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「JKハルは異世界で娼婦になった」から観る「男尊&女卑」

知らない人のために簡単に紹介しておくと、主人公の小山ハルは交通事故で異世界に転移してしまう。が、異世界転移モノのではお決まりのチート能力も何も持たされず、しかし過酷な男尊女卑の中世世界に放り出されてしまったため娼婦になって食いつなぐという話だ。

それだけ書くと悲惨な物語だけど、高校時代から売春をしていたこともあり、自分の性を売ることにさほど抵抗がないせいか、すんなりと置かれた環境に順応する強かさがあるため陰惨な印象はない。

女性が春をひさぐにはそれなりの事情があると思うけれど、彼女の場合は必要に迫られつつも自分が得意とする分野を飯の種にしようという積極性がある。なので自分の仕事に対してのプライドもあるし、娼館の中で一番に伸し上がろうという意欲もあるため、最底辺とも言える環境にありながら返ってハルの前向きな姿勢が強調される。

作中でハルが取る客の多くが下衆か馬鹿かのどちらかで、彼らはハルを性の対象としてしか見ていない。娼館に来る客だから女性の性にしか興味がないのは仕方がないけど、そんな客をハルは心ではいつも蔑んでいる。

客は底辺の娼婦を蔑み、そんな客を娼婦が蔑む。お互いに身体は重ねるが心の連絡は一切ないので、商売とも言えない。通常の商売であればお互いの打算の結果であっても、敬意を失わないのが最低限の礼儀だ。

そして利益のやり取りのなかで人と出会い、繋がり、それを継続することが付き合いであり、社会を一つの有機体として機能させるのもこの付き合いがあってこそだ。

客への最低限の敬意もないハルと、ハルを性の対象としてのみ扱う客の関係は、謂わば排泄したい動物とその補助の関係を出ない。さらに言えば、自販機で飲料を買うのと違わないどころか、軽蔑という悪感情が含まれるという意味でもっと悪い。

これが主人公ハルを嫌う読者のいることの原因だと思うけど、恣意的に女性を性的玩具として扱う男性に対する女性の偽らざる抗議として、男性は真摯に拝聴すべき点もある。

それが正当な抗議だとしても、女性の尊厳を蹂躙するような男尊女卑が実際の問題として社会的に行われてきて、なおかつ現在もまだそれが終わっていないという風潮を本作は「男尊&女卑」とことさら強調し同調しているのには感心しない。

男性が社会的特権を享受して、その分の冷や飯を女性が食っていると思うのは、単純に隣の芝が青く映るのと同じで、子供の駄々と僻みに変わりない。権利に責任がついて回るように、特権にはそれ相応の責任か、それ以上のものがつき纏うものだ。

男女の権力闘争は神話の時代からやっているけど、しかしこれはまだまだ終わりそうにないようだ。男女差別は厳然としてあると思うけど、それをなくそうとするのは差別を悪だと単純に解釈しているからだろう。

完全な男女平等世界を夢見る人は、「スターシップ・トゥルーパーズ」を一度観てみることをお勧めする。男女の別け隔てなく戦争へ行き、男女共同でシャワーを浴び、男女平等に戦場に散っていくさまが理想社会に見えるだろうか?僕は嫌だね。

ありがとう♥