2020_09_30(水)

日記。あるいはお芋の記録。

前日から私は体調を崩していて、この日は熱は下がり腹痛も和らいだものの本調子ではなく、仕事を休んだ。前日、病院に向かっているときに、気温が下がって秋めいているのを感じた。秋の、ほんのり冷たい風のせいか、ふと焼き芋が食べたいと思った。しかしお腹の調子が悪かったので、その場での実行は無理だった。そんなわけで、30日は朝から焼き芋の気持ちだった。メールで親類に、今日は焼き芋を食べると予告をした。

10時:さて、焼き芋を食べるには、まずは入手しなければならない。私の住んでいる場所には、焼き芋トラックはやってこない。どうしようか。とはいえ、当てはあった。普段行くスーパーマーケットで、焼き芋が売っているのをたびたび見かけていた。専用の機械で年中売っていた記憶がある。しかし、今まで買ったことがないので、スーパー 焼き芋 買い方 で検索。どうやら、紙袋に入った芋をレジに持っていけば購入できるらしい。ただし、タイミングが合わないと、焼けた芋が無いこともあるようだ。ついでに、普段行くスーパーマーケット、もといマルエツの焼き芋に対する思いも知った。(参考ページ:オトナンサー_この猛暑の夏に…冬の風物詩「焼き芋」を売るスーパー発見、すっかり定着? 担当者に聞く)

12時:焼き芋を食べる予定だ、と連絡した親類から返信が届く。なんと、先方も焼き芋を購入していた。この日の穏やかな気候は、人々に焼き芋を手に取らせるようだ。当初、昼食に焼き芋を、と思っていたのだが、なんだか体が重かったので、昼はバナナを食べた。オフィスが近いこともあり、その店は昼時混雑しがちだ。本調子でないのに人が多くいる場所に行くのも嫌だし、おまけに焼き芋が出払っていたら目も当てられない。カーペットに大の字になり、病み上がり特有の重力感を堪能した。

14時:相変わらず体は重かったが空腹も感じたので、えいや、と奮起して焼き芋を買いに行く手筈を整える。昼食とおやつの中間のこの時間帯なら、芋が出払っている可能性は低いと見込んだ。寝間着からゆるいジーンズに着替えて、冷蔵庫を確認する。焼き芋にバターを塗りたいからだ。有塩バターはチルド室に眠っていた。未開封だ。ちょうど前日に使いかけのバターが終わっていた。真新しいバターはつかう前にバターカッターで切り分ける必要がある。そんな元気はなかった。冷蔵庫のサイドポケットに入っているチューブバターが余っていたので、それで良しとする。万が一、焼き芋がなかった場合に備えてクーラーバッグを持っていくことにした。いざというときには、例の親類にすすめられた、アイスの実 大人のショコラでも購入しよう。

道中:折りたたんだクーラーバッグを、薄い布地のトートバッグに入れて右肩に掛け、裏道をのんびりと歩く。陽光がアスファルトを照らして、描かれた白線をやたら魅力的に感じさせた。二人の人間と同時にすれ違って、その二人がそれぞれ電話で話をしていて、遠くにいる誰かと話しながらしか生きていけない世界のことを考える。

スーパーにて:いよいよ着いた。アルコール消毒をして、エスカレーターで生鮮食品売り場に上がっていく。上がると目の前に焼き芋販売マシーンがあり、そこにはたくさんの芋がいた。タイミングが良かったのか、芋は過密なまでにたくさんあった。機械の手前に貼られた値札によると、今日は3種類も置いてあるらしい。焼き芋、鳴門金時、安納芋。一瞬迷ったけれど、普通の焼き芋にした。私は、初めて行ったラーメン屋では最もベーシックなラーメンを頼む人間だ。さて、どの個体にしようか?芋はすべて紙袋に入っていて、見えるのは先っぽだけだ。一番最初に目についた芋を選んだ。焼き芋販売マシーンの前で、屈んでそれぞれの袋を覗き込んで悶々と悩むのはなんだか恥ずかしいし、私にはおいしい焼き芋を見分けるノウハウも無い。腕を伸ばして紙袋ごしに芋を掴むと、ほんのりと温かい。カゴにやさしく入れる。芋を確保したことにより、気持ちに余裕が生まれたので、アイスのコーナーを見にいく。棚沿いのアイスケースに、アイスの実は無かった。ないのか。と思って振り返ると、特売のアイスケースにアイスの実 大人のショコラがあったので、ひとつ手にとってカゴに入れる。だんだん元気が出てきて、もっと店内を見て回ろうかと思ったが、カゴの中のラインナップは温かいものと冷たいものだったので、切り上げてレジへ向かう。レジは空いていた。店員は焼き芋の袋を手にとって、袋の口を少し折って緑のマルエツテープを貼った。こうすればカバンの中で芋が飛び出る惨事も防げるし、購入した証明もできる。一石二鳥だ。レシートを受け取って確認すると、おいしい焼き芋と印字されていた。期待が高まる。早く帰ろう。クーラーバッグを広げてアイスの実を仕舞った。焼き芋はトートバッグに入れた。

帰路:焼き芋の入ったトートバッグを右肩に、クーラーバッグを左手に持って、往路と同じ道を歩く。途中、更地の土の匂いを感じて、ずっと昔に行った芋掘りを思い出した。焼き芋の温かさがほんのりと伝わってくる。

帰宅:手洗いうがいを済ませて、まずはアイスを冷凍庫に入れる。そして、バッグから焼き芋を取り出す。袋の口に貼られたテープを剥がして焼き芋の匂いを嗅ぐと、甘やかで香ばしい匂いする。この時点でかなりいい気分だ。次に、皿の上に芋を出してみる。大きい。160円程度で買えて、こんなに大きいのか!と、軽く驚く。赤紫色の皮は乾いていて、ところどころ凹んでいる。焼けている証である。さて、次が問題だ。温め直すか、そのまま食べるか?焼き芋はほんのりと温かい。このままでもおいしいだろう。だが、私はバターをつけて食べたいのだ。このぬるさでは、バターを塗り溶かしながら食べるには不十分と判断して、電子レンジで1分半ほど加熱する。レンジの中で、くるくると回る芋。芋の入っていた紙袋を嗅ぐと、甘やかな匂いが残っている。冷蔵庫からチューブバターを取り出して、食器棚からバターナイフを取り出して、テーブルの上に並べて置く。回る芋を見ながら、固形バターの銀紙を半分破って手に持って、芋にぐりぐりと塗り付けながら食べる様子を想像する。だんだんと銀紙の中で柔らかくなるバターを感じながら塗る手触り、半分に折った芋のざらついた表面の上で油分と牛乳分に分離していく様......電子レンジが鳴って、芋は温まった。

食べる:温まった芋の乗った皿をテーブルに運ぶ。芋は良い具合に温まっていた。熱々ではないので、手で持つことができる。まずは、両手で半分に折った。黄色くて、凹凸のある断面が出てくる。その断面をきっかけとして皮を剥く。芋の皮は、芋自体からは離れているところもあり、そうした部分では黄色い実の外縁が焼けていて、樹皮のようだった。まずはバターを塗らずに食べる。少しもそもそとしていて、甘い。だが、パサついているわけではなく、なるほど、sweet potateだな、などと考える。何口か食べたところで、バターをつけることにした。バターナイフにバターを出して芋に塗る。少し溶けるのを待って食べると、塩気と乳臭さと芋の甘さが噛み合って、想像のバター付き焼き芋とは違うものの、おいしい。TVもつけず、音楽も流さず、ただひたすら皮を剥き、バターを塗ったり塗らなかったりしながら芋を食べた。

終わりに:この日は焼き芋を半分食べて、もう半分は断面にラップをかけて冷蔵保存し、次の日の朝食に食べた。焼き芋は時間のかかる食べ物だが、おいしい。黙々と食べられるのも良い。そういう面では、少し蟹に似ているかもしれない。今度は固形バターを塗って食べてみようと思う。安納芋もいずれ食べてみるつもりだ。

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