9. MakoとKenbi - ドローンしか鳴らさない楽器 後編
Mako/Kenbiの魅力とは
「コールとトゥーツを鳴らす楽器じゃないからMako/Kenbiは自分には必要ない」という意見も時々聞きます。Mako(スペルはマーコですが発音はマーゴ)の名手David Blanasi、Kenbiの名手Nicky Jorrockのサウンドを聞けば、それぞれイダキにはないワイルドさや、やわらかく心地よい響き、その楽器ならではの特性を思いっきり引き出していることがわかります。そういった「らしさ」を追求するのも楽しみの一つです。
個人的にはMako/Kenbiのハミングのシビアさが魅力で、常日頃Mandapul(イダキ)とMakoとKenbiを行き来しながら、3種類の楽器を演奏し時に感覚的に齟齬が生まれないようなものを追いかけるようにしています。
常に動き回った演奏をしがちなイダキのマウスサウンドは、ぶつ切りになっていて「しゃべる」というニュアンスがピッタリ合うように感じます。比較的ゆったりと動きが少ないマーゴ/Kenbiでは、マウスサウンドが途切れなくつながっていて「しゃべる」というより「唄う」または「引く」という感じに近いように感じます。
3種類の楽器を横断的に扱うことでハミングの感覚がイダキにだけ適用できる感覚ではなく、あらゆる伝統的なディジュリドゥに通底したものであることを感じ取れますし、自分のハミングの感覚がどの楽器にも適用できる精度へと昇華させることができるんじゃないかなと思うんです。
マウスピースのサイズが大きいということ
まだMicky Hallが存命だった頃にWugularrコミュニティを訪れた時、持っていたマーゴをMickyが演奏してくれたことがありました。少し湾曲しているものの、マウスピースとボトムのホールの大きさにあまり差がないほとんど直管のマーゴで、なんと彼は北東アーネム・ランドのイダキ的演奏をしてくれたのでした。
大きなマウスピースであるにもかかわらず、トゥーツがバンバン入った即興演奏で「こんな大きなマウスピースでも楽々演奏した上に、トゥーツまで.....」と静かに驚愕したことを強く記憶しています。
統計的に見ればマーゴは3.5~4cm前後の大きいマウスピースであることが標準的であるように思います。現地のディジュリドゥ奏者たちはそういう大きなマウスピースだからといって、抜け抜けで苦しい演奏になるわけではなく、長く引きのばしたドローンも楽にシレっと演奏しているように見えます。
逆に、ぼくたちバランダ(ノンアボリジナル)のもっとも苦手とするのが大きなマウスピースの楽器なんじゃないかなと思います。このギャップを埋めれた時、アボリジナル的演奏感覚へ大きく近づいたことになる!気がします。
これはマーゴにチャレンジする最も大きな課題ともいえます。フリーでオープンな唇とマッチする引き潮のようなハミングが組合わさって、はじめてビッグマウスの楽器を自由にのびのびと演奏することができるようになる。この楽しさと心地よさを猛烈に感じさせてくれるのがマーゴです。
途切れないドローンを乗りこなす
Belyuenコミュニティが輩出した綺羅星のようなWANGGAのソングマンJimmy Mulukの作曲した名曲バッファローソングこと「Puliki」は5分7秒、「Wororo」は4分34秒あります。
世界的な活躍を果たした天才的なGUNBORRKのソングマンDjoli Laiwangaの名曲「Bungalin-bungalin」も3分40秒、「Nmorrodor」は4分18秒あります。
ドローンだけを大きなマウスピースの楽器で演奏のクオリティが変えずに3分、あるいは5分鳴らし続ける。この課題をクリアするためには安定した演奏感が必須です。あらゆるアボリジナルのディジュリドゥ奏者たちは、そのスキルの差があったとしても演奏をスタートして終わるまで徹頭徹尾同じサウンドで演奏します。この安定感を醸成するための感覚とミッチリと向き合うことができるのがマーゴだと思います。
自分の演奏に不安定さを感じる。演奏の途中で演奏感やサウンドに変化を感じる。途中で音が止まる。そういった不安定さを解消し、ドッシリとした安定感の中でディジュリドゥを演奏したい人におすすめです。