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2. ディジュリドゥの歴史1 - ディジュリドゥの起源と竹 前編
ディジュリドゥの起源 - ディジュリドゥはどこから来たのか?
ブーメラン同様にディジュリドゥはオーストラリアにとってアイコニックな楽器として、特に1990年代以降世界的に知られるようになりました。オーストラリアの空港のおみやげコーナーには50cmほどの長さにカットされ、音を出すことが不可能なカギカッコつきのディジュリドゥが売られているほどです。
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そのせいか、オーストラリア全土のアボリジナルの人々がディジュリドゥを演奏するものだと思っている人は結構多いようです。ところが実際は、伝統的にディジュリドゥを演奏するエリアはオーストラリア北部のトップエンドというごく限られたエリアと言われています。
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太古にディジュリドゥがどこから発生し、どう広がったのかという「ディジュリドゥの伝播」の歴史的変遷を追いかけることは、壮大な歴史浪漫を感じますが、どこまでいってもフィクションにしかなりません。しかし、ディジュリドゥがユーカリではなく、かつては竹で作られていたということをふまえて考えれば、ディジュリドゥが使われはじめた起源となる地域は限定されてきます。
かつてディジュリドゥの素材は竹が中心だった?
「1. ディジュリドゥとは」で少し触れたように、1800年代のノーザンテリトリー州の北部集団ではディジュリドゥに使われる素材は「竹」が中心だったと考えられています。その理由の一つとして壁画に残されたディジュリドゥ奏者の描かれ方があげられています。
表紙と挿絵2、Brandlの挿絵3に見られるディジュリドゥに描かれたリング、あるいはバンドは、竹の節が意図的に描かれていると考えられます。節や節の間にバンドが描かれるということは比較的最近の竹製のディジュリドゥではそれほど珍しいことではありません(Moyleによる挿絵をご覧ください 1978:3)。感光板81と82、挿絵の3と4、そしてMountfordの挿絵34と44(1956: 147,156)では、ディジュリドゥはシンプルな長くのばしたジグザグパターンで装飾されています。完全に除外することはできないけれど、この装飾からは竹で作られていると想像することはできませんが、ディジュリドゥを片手で持っている(挿絵81)ことから明らかに軽い素材であることがわかるので、完全に竹製ではないとは言い切れません(Alice M. Moyle)。
Alice M. Moyleのこの記述にはあいまいな点が一つあります。それは「壁画に描かれているディジュリドゥのリングが竹の節だ」とする見方です。これは現在のディジュリドゥに描かれるバンドペイントが壁画にも描かれているとも考えられますし、同時にバンドペイントそのものが竹の節に由来しているとも考えられます。
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しかし逆に「ディジュリドゥを片手で持っていることからその素材が竹である」という類推は膝を打つものがあります。ユーカリで作られた木製のディジュリドゥを演奏したことがある人なら実感をともなって「片手で木製のディジュリドゥを持ち続けるのは絶対無理!」と言えるポイントだと思います。
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Moyleが提示している壁画に描かれたディジュリドゥ奏者たちは、片手か両手で地面から浮かせて地面と水平に近い状態でディジュリドゥを演奏しています。たとえ両手で持ったとしても、木製のディジュリドゥを持ち上げるような形で持ち続けることはしんどいですよね。
このMoyleが提示した壁画に描かれたディジュリドゥ奏者たちのポーズ=「ディジュリドゥの持ち方」に着目し、その素材が竹なんじゃないかと推測し、その当時のディジュリドゥが竹で作られていた、と考えることには一定の整合性がありそうに見えます。
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