼ"という思想のもとに動いていることを理解する必要があります。
これは卸売事業者の販売形態が、委託販売であり販売手数料が、野菜は販売価格の8.5%、くだものは7.0%と実質固定されていること、市場の機能として入荷した青果物をできるだけ素早く消費地の需要家へ流す(在庫をできるだけ持たない)役割であるということが大きいと思います。
(ただ、最近は、卸売事業者による買い付け販売も増えてきたり、市場が在庫を持てるよう冷蔵倉庫などの設備を新設することも多いのですが、この辺りの詳細は別のnoteで説明します)。
したがって卸売会社としては、委託販売形式の中で、とにかく量を動かす(商品の回転率を上げる)ことが自社の利益をあげる近道となります。
もちろん販売単価をあげるということも会社の収益向上につながるのですが、販売単価をあげるというのはそれぞれの商品の細かい理解からはじまり、バイヤーへの商品の地道なブランディングなど時間のかかる作業であることが多く、卸売事業者の営業担当者(青果を販売する人)の多くが敬遠しやすいです。
(というか単純に苦手なのだと思いますが、いずれにしても今の時代に最も卸売事業者へ求められている、商品の販売単価をあげるための努力を地道にできる営業担当者は結構少ないです)
また、取り扱う青果物の付加価値を上げるのではなく、"数量を動かしてなんぼ"という思想ができたその他の理由としては、一般消費者の青果需要が大きかった一昔前の事業環境(当時は外食や中食などが今ほど普及しておらず、大家族が毎日家で自炊しており、八百屋でお客さんが買う1回の量もじゃがいも1ケース(10kg箱)単位とかだったりしく、どんなバカでも商品を仕入れられれば売れたすばらしい時代だったらしいです・・・)をいまだに前提としている青果流通業界(特に市場流通)の考え方が根底にあると思っています。
このことは実は業界(市場流通)にはびこる結構深刻な負の習慣(考え方)だと個人的には思っているのですが、この辺りの議論は今回の本題ではないので、別の機会にしっかりと書きたいと思います。
いずれにしても上記の理由から卸売市場では数量をたくさん購入してくれる事業者に対しては大きなボリュームディスカウントが存在します。仲卸業者の購入量は当然一般の買参人(八百屋さんなど)よりも大きくなるため、卸売会社から大きなボリュームディスカウントを得やすくなります。
このディスカウントにより、手数料を払ってでも仲卸業者から仕入れる方が、卸売事業者から直接自分で少量(量が少ないとディスカウントが受けづらい)を仕入れるよりも安いという場合も結構発生したりするのです。
このあたりが、業界の外の人が思っている"仲卸(仲介業者)使う必要ないでしょ"という考えと、実際の青果市場での取引の大きなギャップでもあったりすると思います。
<常に疑心暗鬼!?鮮度の良い商品を手に入れるには>
次に買参権を取得するメリットの2つ目である、"鮮度の良い品物を買える可能性が高くなる"というメリットについて、卸売事業者は原則として、入荷した青果物を数日以内には必ず販売する(在庫を極力持たないようにする)という卸売会社内の暗黙のルールが存在しています。
もちろんこれは、青果物の種類や季節によっても異なるのですが(例えば、ある程度市場に置いておいても鮮度が落ちないかぼちゃやジャガイモなどの商品は市場で比較的長い期間在庫として置かれることがありますし、夏よりも冬の方が青果物の劣化が遅いため、季節によって在庫として抱えられる期間も変わってきます)、原則はできるだけ在庫を抱えずに早く仲卸や売買参加者へ販売してしまうというものです。
仲卸業者も基本的には在庫をできるだけ抱えずに早めに販売したいということは変わらないのですが、たくさん仕入れた商品が予想外に売れない、将来の相場の高騰を見越して大量に仕入れていた商品が予想外に相場が上がらず、高値で購入した商品を大量に在庫として抱えてしまっているなどの状況がよく発生します。
そうした商品は、正直にそうした事情を説明して仲卸業者が販売することもあれば、さも今朝しいれたかのように黙って販売されることも多々あります。
(経験を積めば、こうした商品の見極めができるのですが、野菜やくだものの種類によっては仕入れ時には問題がなさそうに見えても、少し時間が経つと急速に色が変色するものも存在します)
例えば、仲卸から仕入れた朝の時点では元気な緑色だったブロッコリーが、半日たったら黄色く変色していた(ブロッコリーは鮮度が落ちると花の蕾(一般的に食べられている部分)が咲いて黄色くなる)などということも過去に結構ありました・・・。
もちろん、こういう場合、原因が仲卸業者ではなく、卸売業者や産地(出荷者)側にある場合もあるので本当に難しいです(涙)何度市場で疑心暗鬼になったことか・・・
余談はさておき何がいいたいかというと、一般的な傾向として、プレイヤー(仲卸業者)を多く挟むよりは、直接卸売会社から仕入れた方が、鮮度は高いものを買える可能性が高いということです(当たり前のことですが)。
<じゃがいもが10kgで10円!?セリ取引について>
最後に買参権を取得するメリットの3つ目である、"競売(セリ)に参加できるので、その時々で発生する投げ売り品などを安価に購入できる"というメリットについてです。
上記②で説明したような事情から、たまに在庫一層セール的な感じで卸売会社から競売という形で野菜や果物が販売されることも多く、こうした場合には競合となる他の八百屋さんにもよりますが、通常の卸売場で販売されている定価よりも大幅に安い価格で商品を仕入れられることが多いです。
例えば、ジャガイモの在庫が多くなりすぎた際、少し芽がでたジャガイモがセリにかけられ、10kg/ケースのジャガイモが1ケース10円で落札されるようなケースもたまにあったりします(産地からの輸送コストの方が高つくのだが、廃棄コストなどを考えると市場も産地も10円でも引き取ってもらいたいというロジックが発生します)。
たまに激安の八百屋があったりしますが、裏側としては、こうした野菜を店舗で処理することで(ジャガイモの場合、芽をとるなどして)驚くような安値で(例えばじゃがいも1kg100円など)小売販売しているのです。
かなり長くなってしまいましたが、以上、市場での仕入れについてまとめると下記の通りです。
○ "市場仕入れ"は、卸売会社から直接購入する"卸売場での仕入れ"と、主に仲卸業者から購入する"仲卸売場での仕入れ"の大きく二つが存在する。
○ 仲卸売場は一般の人でも仕入れができたりするが、卸売場では"買参権"を持った事業者(または個人)しか仕入れができない。
○ 買参権取得のためには、組合(特に組合の長的な存在である組合長)の審査をパスする必要がある
○ 場内市場で仕入れをするメリット(買参権を取得するメリット)としては下記の通り
① 仲介業者の手数料を支払うことなく、直接卸売会社から購入できるので仕入れコストが安くなりやすい
② 仲介業者を通さないので鮮度の良い商品を仕入れやすい
③ 競売(セリ)などに参加できるので、場合によっては安価な商品の仕入れが可能であるということがあげられる。
次回以降noteでは、実際に買参権を持った八百屋が朝市場へ行ってどのようなやりとりをしながら仕入れをしているのか、仕入れのポイントは何かなど、市場で毎朝繰り広げられる人間ドラマ!?(笑)について自身の経験を踏まえた具体例とともに説明していきます。
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