5. ディジュリドゥと循環呼吸
ディジュリドゥの演奏には循環呼吸が必須です。西洋音楽においては特殊な技術と思われがちですが、インドネシアの縦笛スリンなどアジア・中近東では循環呼吸で演奏される民族楽器があり、現地ではコツさえつかめば誰でもできる何気ないものと捉えられているように見えます。
一般的には、循環呼吸の方法は「ほほに空気をためて、それがしぼむ間に吸う」と考えられてるようですが、実はディジュリドゥで行うスムーズな循環呼吸はこれとは全然違います。
リラックスした呼吸 - 深呼吸と睡眠時呼吸
循環呼吸をメタ認知するために、日本人にとっていい呼吸のイメージとして定着している深呼吸について最初に考えてみたいと思います。深呼吸はラジオ体操や学校の体育などでやったことがある人が多いでしょう。深呼吸を文字通り「深く息を吸い入れて大きく息を吐き出す呼吸」と考えて、なんとなく身体に良い呼吸というのがザックリしたイメージな気がします。
飛んだり跳ねたりするラジオ体操の最後に数回深呼吸をしたり、緊張をほぐすために1回深呼吸をすることは、もしかしたら荒れた呼吸や浅い呼吸を整えるのに心地よいかもしれません。でも、リラックスした平常時に深呼吸を10回繰り返したらどうなるでしょう?
2~3回で頭がクラクラしてきますし、胸元がパンパンに張って10回連続でするのはかなりしんどく、やってみれば深呼吸がかなり身体的に負荷がかかることを感じれるでしょう。この深呼吸の「大きく息を吸い込む」というイメージが一般的に循環呼吸の時に多くの人がやろうとするモーションのようです。
では、身体に負荷がかからない吸い方ってどういうものなんでしょう?
ぼくが色々やってみて一番楽でスムーズに感じたのは睡眠時の呼吸でした。眠ってしまうとどんな呼吸か感じられないので、眠るつもりで横になった時の呼吸を観察してみてください。自分がどんな呼吸をしているのかがわかります。
肺というより胴回りがふくらんでしぼむを繰り返します。睡眠時には植物状態の病人も健康な人も変わらず同じような呼吸をしています。そう考えれば、睡眠時の呼吸は一番身体に負荷が少ない呼吸なのかもしれません。同時に、睡眠時の呼吸がもっとも深い呼吸なんじゃないかなと感じます。
鼻呼吸の仕組み
次に、呼吸と深く関わっているが普段ほとんど意識したことのない軟口蓋の動きを感じるために、鼻呼吸をしてみましょう。口を閉じた状態で鼻から息を吸ったり吐いたり、口を開けた状態で鼻から吸ったり吐いたりしてみてください。
口の開閉に関わらず、口腔内に息はまったく入ってきません。これは軟口蓋がせり上がって咽頭に触れることで、口腔と鼻腔という二つの空間を遮断しているからです。
前述のコラム「3. 軟口蓋でフタをしてしゃべる」ですでに述べたように、ディジュリドゥの音を鳴らしている間、軟口蓋は上がって咽頭を閉じることで鼻腔への道は閉ざされ続けています。
その状態から軟口蓋が下がることで、鼻腔と上気道がつながって、鼻から息を吸い入れることができるようになります。まずはこの軟口蓋の身体的な機能を知ることが循環呼吸をメタ的に理解するスタートです。
口を開けて鼻呼吸をする
鼻で吸って口から吐くを1:1の割合で繰り返す
最初からため息をつくつもりで息を吸って、声を出したため息をつく
スッと短い時間で大きな息を吸うように鼻で吸って、フーっと長く息を吐く
このプロセスを身体の負荷の過多がどう違ってくるのかということにフォーカスして順番にやってみてください。1→2はだれでも日常やっていることで、身体的負荷が少なくフワフワしたとてもリラックスした状態でできます。
3は自発的であるにもかかわらず2に近いリラックス具合をキープできています。4をやると途端に筋肉の動きを感じますし、リラックスから覚醒した自発的なモーションへと変化します。何度か繰り返すとそれだけで身体的な負荷を感じます。
伝統奏法やコンテンポラリーといった演奏スタイルにかかわらず、ディジュリドゥを3のブレスで演奏するようにすれば身体的負荷が少ないので、必然的に疲れにくく、年齢に関係なく長く演奏することができますよ。
コップとストローでやる循環呼吸
一般的には循環呼吸をマスターする方法として、水の入ったコップにストローを入れてブクブクと吹き続けるというのが古典的なやり方として広く知られています。この場合、フーっと吹き続けている呼気を頬にためて一瞬強くフッと押し出した瞬間に素早く息を鼻から吸い込むという形になります。
必要なのは深いグラスかペットボトルに細いストローです。実はこの方法で循環呼吸をするのは初めてで、いろいろ試してみてぼくのインプレッションをまとめました。
太いストローよりも細い方がやりやすい
ストローを深く差すよりも表面近く2-3cmの所がよい
コップは吹きこぼれるのでペットボトルの方がよい
息だけでやるより声を出しながらやる方が断然楽にできる
これは循環呼吸ができているかどうかを、コップの中に泡が出続けているかどうかで目視できるという点がわかりやすいメソッドです。当たり前ですが、息を吸ってる時にボコボコが止まっていれば、循環呼吸できていません。
一見このメソッドは有用に感じますが、アボリジナルのディジュリドゥ奏者でこのやり方を使って循環呼吸を身につける人は限りなくゼロに近いと思います。途中で止まってもいいからマウスサウンドをしゃべりながらディジュリドゥを鳴らし続けてみる。それだけでナチュラルに勝手に循環呼吸ができるようになっていくのが彼らの循環呼吸の修得方法で、人から教わるようなことではないというのが実情な気がします。
ぼくとしてはアボリジナル・ウェイが一番良い結果をもたらすと思いますが、彼らのような当たり前感が文化的背景にないぼくらにとっては、ここで紹介したコップとストローっていうやり方もやってみて無駄ではないかもしれません。
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