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生活に寄り添う道具感を追求したGreenFan Studioのデザイン深部|Deep Dive into BALMUDA

独自の二重構造の羽根を発明し、静かで大きな風をつくり出した扇風機、GreenFanは、バルミューダの代表的な製品のひとつです。

2024年4月に発売したGreenFan Studioは、特定のシーズンではなく1年を通して、GreenFanの風をもっと便利に、自由に活用したいというコンセプトの元に生まれました。

GreenFan Studio

今回のDeep Dive into BALMUDAでは、GreenFan Studioの企画から携わったデザイナーより、細部に込めたメッセージをお届けしたいと思います。


プロダクトデザイン部のメンバー。左から比嘉一真ひがかずま(部長)、謝采君シャサイクン島田尚樹しまだなおき

ストリートからスタジオへ

バルミューダ社内で小型風力発電の研究開発チームが結成されたのは、家電メーカーとして電力を”つくる”領域への挑戦を始めた2022年後半です。

「代表の寺尾がエネルギー事業を構想していた際にしるしたノートに三脚型送風機のスケッチがあり、それがGreenFan Studioのデザインの基礎になっています。環境問題に貢献するという大きなイメージの下に、コンパクトに描かれていました」(比嘉)

デザイン学校卒業後、初代GreenFanが発売された2010年に入社。プロダクトデザイン部の部長として、GreenFan Studioのディレクションを行う

コロナによる自粛が落ち着き、人々が外へ出ることで放たれるエネルギーに注目し、社内で提唱されたのが“ストリート(Street)”の概念です。ファッションブランドも当時、ストリートを意識したコレクションを展開していました。文明史上、似たようなことはあったのでしょうか。古今東西の資料をかき集め、人々が惹かれる”ストリート”を道具に落とし込むために、その魅力を探るところからスタートしました。

「ファッションやインテリアなど広く調べていくと、ストリートの概念は家の中と外の境界線にあると解釈しました。外で使うようなものが、家の中にあってもいい。家電としてではなく、道具としてそこにあるのが自然なものというふうに考えてみました」(比嘉)

「観葉植物は、中と外の境界にある代表例です。大きな土間やコンクリート打ちっぱなしの住宅デザインなども近いですよね。そういった中と外の境界線の引き方を、今の住宅環境などと照らし合わせながらストリートという考え方の解像度を高めていきました」(島田)

アメリカのデザイン大学を出てから約20年間、プロダクトデザイナーとして企業に勤務していた島田。帰国後、バルミューダに入社。GreenFan Studioでは、概念をデザインに落とし込んでいく作業を担当した

概念の解像度が上がっていくと、アトリエ音楽スタジオにある道具のイメージへと結びついていきました。

「ビンテージのものも含め、照明機器やイーゼルなど、ありとあらゆる三脚型の製品を探して、デザインや構造の参考にしました」(比嘉)

開発コードネームはスタジオ(Studio)に決まり、そのまま製品名として使われることになります。

一年中使う道具としてデザイン

季節を問わず生活空間に合うデザインを巡り、まず全体のバランスから着手しました。

「入社前からGreenFanのデザインに魅力を感じていたので、それを元に新しいデザインを考えるのは私にとってエキサイティングな機会でした。洗練された形のGreenFanに、どのようなバランスで三脚を融合すれば新しい価値をもつ道具になるか、いつも考えていました」(島田)

三脚の付け根の位置と角度、全体の高さをモックアップ(原寸大の模型)で確認しながら詰めていくという作業を繰り返します。

「脚の付け根がヘッドに近いと、道具というより生き物の雰囲気に寄ってしまいます。部屋にあるラフな存在感を目指していたことに対し、生き物っぽい存在になると、緊張感や不安を感じるという意見もありました。均整の取れたプロポーションを目指し、ヘッドと三脚の距離感は時間をかけて慎重に調節していきました」(謝)

GreenFan Studioのメインデザイナーを務めた謝は、台湾でバルミューダのデザインに憧れ、日本に来て入社する。背後のスケッチはプレス向け内覧会のために用意した直筆のもの

「CG上でヘッドと脚の距離を決め、これだ、と思ったバランスで原寸大のモックを依頼するのですが、出てきた実物大のサイズで見ると思い描いたデザインとの違和感がありました。社内でその違和感の原因を話し合い、コンマ数ミリ単位で脚の付け根や角度を調整、検証を重ねます。原寸で何度も手を加えていく過程で生き物っぽさを解消し、どの角度から見ても美しいプロポーションを追求していきました」(謝)

ヘッド部分から脚の付け根を少しずつ遠ざけていきながら、理想の角度や高さを決めていった

「3本の脚は、筒状の面に対して均等に取り付けられています。各脚は着脱できるのですが、そうわからないような一体感にこだわっています」(謝)

脚の付け根に当たる筒状のパーツは下部に向かって緩やかにすぼまっている

「脚の付け根の形状は、GreenFan Studioの個性のひとつです。取り外しの機構も含め、道具らしさを表すことができたと思います」(謝)

各脚は取り外し可能。カチッと心地よい着脱が行える

「専用のロック / アンロックボタンを設けると大きくなってしまい、デザインに影響が出ます。といって、ただ差し込むだけでは持ち上げた際に脚が取れてしまう危険性があります。ご自宅でユーザーの方が組み立てることも考えると、頑丈さと手軽さの両立は必須でした。最終的には突起が内部の溝をしっかりと捉え、グラつかず、それでいて手軽に取り外せるようになっています」(謝)

陰影が織りなす美しさへのこだわり

GreenFan Studioの脚は、少し特殊な形状になっています。

取り外した際の脚の付け根の断面を見ると、脚のすべての面が緩やかにカーブを描いていることがわかる。手前と奥では幅が異なり、ラウンドした台形状になっている

「三脚自体は昔からありますが、そこに現代的な要素を追加するプロセスで、すべての面をカーブさせてみよう思いました。脚の部分はアルミ押し出しの金属で成形しています。通常はプラスチックを用いますし、従来のGreenFanでもそうです。しかし、今回のGreenFan Studioは一年中場所や用途を変化させながら使っていただきたい道具であり、安定性の観点からも、金属を使うことは譲れないポイントでした。そして金属を使う以上は、その良さを存分に味わっていただきたい。そんな想いから、立っているプロポーションだけでなく、光による陰影も計算して取り入れました」(島田)

奥の脚は、幅の狭い面が手前に来るため、細く見える

「正面から見据えると、両側の脚はしっかりと、真ん中の脚は細く見えます。360度どこから見ても、影も含めて楽しめる美脚を意識しました」(謝)

GreenFan Studioで新たに“ジェットモード”を搭載したのも、涼みのための家電から、いつでも換気にも使える道具へ変化をもたらすためでした。三脚の“踏ん張り”も一役買っています。

約23メートル先まで届く大風量モードを搭載、強力なサーキュレーターとして一年中活用できる
ジェットモード使用時のLEDの点灯パターンにもデザイナーが指示を入れている

三脚の接地部分には、ゴム製のヒヅメのようなパーツが使われています。

「三脚であること自体に、モビリティの要素があります。持ち上げて、また置いて、しっかり安定する。そんな道具を目指し、脚の裏にもひと工夫を加えました。接地部のゴムを裏面にだけ貼るのではなくヒヅメのようにしたのは、素材が金属なので、鋭利な印象を与えないようにするためです」(島田)

脚の裏には凸状のリブと、周囲にデザインパターンが刻まれている

「ゴムの真ん中に1本のリブを入れることで、振動をより効果的に吸収します。実物を見るとそれなりに高さがあるのですが、設置すると沈んでわかりません。リブの周囲は、元々ある滑り防止パターンを参考に、独自のアレンジを施しました」(謝)

あえて見せるケーブルの流れ

GreenFan Studioの電源ケーブルは、全長が約3メートルあります。これは、従来のGreenFanのおよそ倍の長さとなります。ケーブル自体のデザインも、ストリートの概念に基づいています。

パワフルな家電にはバッテリーよりも直接的な電源が要ります。家中どこでも稼働するGreenFan Studioには、それなりの長さがあり、信頼性の高いケーブルで壁とつながっている必要性がありました。それならば、頼れる存在として、カッコよく見せたいというこだわりがデザイナー陣に芽生えます。

「家電のデザインでは、ケーブルは隠すのが普通です。しかし、GreenFan Studioはケーブルも含め本体としてデザインしています。長さ、太さ、素材、そして見え方すべてを使い勝手と両立させるのが目標でした」(島田)

ケーブル断面の直径は従来の3ミリから5ミリへ、一般的にも家電としては太いものを用いています。周囲を耐候性の高い素材で覆い、ヨゴレの影響を受けにくい強靭さを備えています。ただケーブルを頑丈にしただけではなく、その見え方も三脚に次ぐアイコンとして成り立つよう意識しています。

これまでのGreenFanは本体下部に電源ケーブルを差し込んでいましたが(Cirqを除く)、GreenFan Studioはファンのあるヘッド部分にケーブルを差し込み、そこからケーブルの流れを見せることでツール感を出しています。

ヘッドの下部にケーブルを挿し込むと後方にテンションがかかり、緩やかなカーブを描いて落ちていく

「音楽機材、たとえばギターアンプなどにつながっているケーブル(シールド)は、綺麗な曲線を描いて楽器とつながっています。それをイメージし、ヘッドの底部からケーブルがまっすぐ垂れ下がるのではなく、一度外側に向かって出ていくようにしました」(比嘉)

綺麗なカーブを描かせるのに、ケーブルの太さ・硬さも一躍買っています。

「音楽機材のケーブルは、束ねてあっても見た目がいいんです。これを意識し、ヘッドから降りてきたケーブルは、GreenFan Studioの腰の位置に直径20センチくらいの綺麗な円をつくってマグネットで固定できるようにしています」(比嘉)

3重に巻くと、自然とおよそ直径20センチくらいの円になる

「何も気を使うことなく、なんとなくケーブルを重ねれば円になり、そのまま床に落としても綺麗な状態をキープします。GreenFan Studioは家中で使ってほしいので約3メートルと長いケーブルにしましたが、それがいつ、どのような形で目に入っても美しく見えるように意識しました」(謝)

床に垂らしても、綺麗なカーブを保持

現代の生活に快適な風を

GreenFan Studioの形が決まる過程について、アイコニックな要素である三脚とケーブルにフォーカスし、デザイナーのこだわりを紹介してまいりました。ほかにも多くのスタッフが、GreenFan Studioに関わっています。

プレス向け内覧会を終えたスタッフの集合写真。中央は外部デザインディレクターとしてGreenFanほか、バルミューダ製品のデザインにアドバイスしている和田智わださとし

「GreenFan Studioは、現代を生きる人が長く使える送風機をイメージし、道具としてのディティールにこだわりました。花粉や騒音、セキュリティーの面など様々な要因で気軽に窓を開けにくい時代ですが、部屋に風があるとないとでは、日々の生活はまったく異なってきます。さわやかな風を、常に身近に感じてほしいというスタッフ一同の願いを込めています」(比嘉)

GreenFan Studioは、高いデザイン性と製品としてのクオリティを評価いただき、世界三大デザイン賞のひとつであるRed Dot Design Award 2024を受賞しました。GreenFanの登場から14年ぶりの新モデル、風の心地よさと共に、プロダクトデザインの深部にもご注目いただけますと幸いです。