アナログ盤BEAM YOU/vivaceのためにレコードプレーヤーを買ったどこかの竹の話
アナログ盤、甘美な響き。コレクションアイテムとして、再び注目を集め、新録・再録で発売されているレコード。エントリーモデルのレコードプレーヤーは1万円から、そして高級機は・・・
これは、一本の竹が楽曲への愛ゆえに、本気でこの2曲と向き合うための物語…(ジョーク)
これは稀代の名盤、Rhythmic Flavorが発売された時の僕の感想。この時の天啓のような衝撃はリンク先でぜひ。
ジャケットが提示するワンシーンが今ここで交差していきます。レコードのスクラッチノイズ、エフェクトの効いたボーカルやリズム、引き伸ばされた声が元の姿を取り戻す様子が未来を。伊藤美来の声という最大の武器を惜しげもなく改変し、刻み、引き伸ばして、描くのは過去現在未来のすべての伊藤美来が時間軸”今”に集い、それぞれに預言をしていくような目眩を感じるような楽曲です。
そしてホンモノのレコードで耳にする、ホンモノのBEAM YOU…
アルバムリリースから何百回と聴いたBEAM YOU/vivace。本当に、このアルバム、伊藤美来の術中の中にずぶりずぶりと沈み、その幸福な泥を胸いっぱいに吸い込み、より深みに落ちていく。
いよいよ発売が迫り、限られた予算の中で、考えられうる最高の再生環境を整えることにした。
ここからはこれからレコードプレーヤーを買おうと思っている人の参考になる・・・・かも知れない。
レコードプレーヤー探し
安いもので1万円から、おもちゃのようなものや、デザイン全振りのおしゃれなものも数多い。DENONのDP-500Mのようミドルクラスも人気…。エントリーモデルにはフォノイコライザーが搭載されているが、ついていないDP-500Mは別途プリメインアンプやフォノイコライザーが必要だが、予算オーバー。とそこまで一気に思考がめぐり、新品は諦め中古を探すことに。
「名機」が安い!?
自分なりに調べたり、相場を見たり、修理ブログを読んだり、紆余曲折。購入したのは、1975年発売のダイレクトドライブ方式ターンテーブルDP-1000を搭載したDP-1700。じつは数千円で落札。ターンテーブル単体で交換が可能で、ターンテーブルの暴走の多くは数十円のトランジスタやコンデンサの交換で解決する(らしい)。トーンアームも後から交換したりできる。というところまで調べて、ある程度電子工作はできる竹は古いなりにトラブルがあっても修理が可能だと判断した。この出品はカートリッジやヘッドシェルが付属していて、初期投資が安く済むというメリットもあった。
届く前に近所のハードオフに行ったりして試聴用のレコードを買った。いきなり大事なレコードをかけてもし不具合があったら嫌だから…。というのは建前で、”Feel For You”が入っていたので衝動買いしただけだ。
届いたプレーヤーは写真で見るよりきれいで、何一つ不具合はなかった。音もきちんとなる。素晴らしい。これが46年前の機械なのか??
今回DENONを選んだのは、DENONがまだ日本コロムビアの事業のひとつだった…というのもある。そう、伊藤美来が所属しているレーベルも日本コロムビアなのだ。(出典↓)。
そういうわけで時代を超え、我が家にやってきたレコードプレーヤー。しかし、まだ再生はできない。
フォノイコライザーを探す
レコードの仕組みを端的に説明すると、盤面に刻まれた溝を針でなぞって物理的な振動を生み出し、それを電気信号に変え、フォノイコライザーで音楽のかたちに整え、アンプで増幅し、スピーカーで鳴らす。
つまりレコードプレーヤーにはフォノイコライザーが必要なのだ。
だが単体フォノイコライザーはご覧の通り5000~500000円までピンきり。
フォノイコライザーが内蔵されたプリメインアンプを探そう。
出典ばかりでもうしわけないのだが、つまりそういうことだ(?)竹のアンプは18年使ったオンキヨーのミニコンポ、十分に役目を果たしたとも言える。
もちろんプリメインアンプもピンきりなので中古で探す。予算はない。
せっかくなら同じDENONで…。ヤフオクを巡ること数日、ついに発見した。
「日本コロムビア」の文字が堂々と刻まれた名機PMA-390の第3世代。壊れたらもっと良いのを買えばいい。アンプは探せばいくらでも見つかる。そう思い落札。
きれいだ…。しばらく使ってなかったのか、「ソース・ダイレクト」と「ラウドネス」ボタンにガリがあって左右バランスが少しおかしかったが、何度か操作するうちにガリは消えた。まああまり操作するところではないから良しとしよう。
完成
そうして環境は整った。スピーカーは18年使っているONKYOのものをそのまま使う。でもグレードアップを夢見て、毎日ヤフオクを徘徊している…。
楽しい・・・・
あとレコードプレーヤーを置く台なんかもほしい。とりあえず仮置する。スピーカーや足音などの振動が伝わると針が飛んでしまうらしいので、できる限り重くて、ガッチリとした棚・・・オーディオラックがいいらしい。いつか手に入れたい。
レコード探し
アナログ盤BEAM YOU/vivaceが届くのにまだ一週間ほど時間がある。せっかくだからこれまで踏み入れることのなかった世界・・・レコードショップへ行ってみようじゃないか。
もともと竹はVAN HALENやTOTO、BOSTONから洋楽に入ったクチなので、ほしいレコードはそれこそ星の数ほどある。最近だと50年代のR&Bやブルース、ジャズにも傾倒し始めているのでなおのことレコード再生環境を揃える良いタイミングだったのかもしれない。
それはどこの街にもあるはずだ。いつもの僕なら絶対に近寄らない、下がりっぱなしの電気の切れたネオン管が目印で、冴えないオジサンややたらトガッた服を着た若者が、壁一面の色あせたレコードを穴でも掘るかのように漁っている光景がショーウインドウに並んでいる、そういうお店だ。
めでたくそんな冴えないオジサンの仲間入りをした竹だが(失礼)、今日の目的はフュージョンの名バンド、ウェザー・リポートのハード・ウェザー。僕が好きなバード・ランドが収録されている名盤中の名盤。でも残念、なかった。だからロックの棚を片っ端から眺めていって3枚レコードを買った。
ボストン - ボストン
1976年に発売されたデビュー作、テレビCMにも採用されたMore Than Feelingが収録されたこのアルバムは、中学生の頃同級生に借りたCDの中に混じっていた思い出。誰にも取られないようにすぐに胸に抱きしめた。
VAN HALEN - 5150
前述のBostonと一緒に借り受けたCD、それがVan Halenの1984だったわけだが在庫がなく、代わりに見つけたのがこの特徴的なジャケットをした5150だった。1984の次にリリースされたこのアルバムにはDreams、Love Walks Inなど僕の大好物が詰まっていて、これもすぐに購入を決めた。
Electric Light Orchestra - Out of the Blue
どうやってELOにたどり着いたかすぐに思い出せないが、結構最近ハマった伝説的なバンドだ。このOut of the Blueは1977年に発売されている。僕が好きなのはC面のBig Wheels、Summer And Lightningだ。
Weather Report - Heavy Weather
結局どうしても欲しかったのでディスクユニオンの通販で購入した。まだ届いていない。とても楽しみ。
原田真二 - てぃーんず・ぶるーす
そういえばすごく変化球なレコードを所持していた。そう、ドルつか配信プレゼントで頂いた原田真二のシングル盤だ。
アンプのちからか、レコードのちからかわからないけれどレコードでこの曲を聞いたとき本当に素晴らしいとおもった。ブラスの鮮やかさや声のトーン、本当に素敵なうっとりするような音だった。
閑話休題
話は随分それたが、アナログ盤BEAM YOUが届いたので聴いてみよう。
この開封する瞬間の楽しみというのは、CDもレコードも変わらない。7インチの紙ジャケット、中に収められた、紙の内袋と大きめの歌詞カード。そしてビニールのレコード。CDとは一味違った「温かみ」をこの手に感じる。
生まれてはじめて手にする新品のレコード。この盤面に最初に針を落とすのはこの僕。手と手を繋ぐように触れ合って奏でられるBEAM YOU、vivace。
演出として吹き込まれていたスクラッチノイズも、盤面上に落ちたホコリや針自身が盤面につける傷が原因であるから当然、レコードプレーヤーで聴くと毎回違った箇所に入る。それが「空気感」を感じる所以なのかもしれない。
生きている以上どうしても発生してしまう静電気とホコリとの戦いが、レコードの音を左右する。
できればレコード・クリーナーでホコリを取ってから再生する。そして聴き終わったあと、必要に応じて帯電防止スプレー、湿式のクリーナーを使って綺麗にしておくと良い状態を保てる・・・らしい。
儀式
せっかくだからいかにレコードで音楽を聴く、という行為に含まれる儀式について説明してみよう。
トーンアームのゼロ・バランス調整を行う。レコードはその構造上、「針圧」によって回転する円盤と音溝に追従する。
まずアンチ・スケーティングをゼロにし、リフタ・レバーを下げ、針のカバーを外し、カウンターウェイトを回してトーンアームが水平になる位置を探す。
↑わかりにくいがトーンアームは水平になっている。
水平になった箇所でカウンターウェイトの目盛りが付いたリングだけをまわし、ゼロに合わせる。
↑ゼロ・ゼロが基準だ。この状態でリフタ・レバーを下げても針圧はゼログラム、つまりレコード面に接地しないことになる。
次にカートリッジ(針)の指定の針圧になるようにリングを回す。このカードリッジは約2g。アンチ・スケーティングも2gにセットする。
↑この状態でリフタ・レバーを下げると、ちょうど針先に2gの荷重がかかることになる。
ゼロ・バランス調整は一度調整してしまえば、場所を動かしたりしない限り、たまに確認してあげるだけで良い。
次に毎回行う回転数の調整を行う。
レコードには33と1/3回転と45回転があって、レコード盤面に指定された速度で再生しなければいけない。(たとえば33回転のレコードで45回転にすると早回しの音声になる。もちろん音溝にも良くない)
↑シングル盤のBEAM YOUは45回転。LP盤だと33回転が多い。
そして45回転のスイッチを入れると盤が回転するわけだが、まだ安心はできない。交流モーターは電源周波数によって回転数が変化するので、正しい回転スピードに微調整する。機種によって操作は異なるが、多くがストロボで回転数を判断する。のぞき窓を覗いて、45回転の目盛りが止まって見える位置になるようにSPEEDつまみを回す。
↑ピタリと止まる位置を見つけるのがまた楽しい。
そこまでしてようやく針を落とせるようになる。
再生
「再生」その言葉の意味を考えてみたことはあるだろうか?記録された音は再び、生きかえさせらせる。CDやカセットテープや、デジタル圧縮音源であってもそれが「再生」の本質的な意味だ。レコードに触れて僕は、溝に刻み込まれた音を再び生き返らせるその行為はとても神聖だと捉えるようになった。
あとがき
ジョークで書き始めたら思いの外筆が乗ってしまった。もちろん、当然、このアナログ盤BEAM YOU/vivaceはファッション小物として製造されたわけではなく、日本の音楽文化に文字通り刻みつけるためにプレスされた。だから半端な音じゃ聴けないなって思って、同じくレコードの歴史とともに歩んできた日本コロムビアのコンポーネントを選んだ。
実は中古でも運が良ければ、新品を買うよりかなり安く手に入れることができる。(それでは業界は潤わないが・・・)ただこの選択は間違っていなかったようで、少なくとも僕の耳でも、CD音源との違いが分かる程度には良い音であることがわかる装置を整えることができた。楽しいばかりの毎日ではないが、今僕はたしかに素晴らしい体験をしている。
みっくのCDやレコードも50年後、誰かがふと手にして聴くことがあるんだろう。その宿命的な出会いの可能性も孕んでいるのだ。
手軽に聞けるからめちゃくちゃお世話になっているサブスクリプション・サービス。イベント応募券や特典がついたCD。ラジオ、配信、街角のスピーカー、誰かの鼻歌、音楽と出会う場所や手段はどこだっていいけれど。
レコードという手段は確かに手間がかかるが、その音楽に命を注いだ人たちと向き合うためには丁度いいのかもしれない。
Have a nice music life!