【脳内勃起音頭 No.1】アンプを内蔵した鯉と老婆
起床とともに、自身が何らかの異形へと変貌している、という話は虚構の上ではよく耳にする話だ。しかし、私ほど、このザムザ体験に対する希望を、四方八方の欲求に破裂させ、その心中、ドラムソロと大量に天空から降り注ぐザクロが地面に衝突してどんどんつぶれてゆく妄想の感じ、みたいな者は過去に存在しなかっただろう。兎に角、私は今日の個人的始まり以来、アンプを内蔵した鯉として生を消費していくこととなって、嬉か。だけど、I don't know the reason why.
しかし、所謂常人の感性からしてみれば、つい昨日まで人間であったのにも関わらず、一切の予告なく、スマホに通知などももちろなく、魚に変えられるなどというのは嫌でたまらなく、その理不尽さに鶏冠を生やして激怒、他人の高級車にガソリンをまく、市営図書館の本をすべて自著とすり替える、などの奇行及び凶行へと満面の笑みでスタートダッシュしかねないだろう。
じゃあ、なんでお前は喜んどんねん。私が湿りながら跳ね回る花柄の布団の周囲には、首を傾げて90度の人々が、老若男女問わず約3万人集まる。それでも私は、何を問われようとも跳ねるだけである。そこに、人の山を分けて、やってくる老人が一人。腰が曲がること、これまた90度。私は、この老婆を川越か何処かで見かけたような気がした。時の鐘のところの横断歩道であったか。そして、私は、彼女こそ、この震源不明の歓喜地震の要因を解明してくれるだろう、そんな気持ちを起こした。
老婆曰く、「I can't get no satisfaction. I can't get no satisfaction.」云々。すると、何処から、ギターの音塊、鳴り響く。私の腹辺りから音が響く。「Ladies and gentlemen, here's Keith Richards!」熱狂のオーディエンス、跳ねる私。愉悦とともに。ギターの斬撃に身悶え、そろそろ乾いてきたなと思う。すると、私の寝室の壁の四方が後ろ向きに倒れ、豪雨がフロアに降り注ぐ。この雨は、この音は、神の賜物だ。老婆のシャウトが街を駆ける。