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生活に寄り添う道具感を追求したGreenFan Studioのデザイン深部|Deep Dive into BALMUDA
独自の二重構造の羽根を発明し、静かで大きな風をつくり出した扇風機、GreenFanは、バルミューダの代表的な製品のひとつです。
2024年4月に発売したGreenFan Studioは、特定のシーズンではなく1年を通して、GreenFanの風をもっと便利に、自由に活用したいというコンセプトの元に生まれました。
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今回のDeep Dive into BALMUDAでは、GreenFan Studioの企画から携わったデザイナーより、細部に込めたメッセージをお届けしたいと思います。
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ストリートからスタジオへ
バルミューダ社内で小型風力発電の研究開発チームが結成されたのは、家電メーカーとして電力を”つくる”領域への挑戦を始めた2022年後半です。
「代表の寺尾がエネルギー事業を構想していた際に記したノートに三脚型送風機のスケッチがあり、それがGreenFan Studioのデザインの基礎になっています。環境問題に貢献するという大きなイメージの下に、コンパクトに描かれていました」(比嘉)
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コロナによる自粛が落ち着き、人々が外へ出ることで放たれるエネルギーに注目し、社内で提唱されたのが“ストリート(Street)”の概念です。ファッションブランドも当時、ストリートを意識したコレクションを展開していました。文明史上、似たようなことはあったのでしょうか。古今東西の資料をかき集め、人々が惹かれる”ストリート”を道具に落とし込むために、その魅力を探るところからスタートしました。
「ファッションやインテリアなど広く調べていくと、ストリートの概念は家の中と外の境界線にあると解釈しました。外で使うようなものが、家の中にあってもいい。家電としてではなく、道具としてそこにあるのが自然なものというふうに考えてみました」(比嘉)
「観葉植物は、中と外の境界にある代表例です。大きな土間やコンクリート打ちっぱなしの住宅デザインなども近いですよね。そういった中と外の境界線の引き方を、今の住宅環境などと照らし合わせながらストリートという考え方の解像度を高めていきました」(島田)
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概念の解像度が上がっていくと、アトリエや音楽スタジオにある道具のイメージへと結びついていきました。
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「ビンテージのものも含め、照明機器やイーゼルなど、ありとあらゆる三脚型の製品を探して、デザインや構造の参考にしました」(比嘉)
開発コードネームはスタジオ(Studio)に決まり、そのまま製品名として使われることになります。
一年中使う道具としてデザイン
季節を問わず生活空間に合うデザインを巡り、まず全体のバランスから着手しました。
「入社前からGreenFanのデザインに魅力を感じていたので、それを元に新しいデザインを考えるのは私にとってエキサイティングな機会でした。洗練された形のGreenFanに、どのようなバランスで三脚を融合すれば新しい価値をもつ道具になるか、いつも考えていました」(島田)
三脚の付け根の位置と角度、全体の高さをモックアップ(原寸大の模型)で確認しながら詰めていくという作業を繰り返します。
「脚の付け根がヘッドに近いと、道具というより生き物の雰囲気に寄ってしまいます。部屋にあるラフな存在感を目指していたことに対し、生き物っぽい存在になると、緊張感や不安を感じるという意見もありました。均整の取れたプロポーションを目指し、ヘッドと三脚の距離感は時間をかけて慎重に調節していきました」(謝)
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「CG上でヘッドと脚の距離を決め、これだ、と思ったバランスで原寸大のモックを依頼するのですが、出てきた実物大のサイズで見ると思い描いたデザインとの違和感がありました。社内でその違和感の原因を話し合い、コンマ数ミリ単位で脚の付け根や角度を調整、検証を重ねます。原寸で何度も手を加えていく過程で生き物っぽさを解消し、どの角度から見ても美しいプロポーションを追求していきました」(謝)
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「3本の脚は、筒状の面に対して均等に取り付けられています。各脚は着脱できるのですが、そうわからないような一体感にこだわっています」(謝)
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「脚の付け根の形状は、GreenFan Studioの個性のひとつです。取り外しの機構も含め、道具らしさを表すことができたと思います」(謝)
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「専用のロック / アンロックボタンを設けると大きくなってしまい、デザインに影響が出ます。といって、ただ差し込むだけでは持ち上げた際に脚が取れてしまう危険性があります。ご自宅でユーザーの方が組み立てることも考えると、頑丈さと手軽さの両立は必須でした。最終的には突起が内部の溝をしっかりと捉え、グラつかず、それでいて手軽に取り外せるようになっています」(謝)
陰影が織りなす美しさへのこだわり
GreenFan Studioの脚は、少し特殊な形状になっています。
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「三脚自体は昔からありますが、そこに現代的な要素を追加するプロセスで、すべての面をカーブさせてみよう思いました。脚の部分はアルミ押し出しの金属で成形しています。通常はプラスチックを用いますし、従来のGreenFanでもそうです。しかし、今回のGreenFan Studioは一年中場所や用途を変化させながら使っていただきたい道具であり、安定性の観点からも、金属を使うことは譲れないポイントでした。そして金属を使う以上は、その良さを存分に味わっていただきたい。そんな想いから、立っているプロポーションだけでなく、光による陰影も計算して取り入れました」(島田)
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「正面から見据えると、両側の脚はしっかりと、真ん中の脚は細く見えます。360度どこから見ても、影も含めて楽しめる美脚を意識しました」(謝)
GreenFan Studioで新たに“ジェットモード”を搭載したのも、涼みのための家電から、いつでも換気にも使える道具へ変化をもたらすためでした。三脚の“踏ん張り”も一役買っています。
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三脚の接地部分には、ゴム製のヒヅメのようなパーツが使われています。
「三脚であること自体に、モビリティの要素があります。持ち上げて、また置いて、しっかり安定する。そんな道具を目指し、脚の裏にもひと工夫を加えました。接地部のゴムを裏面にだけ貼るのではなくヒヅメのようにしたのは、素材が金属なので、鋭利な印象を与えないようにするためです」(島田)
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「ゴムの真ん中に1本のリブを入れることで、振動をより効果的に吸収します。実物を見るとそれなりに高さがあるのですが、設置すると沈んでわかりません。リブの周囲は、元々ある滑り防止パターンを参考に、独自のアレンジを施しました」(謝)
あえて見せるケーブルの流れ
GreenFan Studioの電源ケーブルは、全長が約3メートルあります。これは、従来のGreenFanのおよそ倍の長さとなります。ケーブル自体のデザインも、ストリートの概念に基づいています。
パワフルな家電にはバッテリーよりも直接的な電源が要ります。家中どこでも稼働するGreenFan Studioには、それなりの長さがあり、信頼性の高いケーブルで壁とつながっている必要性がありました。それならば、頼れる存在として、カッコよく見せたいというこだわりがデザイナー陣に芽生えます。
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「家電のデザインでは、ケーブルは隠すのが普通です。しかし、GreenFan Studioはケーブルも含め本体としてデザインしています。長さ、太さ、素材、そして見え方すべてを使い勝手と両立させるのが目標でした」(島田)
ケーブル断面の直径は従来の3ミリから5ミリへ、一般的にも家電としては太いものを用いています。周囲を耐候性の高い素材で覆い、ヨゴレの影響を受けにくい強靭さを備えています。ただケーブルを頑丈にしただけではなく、その見え方も三脚に次ぐアイコンとして成り立つよう意識しています。
これまでのGreenFanは本体下部に電源ケーブルを差し込んでいましたが(Cirqを除く)、GreenFan Studioはファンのあるヘッド部分にケーブルを差し込み、そこからケーブルの流れを見せることでツール感を出しています。
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「音楽機材、たとえばギターアンプなどにつながっているケーブル(シールド)は、綺麗な曲線を描いて楽器とつながっています。それをイメージし、ヘッドの底部からケーブルがまっすぐ垂れ下がるのではなく、一度外側に向かって出ていくようにしました」(比嘉)
綺麗なカーブを描かせるのに、ケーブルの太さ・硬さも一躍買っています。
「音楽機材のケーブルは、束ねてあっても見た目がいいんです。これを意識し、ヘッドから降りてきたケーブルは、GreenFan Studioの腰の位置に直径20センチくらいの綺麗な円をつくってマグネットで固定できるようにしています」(比嘉)
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「何も気を使うことなく、なんとなくケーブルを重ねれば円になり、そのまま床に落としても綺麗な状態をキープします。GreenFan Studioは家中で使ってほしいので約3メートルと長いケーブルにしましたが、それがいつ、どのような形で目に入っても美しく見えるように意識しました」(謝)
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現代の生活に快適な風を
GreenFan Studioの形が決まる過程について、アイコニックな要素である三脚とケーブルにフォーカスし、デザイナーのこだわりを紹介してまいりました。ほかにも多くのスタッフが、GreenFan Studioに関わっています。
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「GreenFan Studioは、現代を生きる人が長く使える送風機をイメージし、道具としてのディティールにこだわりました。花粉や騒音、セキュリティーの面など様々な要因で気軽に窓を開けにくい時代ですが、部屋に風があるとないとでは、日々の生活はまったく異なってきます。さわやかな風を、常に身近に感じてほしいというスタッフ一同の願いを込めています」(比嘉)
GreenFan Studioは、高いデザイン性と製品としてのクオリティを評価いただき、世界三大デザイン賞のひとつであるRed Dot Design Award 2024を受賞しました。GreenFanの登場から14年ぶりの新モデル、風の心地よさと共に、プロダクトデザインの深部にもご注目いただけますと幸いです。