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シミュラークル、東京、余白(踊ってばかりの国「東京」レビュー)

アーティストの心の叫びはきっと変わらない。どんな言葉を使っても、どんなに壊れても。

そんな普遍性としての自分自身として、下津光史が己を取り戻すまでに、あるいは、彼自身のクリエイティビティに帰依するまでに、彼自身は、きっと自分自身と向き合う必要があったのだろう・・と、今では思えるが、

「気持ちよくなれるならゴミでも食える」と謳っていた彼らがよもや東京をフックにポリティカルに振れるとは思ってもいなかった、というのは当時のファンの正直な心情なのではないだろうか。

下津とGt.林のギター+下津の歌、そしてそれを彩るリズム隊のグルーヴという見事なユニゾンとしての、バンドが作り出すサウンドレイヤーの美しさも見当たらない。要は、彼ら「らしさ」が影を潜めたように見えるのだ。

この違和感はいわば「不気味の谷」のように、以降数年に渡って踊ってばかりの国というバンドの中に存在していた記憶がある。

「東京」に於けるドラムはシンプルになり、グルーヴの抜けたリバティーンズのように迅るようにビートをたたえているし、ギターには嘗てのようなリヴァーヴがない。

過去に「日本語の歌詞はサウンド作りにとって邪魔」とまで言い切った下津は、「君と僕のセカイ」的な個人的動機を謳うこともなく、バンド・サウンドをやや後景に回してまでも、今までの踊ってばかりの国からは想像できないほどに陳腐なクリシェにフォーカスさせている。

このサウンド・プロダクションからは00年代前半のポストパンク・リバイバル、あるいはガレージロック・リバイバルといったムーヴメントを小粒にしたような、初期衝動性だけを残したある種のシミュラークル性を感じる。

ニュー(ネオ)ゲイザーとチルウェーヴのユーフォリア、あるいは昏睡状態的な浮遊感のあるサウンドの跋扈した時代に、オーソドックスな8ビートを基幹にするような「ベタさ」とは一線を画していたはずの踊ってばかりの国が何処へ向かおうとしているのか、2013年時点では、正直なところよくわからなかった。

クリエイションの中核を担う下津光史が住む東京という街に彼がフォーカスした理由については、明確なターニング・ポイントは2012年の「Flower」収録の「セシウム」に代表される、3.11以降のアポカリプティックな絶望感であることは言うまでもないだろう。

政治家の(未知なる)動きとしての東京という街が廻すムーヴメントが誤ったものであったとしても、多くの人々はそれに逆らうことができない・・そんな無力感を「君じゃ届かない、君じゃ叶わない」と露呈しつつ、でも、妻を殴るという描写もレッドベリーが描いたような「Ain’t it a shame」のような閉塞感でもなく、すれ違う人々に笑顔で挨拶を交わしながら下津はある種の自叙伝のように、東京という街を包括している。

例えば、ロラン・バルトのいう「作者の死」とは決して悲観的な意味の言葉ではなく、作品に於ける読者(鑑賞者)との対話の可能性を示唆したものであった。それは、大きな共通の認識の不在であるからして異なる人間同士が共感不可能というポストモダン的イデオロギーに依拠している。バルトのコンテクストでは、「作者」というメガロマニアックな虚像は本来的な意味では不要であるとも解釈できるが、要するにそれは、作品との邂逅というフェイズに於ける作者の存在をスキップすることで、鑑賞者はダイレクトに作品と向き合う「読み」の可能性を残す所作のことだ。

そう考えると、人口の約半分が東京都出身ではない人間であり、下津自身も東京都東京という街をアイデンティティの欠如した存在として捉え、その一つの回答としてシミュラークル性を切り取り、イデオロギーなるものの平均値としてのクリシェをサウンド、世界観に共通する楽曲アプローチとして用いたのだとしたら、「東京」にて一度このような「凡庸さへの回帰」を示したことには理由があるに違いない。

フランシス・ゴルトンの「凡庸さへの回帰」は、「平均値への回帰」とも言われる。統計学的に、ばらつきを残しながらもある種の漸近線のように存在する平均値こそ、任意のカテゴリに於けるその事物のアイデンティティとも言えるーだからそう、本作に存在するこのシニカルさとどこか素っ頓狂なオプティミズムの同居は、言語のフェイズが変わっても存在する彼の表現に於ける最小単位なのだろう。

回帰分析をするにあたり、抽象性の伴うデータは量が必要だ。であるからして、やがて10年代後半で開花する下津の世界観・・この逡巡の過程として、あるいは、他者性の初めての気付きとして、この曲は存在していたと今なら言えるのではないだろうか。

それはドラッグが起こす自己陶酔的なサイケデリアの白昼夢ではなく、あくまでプラグマティックに、この不気味の谷が普遍性を讃える分岐点としてーこの「東京」は鳴っている。

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D▲/Ogri
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