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【対談:寺尾玄×和田智】デザイナーがプロダクトの“美しさ”を追求する本当の理由

革新的で美しいオールシーズンファンとして、今年(2024年)の春に発売したGreenFan Studio。発売前の2024年3月、バルミューダはメディア向けのスペシャルイベントを開催し、オープニングセッションで開発に至る経緯などを代表の寺尾から説明させていただきました。

<オープニングセッションのスピーチは、以下よりご覧いただけます>

今回のDeep Dive into BALMUDAは、イベントの後半パート、カーデザイナー 和田智わださとし氏を招いて行ったトーク セッションの内容を一部、編集してお届けします。新製品誕生にかける想いと、バルミューダのデザイン思想にまつわるストーリーをご覧ください。


二人の出会い

和田智氏(以下、敬称略) ご紹介に預かりました和田と申します。本日は、よろしくお願いします。

寺尾 本セッションではバルミューダのデザインに対してのクレイジーな姿勢や、やり込み度合いを皆様にお伝えできたら考えております。和田さんと初めてお会いしたのは、確か吉祥寺のオフィスでしたよね?
 
和田 ええ、魚屋の前です。

SWdesign代表、和田智氏。日産 、アウディでカーデザイナーとして活躍。現在はEVのデザインを中心に家電や時計など幅広くプロダクトデザインに携わる。2014年にGreenFan Japan、2015年にBALMUDA The Toasterのデザインを監修したほか、数々のバルミューダ製品のデザインに助言

寺尾 12〜13年前になりますね。初代GreenFanをなんとか世に送り出し、空気清浄機を発売した頃でした。当時、私はデザイナーとして迷っていました。初代GreenFanは白と黒のコントラストでモダンなテイストを目指しました。新しいと感じてもらうことがテーマだったのです。ところが、同じテイストでほかの製品を展開しようとしたら、うまくいきません。そこで外部デザインディレクターとして、和田さんに力添えいただくことにしたのです。

和田 僕は、かつてアウディという会社でデザインに携わっていて、13年ほどドイツにいました。日本に戻って初めてご連絡いただいたのが、イッセイミヤケさんで、バルミューダは2件目のクルマ関係ではない仕事のお誘いでした。どちらも今日までお付き合いがあり、日本に戻りこの2つの才能に巡り会えたことが自分にとって大きな出来事でした。イッセイミヤケさんは、当時すでにデザイン界のレジェンドでした。寺尾さんは、吉祥寺の雑居ビルで初めて会ったのですが、目の前が魚屋で、空けっぱなしの窓からよく見えていました。その風景の中で出会い、直感的に、この人おもしろそうだなと思いましたね。

寺尾 魚屋のせいで、ですか?

和田 そういうわけではないですが、アップルがガレージから始まったという話とか有名じゃないですか。ガレージではなく、魚屋の前にある雑居ビルというのが、なんだか日本っぽくていいなと感じたのです。それから何度かお会いするうちに、実際ただ者ではないことを知ります。カーデザイナーとして世界中のいろんな人と会いましたが、日本でこんな人物に出会えたことが嬉しいですね。めちゃくちゃなんだけど、めちゃくちゃおもろい。

和田 僕らがつくってきたものはプロダクトであり、自分の子供でもあるわけです。出来のいい子もいれば、そうじゃない子もいる。ヒットすることもあれば、まったく売れないこともある。それでも、すべてに対して同じ愛情を注ぎ込み、自分自身も成長しながら生み出してきました。寺尾さんを見ていると、バルミューダの製品も同じで、自ら生きていく上でのリズムの中で、ものづくりをしているなと感じたのです。

寺尾 リズムとおっしゃったのは、おそらく私が飽きっぽい性格だからだと思います。すぐつまらなくなるんですよ、普通に生きていると。朝も、もうちょっと楽しいほうがいいとか、そういった欲求がすぐに生まれてくる。どんなフレッシュで驚くべきことも、慣れたら日常になってしまう。だから常におもしろいこと、スパイシーな味付けや、ちょっと明るくなるようなことを起こし続けたい。そんな思いでものづくりをしています。

美しいものは古びない

寺尾 なぜデザインにこだわるかというと、見えるからです。すべての体験は五感によるものですが、そのうち最も遠くのものを認知できるのが視覚です。月の匂いは嗅げませんが、見ることはできる。そう思うと視覚ってすごいですよね。ただ、見えてしまうもんだから、良くも悪くも自己主張してしまう。和田さんに初めて会社にお越しいただいた時に言われた言葉、衝撃的で忘れられないんですよね。

「寺尾くん、新しいものは次の日から古くなるんだよ。美しいものは、100年経っても美しいままなんだ」

和田 まず、僕「寺尾くん」って言ったこと一度もないですからね(笑)

寺尾 私の脳には「寺尾くん」ってさとされた記憶として刻まれておりまして。とにかく、衝撃的な学びだったのです。新しいって、一瞬の価値なんだなと。翌日には、もう新しくない。だから、我々は美しいものをつくらなくてはダメなのだと、そう気付かされました。

和田 僕自身、日本でカーデザインをしていた時に上から「とにかく新しいものを」とせっつかれていました。ドイツへ行き、そこの上司になったワルテル・デ・シルヴァというイタリア人デザイナーの方に「日本人は異様に新しさにこだわるが、その新しさでヨーロッパの地を生き抜けられると思うかい」みたいなことを言われたのです。そこには、ヨーロッパのデザイナー特有のクラシックの概念が染み込んでいました。日本でクラシックというと、古いものというイメージがまとわり付きますが、ヨーロッパでは生きるために必要な、本質的な要素を指します。

和田 クラシックの概念は、何千年もかけてつちかったものであり、君が理解できないならアウディで仕事をすべきではないとまで言われてしまいました。そこで僕は、考え方を変えざるを得なくなります。古いものに対する研究を始め、時代背景から倫理、道徳まで、デザイナーとして今まではやらなかったことを学ぶようになりました。いざ日本へ戻ると、新しいものを追求する体質はあまり変わっていませんでした。こうした思いから、寺尾さんにそのような助言をしたのかもしれませんね。

デザインの正体とは

和田 GreenFan Studioは、1年中そばに置きたいと思えるデザインが課題と伺っています。扇風機のシルエットに抱くイメージは、やはり夏限定のものです。それ以外だと、違和感がある。三脚のGreenFan Studioは、季節問わずオブジェとして成立する道具感かもし出しています。そして、影がまたいい。僕はものがつくる影が好きで、理由はそこに情緒を感じるからです。人が立って、影ができる。ものが存在して、影ができる。これこそが生きている証です。先ほどデザインチームのある方が、GreenFan Studioがつくる影のことをやたら熱く語っていて、この場(メディア向け発表会)でそんな話をするのはどうかと思いつつも、実にバルミューダの人らしいなと嬉しくなってしまいました。

寺尾 それは、デザインの話なのでしょうか(笑)

和田 デザインって、そういったこころざしの部分ですよ。パッションがなければ、何をつくったって意味ありません。

寺尾 そうですね、おっしゃる通りです。和田さんから出たワードの中に、社内でよく出るものがいくつかありました。ひとつはクラシック。古いものと訳されますが、我々の解釈は古くから残っているものです。今でも見たり触ったりできるもの。例えば(青山旗艦店の壁を触って)このレンガは、イタリアから取り寄せたアンティークのものです。そもそも、なぜ、そんなものが残っていたのでしょうか?

BALMUDA The Store Aoyama店内の壁にはヴィンテージのレンガを敷き詰め、クラシックへのリスペクトと、新たな価値をもつ家電をつくるというバルミューダの世界観を表現している

寺尾 古いものはたくさんあります。しかし、意図的に残されているものは、ほんの一部です。それをクラシックと呼ぶのではないでしょうか。残す理由は、尊いからです。人が何らかの尊さを、それに感じるからと私は考えます。和田さんとの10数年にわたる共同作業を経て、そんなふうに考えるようになりました。そして、もうひとつはです。私は、なぜ影ができるのかというほうに関心があって、それはがあるからなんですよね。デザインって光と影じゃないですか。和田さんは影が好きで、私はどちらかというと光が好き。デザインというのは、ハイライトとシャドウの組み合わせという気がします。

和田 比率かもしれないですね。光と影の比率で、すべてのデザイン要素が決まると言っていいと思います。

寺尾 クラシックなものの陰影って、人類が何億といったものを見て、感じ、DNAに刻まれているわけじゃないですか。辿たどったら、それは凄まじい量の知識です。ものの色、形、大きさに対して、これは心地よくて、これはおかしいといったような感覚って、人類共通なんですよね。そんな中で、私たちの共同作業のチャレンジとして大きかったのは、プラスチックをいかに良く見せるかということでした。現代の家電は、どうしてもプラスチックを多用することになります。GreenFanのエッジの切れ落ち方とかは、プラスチック製品では、あまり見られないものです。なぜなら、つくるのが非常に困難だからです。

感触へのこだわり

寺尾 いつも努力しているのはつつましく美しくあること、そして健康的であること。これをバルミューダの製品にも取り入れようとして、何千というデザイン案を和田さんと一緒にやってきましたね。電源ケーブルについても、たくさん議論しました。

和田 家電ってケーブルが見えてはダメだみたいなことをかつては言っていたのですが、GreenFan Studioの場合は、見えてもいいというか、むしろ見てほしいという出来栄えです。

寺尾 これは、この径(約20センチ)で巻くのがデザイナーのこだわりで、よれるのが嫌だったのです。どこのケーブルメーカーを探しても、そのようなケーブルはなかったので、特注でつくりました。ケーブルは通常、中にプラスとマイナス2本の線が走っていますが、このケーブルは外側にマイナス、中央がプラスの同軸です。同軸にすることで、ケーブルに“張り”が生じます。張りがあればよれないので、デザイナーが思い描いたようなケーブルの流れを保ったまま、製品を使っていただくことができます。

和田 タッチパネルだらけの今の世に、こうした感触にこだわったアプローチには、とても重要な意味を感じます。なぜこの形になり、どのように使われるのか──なかなかそのようなことを話す機会も減りましたが、それを語っていってこそ、次世代のファンクショナルリズムの形成につながっていくのではないでしょうか。バルミューダは、新しいデザインのスタンダードを示すべき立場にいてほしい、私はそう願います。

寺尾 このままずっとデザインの話をしていたいのですが、時間もだいぶ押してまいりましたので、また機会を設けさせていただけたらと思います。和田さん、本日はお越しいただき、ありがとうございました。

トーク セッション後の記念ショット
GreenFan Studioの最終的なデザインが決まるまで、2000以上のデザイン案が検討された


公式noteでは、GreenFan Studioのプロダクトデザインを担当したデザイナーによるインタビューも紹介しています。こちらも合わせて、ご覧ください。