![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/160232792/rectangle_large_type_2_2e4ea2830bc288d5daffe1396088f4bb.png?width=1200)
フジテレビの取材証没収に見える日本球界の焦り
プロ野球・日本シリーズで、フジテレビ関係者の取材証が没収されるという問題が発生した。主催する日本プロ野球組織(NPB)もフジも詳細を明らかにしていないが、複数のメディアが報じたところによると、米大リーグ・ワールドシリーズの地上波放映権を持つフジが、他局が日本シリーズの生中継を行っている時間帯に、ワールドシリーズのダイジェスト番組を流したことが原因とみられている。なぜこんな事態が起きたのか、背景を考えてみたい。
配慮を欠くフジの番組編成とはいえ
DeNAとソフトバンクが争う日本シリーズの地上波放映権は、横浜での第1、2、6、7戦はTBS、福岡での第3戦はフジ、第4戦はTBS、第5戦はテレビ朝日が持ち、系列局で生中継されている。
一方、ヤンキースとドジャースの名門同士がぶつかったワールドシリーズの地上波放送は、すべてフジが行った。時差の関係で試合の生中継は午前中となるため、フジは夜にダイジェスト版で再放送した。それがTBSなどの中継と重なったのだ。
日本シリーズという頂点を決める試合の裏番組で、メジャーの試合を放送するということは、異例中の異例だ。日本球界への配慮を欠いているとみる関係者も少なくないだろう。
とはいえ、報道が事実であるならば、フジにペナルティを与えたNPBの姿勢は過剰としかいいようがない。NPBが日本シリーズ以外の番組編成にまで口出しはできないはずであり、ワールドシリーズの放送を理由に取材証を没収したのであれば、メディアに対する不当な圧力に当たる。フジが抗議するだけでなく、各社が加盟する運動記者クラブとして、NPBに説明を求めるべき事象だ。
日本野球の人気低下に危機感か
日本シリーズだけでなく、日々のプロ野球報道は、大谷翔平らの活躍によって、メジャーが中心となりつつある。まして、ドジャースがワールドシリーズに進出し、ヤンキースと対戦するとなれば、人々の関心もそちらに集中するのは致し方のないことだ。そのような現状にNPBが危機感を抱いていても何ら不思議はない。
1995年に近鉄のエース、野茂英雄がドジャースへ移籍したのをきっかけに、日本球界を代表する選手が次々と海を渡った。イチロー、松井秀喜、松坂大輔、そして大谷……。とりわけ、巨人の松井がフリーエージェント宣言し、ヤンキースへ入団した2002年ごろには、「日本の主砲までもがアメリカへ行ってしまう」と球界では「空洞化」の懸念が叫ばれたものだ。
欧州サッカーをはじめ、さまざまなスポーツでグローバル化が進んだ。メジャーリーグの選手も多国籍化し、日本の選手も最高峰の舞台を目指して挑戦する。そのことは当然であり、「国内の地盤沈下」と嘆く人はもはや少ない。
テレビ中継全盛の時代は終わり
ビジネスでも日米で大きな開きが出るようになった。NPBは日本シリーズの主催権を持つが、テレビ視聴率が下がれば下がるほど、放映権料収入にも影響が出る。そんな事情を分かっているはずのテレビ局が、なぜ裏でワールドシリーズを放送するのか、という怒りもNPBにはあるのだろう。
だが、家族そろってテレビでプロ野球を見る時代でもなくなった。スマートフォンやタブレットを片手にストリーミング中継や動画を個人で楽しみ、生中継を見られなくても、見逃し配信で確認できる。多様な伝え方をNPBも考えるべきだ。
幸い、スタジアムはどこへ行っても盛況だ。リアルな興奮を求め、ファンはチケットを買って球場に足を運ぶ。野球もサッカーと同様、地域での密着度が高まり、熱狂的な地元のファンが増えている。その方向性を大切にしてほしいものだ。
人気を高める努力が欠かせない
だが、日本のプロ野球が人気向上のためにどこまで工夫しているかといえば、まだ十分とはいえないだろう。メジャーでは、ピッチクロックの導入など数々のルール変更を用いて野球の魅力を増すための努力を重ねている。
日本シリーズとワールドシリーズを、チャンネルを変えながら同時間帯に見ていると、スピード感の違いに気づかされる。だが、ピッチクロック一つをとっても、日本の社会人野球では導入しているのに、プロは採用に踏み切れていない。
常に改革の意識を持っていないと、メジャーとの差は広がり、日本野球の魅力は低下するばかりだ。取材証の没収でテレビ局に抗議したつもりかもしれないが、今回の問題が示したのは、日本球界の焦りそのものに思えてならない。