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娘が「お昼ごはんを作りたい」と言ってきた。試練のときが来たのだ
「お昼ごはん、私が作りたい」
娘が突然言い出した。
別に今日は急ぎの用事もないし、それなら任せてみようか。
さて、なにを作ってもらおうか。
手の込んだ料理をさせるわけにもいかない。
———ホットサンドでも作ってもらおうか。
「ハムタマゴ」と「コロッケサンド」の2種を作ろう。
そう提案したところ、娘はちょっと不服そうで、ちょっと自信ありげな表情をみせる。
「材料を乗せて、挟んで、焼くだけじゃない。そんなんじゃ手応えないわ (フンスフンス」とでも言いたげだ。
その姿は、ホットサンドメーカーを買った当時の僕の姿を見ているようであった。
娘よ、君は料理の難しさをわかっていないようだな。
普段から料理をしていない人間にとって、ゆで卵ひとつ作るのだって苦労するのだ。
レシピを見ても、そこに書いていないことは山ほどある。
たとえば「沸騰したお湯に……」といっても、たくさんの選択を迫られる。
どうやってお湯をわかす?ヤカン?ケトル?
沸かしたお湯は、どのお鍋にいれる?
お湯はアチアチだけれど、どうやって玉子を入れる?スプーン?おたま?
私の顔を不安げにチラチラと見てきたが、あえて見ないようにした。
彼女が「ヘルプ」というまで、口を挟むのはやめよう。
彼女が自分で考え、決断して、そして失敗する。その過程が大事だと、今の僕は知っている。
今でこそ僕も、なんとなく「(料理ではなく)台所での立ち居振る舞い」がわかってきた。
しかしここに至るまでには、数々の失敗をして、そこから教訓を重ねてきた。
料理に集中するあまり、流しに洗い物が溢れてしまったり。
もう使わないと思ったまな板や包丁が、あとからまだ必要だとわかったり。
何かを温めている間に、他の料理を進めるなんて平行作業も、最初はできなかった。
———
「ごちそうさま」
ところどころ手を貸しながらも、どうにか無事にお昼ごはんを完食するに至った。
彼女は「私だって、やればできのよ (フンスフンス)」と、やり遂げた達成感に満ちた顔をしている。
そんな娘の成長を微笑ましく思うとともに、これから取り掛かる大量の洗い物に目が眩むのだった。