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南アフリカの子育てとジェンダーロール:アフリカで命を授かる②
たまに日本から駐在員として南アフリカに来ている子ども連れの方に出会うと、ほとんどみんなが口を揃えていうのが、「南アフリカは子育てがしやすい」ということ。中には、南アフリカで妊娠されて、日本に戻らずこちらで出産することを選んだ方もいるとか。
多くの人が、”アフリカ”という言葉から、「日本ではなく南アフリカで出産?」と思うかもしれない。実際に、南アフリカは平均の数値などをみると、新興国ということもあり、日本の方が安心かな?と思うこともあるかもしれないが、私立病院など、設備が整ったところに行くと、いわゆる先進国と引きを取らないサービスや医療水準がある国だと思っています。
(南アフリカは、二重経済と言われているだけあって、平均値を見てもなかなか全体が掴めないのが南アフリカ。博論の関係で、アパルトヘイト時代の論文やインタビューを読むことがあるのだが、当時南アフリカは「西洋社会」の一部として語られていることが多いのだ。今でいうオーストラリアやニュージーランドのような入植植民地国の位置付けだったよう)
まだ子育てをしているわけではないけれど、婦人科にいったり、情報収集したりする段階でも、「子育てしやすさ」の感覚をなんとなく感じているので書き留めておこうと思います。
ちなみに、リモートで働いている日本の会社の同僚に教えてもらった寝かしつけの本は、なんと南アフリカで子育てした女性が執筆したものでした。(この本を読んで、南アフリカでの育児に関心があるそう!)
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”南アフリカ流”と言いつつも、コミュニティや所得によって違うところもたくさんあるのですが、早速買ってみて、学びになるものも多かったです。
婦人科は女性一人で行くもの?
日本で生まれ育った私は、婦人科は女性が一人で行くものだと思っていました。なのですが、どうやらここではそうではないようで。
(私が通ったのは私立病院なので、公立病院ではまた違うことも多いにあり得るので注釈を入れておきます)
ほとんどの人がカップルで通院しているのです。何度か、男性だけで来ているのも見たことすらあります。
妊娠出産子育ては、女性一人でやるものではなく家族/カップルとしてチームでやるもの、という意識が強いことが感じられます。
単に意識の問題だけではなく、平日の通院に男女ともに(私立病院なので、おそらく2人とも働いているケースも多いと思う)仕事を抜けて病院に行くことも問題ないとされているということでもあるのですが。
こうした空気感が、南アフリカの「子育てのしやすさ」につながっているのかもしれないですね。
ちなみにですが、婦人科のスペースに男性がいることに不安を感じる人もいると思うのですが、南アフリカでは、避妊や妊活などのクリニックは別にあります。
私も一度南アフリカで中絶をしたことがあるのですが、婦人科ではなくよりアクセスしやすいクリニックに行きました。ちなみにクリニックは男性の立ち入りは禁止されいたので、棲み分けがされているようです。クリニックは、保険がなくても格安で、ただ中絶するだけではなく、基本的なリプロライツについての説明や、避妊のオプションまで提示してくれます。
子どもを迎え、育てるということが自然に受け入れられる社会
今のところ、南アフリカのいいな、と思うところの一つは、妊婦さんや子連れの人が過ごしやすい環境であるだけでなく、子どもが関わるイベントにジェンダー関わらず家族が関わるところでもあります。
週末に車を走らせていたり、散歩をしていると、ベビーカーを押しながらジョギングをする男性がいたり、そんな平和な光景が広がっています。
大きなお腹で働いている人も頻繁に目にするし、大学院で一緒にグループワークをしたドイツ国籍の生徒は、昨年修士課程からマタニティリーブを取っていたと言っていて、妊娠出産というフェーズを迎えることが自然と受け入れられていたのです。
そんな私自身も、博士進学を決めた直後での妊娠発覚だったのですが、スーパーバイザーもアシスタントも子どもがいる女性(スーパーバイザーはお孫さんがいる年齢の方ですが)で、自然に私の選択を尊重してくれました。実際に教鞭をとっている女性の中でも、子育て中の人が多くいます。
こうした規範に縛られすぎない環境のおかげで、私自身が肩肘張らずに今の変化を受け入れることができたのかもしれないです。
日本から南アフリカのきた人から聞いたのですが、こちらの幼稚園や小学校では、お迎えに来る親が母親父親半分くらいで驚いた、というエピソードもあります。
パートナーの大学時代の仲の良い友人グループは、ほとんどみんなが父親になっています。彼も、先輩の父親たちである友人から、寝かしつけや育児グッズのアドバイスをもらっているところからも、母親だけでなく、父親も育児に積極的な家庭が多いことを感じて、嬉しく思っています。
とはいえ、二重社会であることは忘れないで
と、いろいろ書いていたのだが、これが実現できる背景には、南アフリカに存在する大きな経済格差があることを忘れてはいけないな、と思うので最後に書き足しておきます。
ここで紹介して話のほとんどは、ホワイトカラーの裕福な人たちの話。子育ての話と一緒に、ドメスティックワーカーやナニーさんを雇う話が併せて出てきます。
ただ、ナニーさんとして雇われるブルーカラー層の人たちの中では、同じような生活があるとは限りません。
この前、ベイビールームのために家具を買いに行ったのだが、そこであった店員の女性の顔にアザがあり。明らかに、誰かに殴られたような跡。
パートナーと同じ母語で、親戚と名前が一緒だったことから話したが、彼女には1人の娘がいて、その父親から殴られたらしいのです。それから彼とは会っておらず、シングルマザーとして子どもを支えているそうです。子どもはもう小学校に入るくらいだが、顔の傷は癒えないといいます。
南アフリカはGBV(ジェンダーに基づく暴力)が蔓延していて、フェミサイドなどが社会問題になっています。レイプ大国とも言われるほど、性被害も多い。これだけ統計に出てくるということは、レポート体制やそれに対する問題意識や対策も多く取られているということでもあるが、特にこうした社会経済的に脆弱な層で、こうした暴力が発生しやすいのです。よくよく見てみたり、仲良く話すようになると、アパートの清掃員の女性が、ある日顔にアザをつくって通勤していることに気がついたりします。
ブレッドウィナーという英語の表現をご存知でしょうか。
一家の稼ぎ手という意味だ。家族のために食卓にブレッド(パン)を持ってくる人ということから来ています。多くの社会では、家族の中でも男性、父親がその役割を果たしていることが多いと言われていますが、アフリカ社会の多くでは、女性がそれを担うことも珍しくありません。男性がそもそもいない、いても酒などに浪費していて、子どもを育て、家計を支えるために、住み込みでナニーさんの仕事などをして、女性が家族を支える、という構図があるのです。
私の所属する大学院のセンターでも、アフリカ系の研究者からよくそうした発言が聞かれます。フェミニズムやジェンダー論の多くは、西洋的な考え、あるいは先進国の中流階級以上の規範から語られますが、この国の多くの人の現状を反映しているとは言い難いとも思います。
そういう私も、日本という国からきて、南アフリカの社会では特権を持って生きています。この社会の多様で寛容な側面に恩恵を受けるものとして、それを支えている社会構造には自覚的でいないといけないのだと思うのです。