『ハーフ・オブ・イット』を観た。
TBSラジオ『たまむすび』で映画評論家の町山智浩さんが紹介していた
Netflixオリジナル映画『ハーフ・オブ・イット』を観た。https://miyearnzzlabo.com/archives/65196
中国系の主人公エリーがアメフト部のポールに頼まれて学校一の美女アスターに手紙を代筆するという話。それぞれのキャラクターに親近感が沸いた。
自分の気持ちに正直なポール
当初、ポールは考えが無いような軽い人間に思うのだけれど、関係が深くなるうちに彼は彼なりの悩みがあり、何よりイイヤツであることがわかる。
エリーにやたらと食べ物の話を振って呆れられたり、エスターとの初めてのデートでパフェのクリームが既製品かどうかの話をして、場をしらけさせるのだが、物語が進むにつれて実家がダイナーのポールにとって「食べること」がとても大事なことが分かる。
手紙の草稿で「シェイクにポテトをつける」という自己紹介にエリーが「唯一使えそうなところ」だと言ったことも、手紙の中で唯一ポールの人間性を表しているのがその部分であり、エリーは自然にそこを評価していたんだなと感じた。
また、ポールは食べ物を通じてエリーの父とも心を通わせ、彼の考案のレシピで未来を拓く。彼が子沢山の家の子で、愛されて育ったことも要所要所で垣間見えるところも良い。
ポールはこの映画の中で一番正直でまっすぐだ。エリーの父にエリーの才能について語り、当初こそエリーの性的嗜好には否定的なことを言うものの、その後ありのままのエリーを認める。
ただ、悲しいのがエリーとポールはすぐ近くに住んでいるのに、今回の「ラブレター代筆」が無ければお互いのことを知らないままだったからかもしれないということ。土地に根差す人種差別からか、エリー親子の閉鎖的な部分によるものからなのか。
田舎のルールに縛られていたエスター
エスターは美女だが、トロフィーガールのように扱われる自分に違和感を持っている。
温泉のシーンの後にエリーに「信じるものを見つけるわ」と言ったあとにポールの元に向かうものの、ポールに「神を信じる」と言われて違和感を覚える。手紙の中の彼の人物像とは一致しなかったからだ。
その後、結婚はせずアートスクールへの進学を決める。エリーの「神様はどう思うかしら?」という質問を鼻であしらうシーンにはエスターの成長を感じた。また、最後にエリーに「信じるものを見つけてね」とエールを送る。エスターは「信じるものは神や誰かでなくて自分自身だ」ということを既に見つけているようだった。
寡黙なエリーの父
町山さんにそっくりなエリーの父親は、1日中部屋着で映画を観て、駅長としての仕事をエリーに任せてろくでもないように見えるが、妻を亡くした喪失感から未だに立ち直っていない。
彼は博士号を持つようなインテリだが「英語ができない」ことで能力を活かす仕事に就けない。差別が残る町で、中国語を話すのは彼とエリーくらいだ。妻がいれば、この状況を乗り越えられたかもしれないが…エリーの出立の日に作中で初めて部屋着以外を着ている姿には安心した。
ラストでポールがエリーに「お父さんのことは任せて」と言うのには笑ってしまった。
実は葛藤を抱えている?エリッグ
エスターと付き合っていたバカな振る舞いをする採掘場の息子・エリッグも、外からは分からない葛藤を持ってるかもな…と思った。
彼も田舎町の常識にとらわれて教会の娘で美女のエスターと付き合っていただけであり、あの町では異質なエリーのような異邦人に救いを求めていたのかな…などと深読みした。
彼の立場は『君の名は。』の土建屋の息子のテッシーに似ている。周囲から見れば悪くない立場かもしれないが、将来が親や周りから決められているのは息が詰まることだ。その事実から目を反らしたくてバカなことをして発散していたのかもしれない。また、エスターが自分を本当には愛していないことも、心のどこかで気付いていたのかも。
エリーの行く末を見守るゲゼルスチャップ先生
エリーの学校の先生は、エリーの世界を広げようと気にかけてくれる。その塩梅も押しつけがましくなく、心地良く感じた。最後、教会でのシーンで、ポールとエリーが心の内を吐露した後の先生の表情も絶妙で良い。
未来へ踏み出すエリー
当初、友人もおらずポールのことも小ばかにしていたエリー。ラブレターの代筆を通してポールと仲良くなり、先生やポールに背中を押され、大学に進学する。
エリーはクラスで唯一のアジア系(黒人もほとんどいない学校である)というマイノリティであり、からかわれることもあるが、演奏会の打ち上げではエリーに興味を持っている同級生が少なくないことが分かる。
エリーは誰にでも壁を作るが、傷心の父親が本来やるべき仕事を代わり、同級生の代筆でお金を稼ぐという余裕のない生活だからだ。彼女は学校でも家でも心から緊張が解けることはない。文学や音楽に触れているひと時のみが、そんな生活を忘れられる時間なのだ。
ずっと狭い駅舎で時間を管理して列車を見送る役割だったエリーが、ラストでは列車に乗って遠くに行くというシーンには胸が打たれた。
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