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East of Eden / John Steinbeck

友人に勧められてEast of Eden(エデンの東)を初めて読んでみた。

The Grapes of Wrath(怒りの葡萄)は今年の初めに読んだので、Steinbeckの本はこれで二冊目。とてもおもしろかった。これからも折に触れてこの物語や登場人物について考えると思う。

小さいときに手塚治虫の聖書物語を読んだとき、どうして神がカインの捧げ物(農作物)には喜ばずにアベルの捧げ物(羊)だけを喜んだのかわからなかった。神の意思が理解できずに、なんとなくこわい話として記憶に残っていた。

この小説のなかでもその議論が出てくる。

Adamの双子の子供たちに名前をつけるためにSamuelが聖書を持ってきた。Adam、Samuel、Leeの3人が聖書を開いてカインとアベルの話を読み始める。
Samuel「こんなにひどい話だったっけ。何の救いもない。」
Adam「慰めになる話ではないよね?」
Adam「この話を前に読んだとき、神にかなり怒りを感じたよ。カインとアベルは自分たちが持っていたものを捧げただけなのに、神はアベルの贈り物は認めてカインの贈り物は認めなかった。
これが正しいと思ったことはないよ。ずっと理解できなかった。」

この小説では、子供二人から父親への贈り物が世代を超えて描かれている。

AdamとCharles兄弟がそれぞれ父親に贈り物をする。Adamの贈り物は喜ばれるのにCharlesの贈り物は喜ばれない。CharlesはAdamに嫉妬して殴り倒し、殺す一歩手前までいく。興味深いのは、Charlesは父親を愛しているのにAdamは愛していないということ。なぜ父親のことを愛していたCharlesの贈り物が喜ばれなかったのか。

その後、Adamに双子の子供が生まれる。AdamはAronの贈り物に喜ぶが、Calからの贈り物には喜ばない。Calは父親に愛されることを強く願いながら、常に自分の持つ悪を認識している。

世の中には生まれつき善良な人間と邪悪な人間がいるのか?それがこの小説の大きなテーマだと思う。これにSteinbeckが出した答えは「Timshel」、つまりThou mayest (you may)で、良いことをするか悪いことをするかは自分で選べるのだということ。

カインとアベルの話の大切な部分の意味が、版によって違っていることにLeeが気づくのだ。

1600年代のイギリス版の聖書では「罪はお前をそこで待っているが、罪は犯さないだろう(shall)」
1900年代のアメリカ版の聖書では「罪を犯さないようにせねばならない(must)」
ヘブライ語版では「罪を犯さなくてよい(Timshel - You may)」

この小説では、「善良」なAdamとその息子のAron、Aronが恋に落ちる女の子Abraは旧約聖書のAbelと同じく名前がAで始まり、「邪悪」なCharlesとCal、そしてAdamの妻Cathyが旧約聖書のCainと同じくCで始まっているのも興味深い。

Cathyはこの話のなかで一番邪悪といえるキャラクターだろう。彼女については読み終わってからも一番考えた。自分を疑うこともなく平気でひどいことばかりしてそれに喜びを感じるひと。ただ最後に、自分の息子が訪ねてきて母親がどんな人間であるかを知り、傷つき絶望している顔を見て、自分の子供時代を思い起こす場面がある。小さかったころ、不思議の国のアリスだけが唯一自分のことを愛し、まわりの敵から自分を隠してくれた。ここで愛という言葉がCathyから出てくるのは意外だった。息子の顔を見て初めて、自分の持っていないものが何かに気づく。

John Steinbeckという名前の少年がOlive Hamiltonの息子として一度ちらっと顔を出す。彼がこの小説の語り手ということになっている。

私がこの小説で特に好きだったのはLeeとCal。Leeは賢くやさしくて面白いし、Calには人間味があって親しみが湧いた。

映画もあるそうなので今度見てみたい。

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