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「横浜人」の心に火をつけたベイスターズの下克上優勝-地域への浸透を考える

今年のプロ野球の日本シリーズは、セ・リーグ3位の横浜DeNAベイスターズが、パ・リーグ覇者の福岡ソフトバンク・ホークスを破り、「下克上」と呼ばれる戦いで26年ぶりに日本一の座に就いた。地元横浜の盛り上がりを見ていると、地域への浸透がいかにチームに活力をもたらすかが分かる。キーワードは地元に愛着をもたらす「アイデンティティー」。プロスポーツビジネスにおける課題でもある。


観客動員は球団史上最多

11月6日付の毎日新聞によると、今季のDeNA主催試合(全72試合)の観客動員数は球団史上最多を更新する235万8312人に上ったという。DeNAが親会社となる直前の2011年は110万2192人というから、わずか13年で観客数が2倍以上に増えたことになる。

記事では、ファン心理を研究する聖心女子大の小城英子教授が「今まで気付いていなかった『横浜人』としてのアイデンティティーに火を付けた可能性がある」と述べている。東京の通勤圏でもある横浜で、ベイスターズは住民に「横浜」という地元意識を植え付けるシンボル的な存在になったのだろう。

もともとは大洋漁業野球部

もとはといえば、1950年のリーグ分裂に伴い、誕生した球団の一つである。それ以前は大洋漁業(現・マルハニチロ)の野球部として、戦前の都市対抗大会にも出場したノンプロの実業団チームだった。プロ参戦時は山口県下関市を本拠地としたが、すぐに松竹ロビンスと合併して大阪へ、1955年からは神奈川県に移転し、大洋ホエールズとしてファンに親しまれた。

以来、20年余りは川崎球場をフランチャイズとしたが、横浜スタジアムが建設された1978年、「横浜」を冠に付けて横浜へ移転。川崎では反対運動も起きたが、すぐさま川崎球場がロッテ・オリオンズの本拠地となるなど、プロ野球側は「地域」とのつながりについては、意識が希薄だった。

他球団も「地域密着」を目指す時代に

ホエールズはその後、商業捕鯨の規制が厳しくなったこともあり、名称を変更。横浜のベイブリッジを意識して、ベイスターズと名乗るようになった。球団の親会社は大洋漁業からTBS、DeNAと変わったが、1993年以降、約30年をかけて「ベイスターズ」を横浜に根付かせた。

同じような例は他球団にもいえることだ。「千葉ロッテ・マリーンズ」「福岡ソフトバンク・ホークス」「東北楽天ゴールデンイーグルス」「北海道日本ハムファイターズ」など、地域を意識した球団が創設され、地元での支持を広げている。

長嶋茂雄、王貞治を軸に巨人が9連覇を達成した時代など、プロ野球は常に巨人を中心に回っていた。他球団は本拠地で巨人と試合をすることによって、入場料収入や放映権料収入を稼いでいた。巨人と試合のできないパ・リーグ球団は経営に苦しみ、そのたびに身売りが繰り返された。

だが、もはや巨人頼みの時代は終わり、各球団が地元のファンを大切にしながら、チームの発展を模索している。2005年からはセ・パ交流戦も始まり、リーグ間の人気差もなくなった。

2軍や独立リーグも地域を意識

今年からは2軍のウエスタンリーグに「くふうハヤテ・ベンチャーズ静岡」、イースタンリーグに「オイシックス新潟アルビレックスBC」が加わった。ヤクルトは2027年をめどに2軍施設を埼玉県戸田市から茨城県守谷市に移転させることを決め、関東圏でのファン層拡大も視野に入れる。

NPB(日本プロ野球組織)の球団がないような地方でも、独立リーグのチームが根を広げている。NPBドラフト会議では、独立リーグ在籍の選手に指名がかかるケースも増えてきた。地元の声援を受けながら、力をつけてきた選手が新たな舞台で活躍する。そんな姿を願いたいものだ。

ベイスターズは「野球ふれあい訪問」などと題して横浜市内の幼稚園や小学校に出向き、ボール遊びなどを楽しんでもらう地道な活動を続けてきたという。地域密着の動きが全国各地に波及し、球界の裾野がさらに広がっていく。「横浜」の日本シリーズ制覇が、その流れを加速させることを期待したい。


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