第二十五章 以静制动
中册
「静を以って動きを制す」
原題の読み下し文はこんな感じです。
以冷静的态度对待纷乱的局面
中国語の意味としては、
冷静な態度で混乱に対応する。
と言う意味です。
題名は
「静を以って動とする」
・・・(;^_^A
ドラマでは18話「静なる動き」
なるほど。こちらの方がしっくり。
ドラマと原作では話の順番が
変わったりしますね!
春節の元旦。
梅長蘇は飛流の服を自ら選びます。
新調した赤みを帯びた薄紫色の衣に、
薄い黄色の帯、白狐の襟巻、翡翠のベルト。
飛流を美しく飾り立てます。
※これは新年の為に新調した服です。
日本も昔は正月の時に服を新調したようなので、
中国から来た習慣なのでしょうか?
ドラマの飛流は青系の衣装でしたが、
小説だとちょっと違いますね。
そして、新年の挨拶に行くことを告げ、
黎綱に準備させた輿に乗り、出かけます。
黎綱にはは残ってもらい、
梅長蘇を訪ね新年の挨拶に来た
人々への対応を任せます。
特に誉王への対応を。
事前の準備が必要か問うた黎綱に、
梅長蘇は冷たく、新年早々おめでたい日に
誉王に会いたくないと言い、
特に何も準備は必要ないと答えます。
しかも「毒薬を飲んで気分の良い者はいないだろう」と・・・
※辛辣!!
黎綱、どうやって誉王をあしらうのでしょうか(^^;)
春節元旦の道は昨晩の爆竹の紙でいっぱいでした。
出歩く人は多いですが、商売人はいません。
街の両脇の店もほとんどが閉っており、
三軒の蝋燭店だけが営業していました。
梅長蘇の乗る青い布の小さな輿は
人目につくことなく街を通り抜け、
とある屋敷に着きました。
そこは雲南王府の別邸でした。
梅長蘇の拜帖(バイティエ:名前と
訪問理由を書いた紙)は
高官が並ぶ列では目立つことは無く、
特に重要視されていない拜帖の中に入れられてしまいます。
穆青は拜帖を見ては一人招き入れ、
お茶を飲み、数言(すうこと)
言葉を交わすと次の人に変わる、
そんなことを繰り返して半時、
やっと穆青は「蘇哲」の拜帖を見ました。
穆青は最初その名前を見た時、首を傾げて驚き、
何度もひっくり返しては時間をかけて確認します。
「蘇哲」と言ったら今の京城では一人しかいません。
机の前に居た執事は
主人の目まぐるしく変化する表情を見て、
「もしかして会いたくありませんでしたか?」
と口を開くと、
穆青は呆然と彼を見つめ、
口を開いたかと思うと突然
大声で「姉上!」と叫び、
奥へ走り去ってしまいます。
しばらくして、霓凰と穆青は自ら門の外へ
迎えに行きます。
梅長蘇は待ちくたびれて、
微睡(まどろ)んでいました。
霓凰が謝ろうとすると
梅長蘇は笑いながらそれを止め、
少し待ったとしても、
今日は暇だから構わないと言います。
四人は揃って部屋に入りました。
霓凰と梅長蘇が椅子に座り、
穆青は飛流に椅子を出しますが、
飛流はいつの間にかいなくなっていました。
梅長蘇は飛流は初めてこの屋敷に来たので、
きっと色々見て回っているのだろうと言います。
問題無いか問うと、穆青も問題ないと返します。
穆青と飛流の歳は近いので飛流に
興味深々でした。
一体どうやって出て行ったのか
良く分からなかったのです。
霓凰はそんな様子を見て、
「羨ましい気持ちになった?
私が訓練するように言った時、
何処へ行っていたの?
怠ける事しか知らないんだから。」
と怒ります。
穆青は「怠けているんじゃないよ、
習得するのが遅いだけなんだ、」
と言います。
霓凰は「それではもっと励まないとね。
自分の能力が劣っているのならば、
人より努力しないと。」
穆青は「新年早々、
お客様の前でそんなに怒らなくても・・・」
と苦い顔で答えます。
◎◎◎◎
梅長蘇は霓凰の姉として
弟を叱る様子を見て、
心中に悲しみと、
面白がる気持ちが沸き、
口を挟みます。
「現在の南境の情勢は
安定しているから、
穆王様が戦場へ出て敵と対面
事は無いでしょう。
武学はひとまず置いておいても
構わないですが、
兵法や戦略、
藩領の統治方法などは
力を入れて学んだ方が宜しいかと存じます。」
「聞いたわね?蘇先生の教えを
よく覚えておきなさい。
すこしの成長も見えない様では、
安心して雲南を任せられないわ。」
「郡主様もあまり憂慮されませぬよう」
梅長蘇は忠告した。
「穆王様は少し経験と鍛錬が
足りぬだけです。
将軍一族の風格は十分にございます。
現在の状況下で、
徐々に藩の業務を渡して
はいかがでしょう?
いずれ必ず英明な王となりましょう。」
「姉上はすでに沢山の事を
私に任せてくれています。
今日の客人との対面は全て私が
行っていたので、
先生に会うのが遅くなったのです!」
穆青藩嬉しそうに笑うと、
霓凰に向かって
「姉上、裏で忙しそうにしていたけど、
出来たんですか?」
梅長蘇は興味を持って思わず聞いた。
「何をされていたのですか?」
「姉上は自らおこし(糖酥年糕:
タンスーニエンガオ:おこしの様なお菓子)
を作っていたのです。
私たちに食べさせるために。」
穆青は奪うように先に言った。
「以前は全く厨房に寄りつかなかったのに。
おそらくこの二年で私が成長したので、
姉上も料理の勉強を始めたのでしょう。」
梅長蘇は軽く笑った。
偉大な力を持ち、凛とした
この南境の女将軍が料理を学び始める。
彼の心の中でその理由は明白だった。
二人の間に微妙な気まずさが漂ったが、
彼女対する微笑ましい気持ちは
本物だった。
◎◎◎◎
そこへ、魏静庵が早足で入って来ました。
郡主と穆青は何事かと問います。
そこで、大晦日の夜に下賜された料理を
知っているか尋ねます。
穆青は皇帝はもう少し良い物を
頼んでも良いのに、と口にし、
霓凰に怒られました。
昨夜、料理を届けるために派遣されたのは
12隊。
そのうち11隊しか戻らず、
禁軍と巡衛営が一報を受け
出動したところ、
宮城の近くで五人の遺体が見つかった
との事でした。
死体と言う事は殺されたのか?と
霓凰は聞きます。
全て喉を一突きされており、
死者の表情は穏やかで、
衣類も清潔で揃っており、
苦しんだ様子も無かったそうです。
まるで何も無い所から生命を
奪われたように。
霓凰は手口が江湖の使い手の仕業だと言い、
何か遺留品が無かったか尋ねます。
梅長蘇はそれを止め、
蒙大統領はどうなったか聞きます。
魏静庵はその様子を見て、
自分がなぜ慌てて報告に来たか
その理由を見出した事に感嘆しました。
蒙大統領の置かれた立場が危うい事を告げます。
大晦日に君主の足元、
宮城の壁の近くで太監が殺されたので、
皇帝の威厳を踏み躙る行為は
皇帝の怒りを買いました。
この事件は宮殿の内濠近くで
起きた事なので、禁軍の勢力内です。
そこで蒙大統領がこの責任に問われました。
陛下は彼の怠慢を責め、
防衛力に疑問を呈し、大晦日に発生した
この不吉な事案のため、
蒙摯を二十杖の廷杖(ていじょう)に処しました。
※廷杖とは、皇帝が直接官吏に命令した杖刑の事です。
また、三十日以内にこの事件を解決するよう
命令したとの事でした。
※ドラマと同じですね
穆青はそれを聞いて我慢できず、跳ねて立ち上がります。
「皇上は何をお考えなんだろう。」
「蒙大統領は忠臣、宮城を何年も守って来た功労もあるのに、
この事件の責任は確かにあるけど、
何もすべての怒りを彼一身に向ける事は無いだろうに・・・
どこか呆(ぼ)けでもしたのでは・・・」
「小青!」霓凰は厳しく言った。
「妄言で君主を非難しては駄目。
よく考えてから話しなさい。」
と叱られてしまいます。
「ここには身内しかいないだろ・・・」
穆青は小声で言うと、小さくなって元の席へ戻ります。
※穆王府は情報統制がきちんと取れていますが、
万が一を考えないといけませんよね(^^;)
霓凰が梅長蘇を振り返ると、
黙り込んで何か考えている様子。
それを見て、魏静庵へ引き続きこの件を注視して、
何か続報があればすぐに伝えるように言い含みます。
また、この件はすぐに伝わるだろうけれど、
穆王府内でこの件に関して憶測でものを言わない様に
厳しく指示します。
穆青には自分の部屋へ下がるように言い、
彼が下がると・・・
◎◎◎◎
霓凰はゆっくりと梅長蘇に近づき、
彼の前に膝立になると小声で言った。
「林殊哥哥は蒙大統領と親しいのよね?」
梅長蘇は軽く目を上げ、頷き「そうだよ」
「私が宮殿へ参内し、彼へ恩情を賜るよう
願い出ましょうか?」
梅長蘇は軽くため息をつき、頭を振って
「今しばらくは止めておこう。
憂慮していたのは、
蒙大哥の現在の状況ではなくて、
今後の展開の事なんだ。」
「今後?」
「非常に予測しにくい事だけど・・・
皇上は馬鹿では無い。
ただこの一件だけで
蒙摯の禁軍への管理能力や
宮城の護衛能力を否定している訳では
無いはずなんだ。
罵(ののし)ったって、廷杖だって、
ただ皇上の怒りを発散しただけさ。
蒙大統領だって承知の事だよ。
悔しいしいのは、(杖で)打たれただけでは
終わら無かったこと。
三十日以内に事件の解決が出来なかった場合、
さらに言えば、
もし今後似たような事件が発生したのなら、
皇上の蒙摯に対する評価は
更に低くなるだろう。
そうなると本当に危ない・・・」
「新しい事件?」霓凰は少し驚き
「まさかまだ何か起こると・・・」
「これは僕の感覚さ。」
梅長蘇は霓凰の手を引き立ち上がらせると
彼女を傍らに座らせて説明した。
「考えてもごらん。
殺人と言うのは全て動機がある。
なぜ五人の太監を選んで手を下したんだ?
感情による殺人では当然ない。
仇討(あだうち)?
宮中のごく一般的な内官が
大晦日に宮城外で
殺されるほどの
恨みを買う事があり得るかい?
強奪目的?
彼らは貴重品も金目のものも
身に着けてなかった。
着衣の乱れも無かったと言うし・・・
こうやってよくある殺人の動機を消去して行く。
江湖上でよくある殺人の理由は、
達人同士の争いや
名声の奪い合いだが、
この五人の太監の名は聞いたことも無い。
武術に長けていたかもしれないが、
決して達人ではないだろう
・・・だから考えてみれば、
彼らが殺された原因は
彼ら本人の問題では無く、
身分を狙っての事だろう。」
霓凰は聞きながら頷いて言った。
「つまり、犯人は皇帝の
派遣した太監を狙ったという事ね。
太監だったら誰でも良かった。」
「そう言う事だろう。」
梅長蘇は言いながら、自分の思考をまとめた。
「しかしなぜ欽使
(きんし:皇帝が直接遣わせた使者)
を狙ったのか?
皇帝を悩ませるためか、
彼に脅威を示すためか?
禁軍の防衛能力を試し、
更になにか仕掛けるのか?
もしくは・・・
最初から蒙大哥を標的にして
皇帝から信頼を揺るがしたかったのか・・・
どんな目的であっても、
五人の太監を殺しただけで
終わるとは思えない。」
「でも…これだけの情報では
犯人の手段や目的を知る事は
到底出来ないわ!」
「霓凰、よく覚えておくんだ。
敵の放った矢がどの方向から
射かけられたか分からない時、
必ず先に自分の一番弱い所を守るんだ。
一撃で死ぬことが無ければ、
その他の事はゆっくり考え、
修正して行けばいい。」
梅長蘇は淡々と笑い、
「今回の件で言えば、
先に蒙大哥を守らないといけない。
もっと情報が集まったら、
もう一度どう対策するか
調整すればいい。
いずれにしても
蒙大哥が禁軍を
掌握している限り、
宮城内で何か大きな事が
起きるはずは無いなんだ。」
霓凰は考えて、目を徐々に輝かせた。
「分かったわ。彼らの目的を
蒙大統領と仮定して、
それを確認してから
次の一手をどうするか考えるのね」
「素晴らしい」梅長蘇は称賛して笑った。
「現在の状況から見て、
五人の太監が殺された事は
実は宮城の安全に全く影響は無いんだ。
だから彼らの目的は、
皇帝の禁軍に対する信頼を
弱めることだろう。
つまり禁軍の弱体化が
目的だとするならば、
当然宮城を掌握する為だ。
では、さらに一歩進んで
推測するならば、
宮城を掌握したいと考えている者は
権力の中心に最も近い者だと
考えるのが自然だろう。」
「皇太子と誉王…」霓凰はぶつぶつと言った。
「そうだ。どちらか一人だ。
けれど誉王の手駒に軍の腹心はいない。
もし蒙挚を引き摺り下ろしたとしても、
後継者になり得る者は居ないんだ。
しかし皇太子は…」
梅長蘇はじっと霓凰を見つめた。
「彼の手駒には…」
「寧国侯謝玉!」霓凰は両手を合わせ、
顔ははっとしていた。
「謝玉は一品軍侯。
皇上の深い寵愛を受けているわ。
手中の巡防営の勢力も軽視出来ない。
派遣できる部下も多いわ。
禁軍が圧力を受けたり、
蒙大統領が罷免されたなら、
彼だけがその後を
問題なく引き継ぐ事が出来る…」
「この様に推測するのは
理にかなっている。
しかし…皇帝は愚かでは無いし、
蒙挚に対する信任もまだ十分にある。
どんなに激しく怒っていても、
免職までは行かないだろう…」
梅長蘇は双方の眉をひそめ、
「だからこの件が謝玉に
よるものだとしたら、
必ず次の手があるはず…」
「さっき言ったように、
次から次へと新しい事件を起こして、
毎日殺人を犯し、
皇上の禁軍への防衛力に対する
信頼を失わせるということ?」
「蒙挚は今日
再度力を整えただろう。
殺人は難しいだろうね…」
「でも、こんなに大きな宮城ですもの、
秘密が明らかになる時は必ず来るわ。
もし謝玉の様な悪意のある敵がいたら、
防ぎ切れないかもしれない。」
「それもあり得るね…」梅長蘇は双眸を閉じ、
頭を背もたれに預け、ぶつぶつと言った。
「もし自分が謝玉だとしたら、
殺人のような簡単な方法だけで無く…
蒙挚に対して
皇上に不信感を抱かせるならば、
皇上の弱点を突く必要がある…」
ここまで言って、梅長蘇は突然目を見開き、
黒水晶の様な瞳は固く凍りつき、
にわかに椅子から立ち上がった。
「林殊哥哥?」
「陛下の弱点は疑い深いことだ!」
梅長蘇は深く息を吸うと、早口で言った。
「陛下が蒙挚を信任しているのは、
蒙挚が一心に忠誠を誓っているのを
理解しているからだ。
それに皇太子や誉王と私的な交流も無い。
しかし、現在の様な肝心要(かんじんかなめ)
の時に、
誉王が皇上の前で蒙挚のために温情を
訴え出たとしたら、事態は悪化するだろう。」
「誉王はそんなに簡単に
自陣へ引き込むと言うの?」
「誉王は今 一振りの剣が必要なんだ。
慶国公が舞台を去ってから、
彼には軍も兵も手中に無い。
多くの者は靖王が
彼に近いと思っているが、
それは形だけの支持でしか無い。
もし禁軍の大統領が味方してくれたなら、
夢を見ていても、
笑って目醒めるだろうね。」
※言い方が辛辣!(^^;)
梅長蘇の眉は更にしかめられ、
「誉王をその気にさせるのは
実は難しいことじゃない。
どうにかして噂を彼に聞かせればいい。
蒙大統領が濠の内側で起きた事件で
皇上から罵られ廷仗に処されたと
伝えるだけで無く、
皇太子がこの件で既に私的に大統領の為に
温情を説いたと聞けば不公平だと思うだろう。
考えても見て欲しい。
誉王が遅れをとるのを良しとしない。
皇太子一人に人情を取らせるかい?
必ずすぐに参内して皇上の前で
持てる限りの能力を駆使して
蒙挚の話をするはずだ。
蒙挚を感謝の念から自陣へ引き込む
だけでは無く、
少なくとも皇太子に取り込まれるのを
阻止するために。」
霓凰は聞きながら顔が蒼白になって行った。
「陛下の疑い深い性格は生まれつきのもの。
もし今の様に怒りが満ちている時、
誉王が力の限り蒙大統領を守ろうとする
姿を見たら、
二人の間に浅からぬ交流があると
疑うでしょうね。
宮城を警護する禁軍の大統領が
もし嫡位を争う皇子親王と
関係があるとなったら、
皇上は絶対に容認出来ないわ。」
「これは辛辣な一手だ。
将は皇帝の心。」
※ここでの将は中国将棋での王将のこと。
梅長蘇は軽く歯噛みした。
「謝玉がこんな手を指すとは…
霓凰、次の状況を注視してて欲しい。
僕はすぐに誉王府へ向かわなければ。」
「はい。」
霓凰は梅長蘇の弁舌の能力を知っていたので、
誉王が騙される事を
痕跡を残さずに
回避することは難しい事ではないと
分かっていた。
それ以上何か問う事もなく、
ニノ門まで彼を送り、
輿に乗って急いで立ち去るのを見送った。
書斎へ戻ると魏静庵を呼び、
これからどの様に
更なる探索と観察を
行うか詳細を相談した。
しかしこの時霓凰と梅長蘇は
想像もしていなかった。
彼らはいち早くこの情報を掴み、
その情勢の分析と策定された
行動戦略は非常に的確であった。
が、今一歩遅かった。
誉王は梅長蘇が到着するちょうど一刻前に
王府を発ち、宮殿へ向かっていた。
梅長蘇の本来の計画であれば、
誉王が蒙挚のために手出しをすることが
無いように言含め、
その脚で懸鏡司へ向かい、
夏冬に皇帝が懸鏡司にこの件を
調べさせているか尋ねるつもりだった。
だが一足遅く、誉王は既に騙され、
宮中の火に油は注がれてしまった。
この時、自分がどう行動するか。
誉王の意思が蒙挚の行動と
誤解される事を恐れたため、
先に兵を抑え動かず、
静観をし、事態が動いたら策を練る事にした。
◎◎◎◎
蘇宅に戻る途中、輿の中で梅長蘇は
現状を今一度整理しました。
◎◎◎◎
誉王が宮殿へ参内し蒙挚を庇う。
梁帝の禁軍大統領への
疑心を引き起こすのは確実だ。
現段階ではこの疑心は行動に
現れていないが、
梁帝は蒙挚単独で太監殺害事件の
調査にあたる事を不安に感じるだろう。
必ず掌鏡使にも調査させた上で
処罰するはずだ。
謝玉は遅かれ早かれ掌鏡使が介入する事を
予測していたに違いない。
この様な手を打って来たからには、
現場になにも証拠となる物を残していない
自信があるのだろう。
彼は一品軍侯で皇帝の寵臣だ。
夏冬が彼を疑ったとしても、
何の根拠も無く皇帝に
報告する事はあり得ない。
更に言えば現在の後継者争いの中、
何の証拠も無く非難し訴えれば、
相手から「故意に陥れられた」と
言われるだろう。
目的が達成出来ないばかりか、
その反対になってしまう。
最も重要な一歩は、必ず証拠を探し出すこと。
しかしこれは実に難しい。
殺人方法が鮮やかなので、
何の糸口も指し示されていない。
物証が手に入らなければ…。
この事案が発生したのは大晦日で、
宮城の塀近くの大通りを
歩く人は少なく、
目撃者もいないだろう。
謝玉が黒幕だと言う仮定を
前提とするならば、
卓鼎風を調査する意外、
この案件自体
少しも動く事は無いだろう。
梅長蘇は深くため息をつき、
胸にもやもやとした気持ちが
湧いたのを感じた。
◎◎◎◎
蘇宅に着くと、黎綱が迎えに上がり、
帰宅が早いことに驚き、
誉王はまだ来ていないと伝えます。
梅長蘇は今日は誉王は来ないと告げ、
急いで部屋に入り、
歩きながら外套を脱ぎました。
室内に人が居なくとも、
炉の火は常に火が絶える事なく、
暖かくぽかぽかとして、
いつ主人が帰宅しても良い様に
備えていました。
梅長蘇が椅子に座るとすぐに
黎綱が命じて
熱い手拭いと、薬膳人参湯が
運ばれて来ました。
梅長蘇は今日、童路が来たか尋ねます。
来たけれど、宗主がこんなに早く戻るとは
思わなかったので返したそう。
梅長蘇はすぐに盟内の天機堂へ連絡し、
卓鼎風が最近どの達人と接触したか、
接触した達人の誰が京城へ来たか
調査するように言います。
他に十三先生へ
目下、京城で滞在中の
剣術家を流派に関係なく
彼らの行動・足跡を
監視するように、
謝府は特に重点的に見張りをつけ、
卓鼎風とその長男・卓青遥の行動を
逐一報告するように伝えます。
黎綱は記憶力が良く、内容を復唱すると、
すぐに命令を伝えるために出て行きました。
梅長蘇は背もたれに寄りかかり
顔を上げ、ついでに机の上の拜帖を
めくって見ました。
大部分が誉王派の、
日頃交流の無い貴族や官吏で、
人を遣わせて
礼を尽くすための顔ぶれでした。
黎綱はおそらく報告の必要が無いと
判断したようで、ただその辺りに
まとめて置き、
梅長蘇がいつでも見られるように
しておいたのでした。
飛流は声も息もたてないように
部屋に入り、腕には一羽の雪のように
白い伝書鳩を支え持っていました。
美しい小さい顔は緊張しており、
梅長蘇に伝書鳩を運ぶと、
絨毯の上に座り、
その顔を蘇哥哥の膝に埋めました。
梅長蘇は笑いながら
彼の首の後ろを揉み、
鳩の脚先の筒から
巻紙を取り出して開き読むと
瞳に一筋の閃光が走り、
しかしそれはほんの一瞬の事で
すぐにまた深い静けさを取り戻し、
巻紙を火鉢の中へ放り込んで燃やしました。
白鳩は湧き上がって来た炎に驚き、
頭を動かし「クルックー」と鳴きました。
梅長蘇は指先で鳩の頭を突き
低い声で言いました。
「鳴ちゃだめだよ、
飛流は君たちを見たら不機嫌になるんだ。
もう一度鳴いたら羽を毟り取られちゃうぞ。」
「しないよ!」飛流は頭を上げて抗議した。
「でも飛流は
とっても抜きたいはずだよ。
ただ出来ないだけで。」
梅長蘇は飛流の頬をつねり、
「前回、真っ暗な部屋に閉じ込められたのは
蔺晨哥哥の伝書鳩を隠したからじゃなかったかい?」
「しないよ!」飛流は怒ってほおを膨らませた。
「これからはしないって知ってるよ。」
梅長蘇は笑いながら褒めた。
「今日は本当に偉かったよ。
嬉しくなくても、鳩を連れて来てくれた。
前の様に隠さなかった…」
「いい子⁈」
「そう、いい子。
蘇哥哥に紙をくれないか?
あと、あの筆に墨をつけて
持って来てくれる?」
「いいよ!」
飛流は跳ねるように身を起こし、
すぐに紙と筆を持って来た。
梅長蘇は腕を持ち上げ、紙の隅に
小さい字を何文字か書き、
帯状に割いて巻き、
鳩の脚先の筒に入れると、
鳩を飛流に戻した。
「鳩を離して来てくれる?」
◎◎◎◎
飛流は楽しくなさそうに
ゆっくりと体を動かしたが、
梅長蘇が微かに笑う様子を見て、
大人しく鳩を抱えて庭に出た。
鳩を宙に放ち、何回か円を描いて
飛び去るのを見届けた。
雪の様に白い鳩の影が徐々に遠ざかり、
黒い点になるまで
飛流はずっと仰ぎ見ていた。
黎綱が金文字の拜帖を持って
外から入って来て、
飛流のその姿を見ると
思わず笑って言った。
「飛流、天女でも降りて来るのを待ってるのか?」
「違う!」飛流は怒った。
「分かった、分かった。
ゆっくり待ちなさい。」
「違う!」激怒した。
黎綱は飛流が繰り出した拳を躱(かわ)し、
部屋に入るなり、表情を恭しく整えた。
「宗主、言の若様が参られました。」
梅長蘇はその拜帖をじっと見つめ、
笑いをこらえきれず言った。
「今回はハハハと笑いながら
直接入って来ないんだな。
いつから礼儀をわきまえる様に
なったんだろう?
何か話でもあるんだろうか、
入ってもらってくれ。」
黎綱は豫津を呼びに行きます。
豫津は早足で入って来ました。
全身臙脂色の斬新な毛皮の長衣でした。
風流で垢ぬけており、生き生きとしています。
よく観察しなければ、彼の表情と態度が普段と違う
とは気が付かないくらいです。
「豫津いらっしゃい。早く座って。」
梅長蘇は国舅の若君のまぶたが少し
赤くなっているのを見ながら、
黎綱へお茶を運ぶように命じた。
「蘇兄、お気遣いは不要です。」
豫津は少し腰を浮かせてお茶を受け取った。
黎綱が使用人と一緒に下がると、
茶碗を置き、立ち上がって梅長蘇に向かって深々と
礼をした。(ドラマでよく見る、両手を前にだして上半身を曲げる礼です)
「恐れ入るよ、」梅長蘇は笑って彼を支えた。
「我々は同じ世代じゃないか、こんな礼は不必要だろう。」
「蘇兄には
僕の礼が新年の挨拶じゃないって
明白なんですね。」
珍しく真顔で言った。
「謝家をお救い下さった
感謝を伝えに参りました。」
梅長蘇は豫津の腕を叩き、
彼を座らせてゆっくり言った。
「言侯はすでに・・・」
「昨夜父上が全て話してくれました。」
豫津は俯いて、顔はいくぶん蒼白になり、
「もし父親がずっと僕を軽視していたら、
私も人の子です。
父上の内心があの様に苦痛に満ちているとは
思いもよりませんでした。
ただ’孝’の字も知らずにいたと思います。」
※この辺り、原文の意味が分からずそのまま訳しています。
意味が通らないのです・・・(^^;)
「親子がお互いに心を開き、思いやる事が出来たのなら、
それはお目出たい事じゃないか。」
梅長蘇は優しく笑って言った。
「ご尊父の事を放っておいたとしても、
豫津が気にする必要は無いよ。
昨今の朝廷の政局は変わりやすい。
混乱が過ぎれば、ご尊父も心変わりして、
制御不能な事態を引き起こしてしまうかもしれない。」
豫津は深々と彼を見た。瞳には正直な気持ちが見えた。
「蘇兄がどうしてこの決断をしたかは分かりませんが、
でもそれには情と義があると信じています。
実を言うと、父は今に至るまで、
この計画を行動に起こしたことを後悔していないのです。
けれど父は蘇兄が阻止したことに感激しています。
とても矛盾して聞こえると思いますが、
けれど人の感情と言うのはこんなにも複雑で、
簡単に白黒つけられるものでも、
一太刀で半分に分けられるものでもないのです。
いずれにしても、言府の平穏は保たれました。
僕は蘇兄に対しての気持ちを忘れません。
動機には私と関係があるのでしょうか?」
梅長蘇は長い間彼を見つめて、突然笑い出した。
「想像以上に賢いんだな。
第三者から見ればちょっと可笑しい人と思うだろうけど、
家族や友人に対して言えば、頼りになる存在なんだな。」
「蘇兄、褒めすぎです。」
豫津は顔を上げて笑った。
「我々の未来の運命はどうなるのか、
将来何に遭遇するのか、
今はとても予測できません。
把握できるのは己の心のみです。」
「いい事を言う。献杯するに相応しい。」
梅長蘇は笑いながら頷き、瞳は微かに笑っていた。
「惜しいのは今僕は服薬中でご相伴に預かれない。」
「蘇兄の代わりに僕が飲めばいいんですよ。」
豫津は爽やかに言った。立ち上がり庭に出て黎綱を探し
酒壺を持ってくるように頼んだ。
二つの杯を右手に一つ、左手に一つ持ち、
軽く杯を合わせ、二口で飲み干した。
「君と景睿の友情は厚いが、性格は全然違うものだね。」
梅長蘇は思わず感慨深く言った。
「でも彼も辛いものだ。現在 家に二人の父と母がいて
付き添っているのだから。」
「元旦は外出出来ないんです。
膝をついて話をよく聞かないといけないんですから。」
豫津は笑って言った。
「もし僕が誘いに行くとしたら、二日まで待ちます。」
梅長蘇は彼を一瞥し、
思い付きで言ったかのように尋ねた。
「それじゃ、明日景睿をここに連れて来てくれないか?
見ても分かるように、こんなにも寂しいだろ?
友達があまりいないんだ。」
「それは当たり前ですよ。
謝弼は来られないと思いますけど。」
梅長蘇は軽く笑って、この話題を続ける気はなく、
思い付きでその他の事を話した。
話し始めて間もなく、晏大夫が薬で一杯のお椀を運んできたので、
豫津は梅長蘇の休養の邪魔になる事を気にし、
すでに話さなければならない事は済んだので、
すぐに立ち上がり辞去を告げた。
薬を飲み、梅長蘇が長椅子に二時間ほど眠った。
目が覚めたあと、数人の客と会い、
その後さらに一冊の本を読んだ。
夜になり灯りをともす頃、飛流は花火を始めた。
梅長蘇は廊下に座り、笑いながら彼が打ち終わるのを見て、
手招きをした。
「上げたいの?」
「違うよ、蘇哥哥は(花火を)上げたい訳じゃないんだ。」
梅長蘇は笑いながら彼の耳の傍で言った。
「二人でこっそり蒙叔に会いに行かないか?」
◎◎◎◎
ちょっと短いかな?
と思いつつ、本文は1万文字行ってます・・・(^^;)
あれ?
次は蒙大哥出てくるので長くなりそう。
次の章から読んでは記事を書くことになります。
今でも更新頻度低いですが、更に低くなりそう(;^_^A
皆さま、お正月はいかがお過ごしでしたでしょうか?
大晦日は
胡歌を見るために东方卫视跨年盛典を紅白と
交互に見ていたのですが、
出演が最後の最後でした・・・(;'∀')
プログラムがあるの知らなかったのです(;´д`)
中国の今年の春節は2025年1月29日です。
大晦日は1月28日。
きっと春節の時も出演があると思うので、楽しみです。
あると思い込んでいますが出演無かったらどうしよう・・・笑
しかも翌日普通に仕事ですね(^^;)
一生懸命 繫花みたのに、
繁花周年短片を見られなくて残念です。
どこかで誰かが上げてくれるのを待ちます。
もしくは、公式が無料で見せてくれないかな。
何のために一生懸命に見たのか分からないTT
例のごとく感想などお待ちしております!
2025年1月4日