【イベントレポート】4D Conference 2019 オープニングイベント
2019年10月21日 - 23日の3日間大阪府立国際会議場で開催される、デザインの意味を探る学術会議 4D Conference 2019:4D・Designing Development Developing Design – Meanings of Design in the Next Era。オープニングイベントとして立命館大学大阪いばらきキャンパスにて開催された講演・パネルディスカッション・情報交換会に参加してきました。
オープニングイベントのメインは5人のキーノートスピーチ。デザイナーだけではなく多様な分野から様々なトークが聞けました。
【01_元国境なき医師団国際部門長 ウンニ・カルナカラ氏】
『The role of innovation and design』
デザイナーではなく医師、公衆衛生について教えている。人道支援の活動家、紛争地帯でおもに活動していた。元国境なき医師団国際部門長。
最初に国境なき医師団についてのケース紹介。特に興味深かったのはLogisticion:という役割。恵まれているとは言えない現場にいってその環境に応じて、問題解決をはかる人。例えばAからB地点まで水をはこぶ、水圧の異なるパイプ同士をどうつなげて、どうやって運ぶか、、、といったような。
そうした具体例をもとに以下の問題提起。
Wicked Problem:やっかいな問題、複雑で解決策がなさそうな問題。こうした問題の課題は、1)フレーミングが難しい、また誰がフレーミングするかによってその内容が異なる、2)解決策を見つけて実現するのに長期的な期間がかかる。
やっかいな問題の例として気候変動が挙げられる。カオスとも言える。一見別事象に見えるいくつもの問題が複雑に絡み合っているといえる。我々が直面している問題は、そのほとんどが政治家による非倫理的な決定によってもたらされるといえるのでは。
収斂する問題と拡散する問題がある。デザイナーが果たせる役割は既成概念から自由になって考えるということ。課題解決が難しいとなった場合に、アプローチを変える、ということができるのがデザイナーの役割では。
ディーター・ラムスのデザインの原則を紹介。ニーズからはじめる、人間中心設計など、環境に適応させること、アクセスブルなこと、スケーラブル(拡張性)が重要。デザインの視点としては将来の予測を取り入れることが重要では。
ナッジ、行動経済学も活用できるのでは、ナッジをいかにうまくデザインできるかは大事。
(ナッジ(nudge)とは、直訳すると「ひじで軽く突く」という意味です。 行動経済学や行動科学分野において、人々が強制によってではなく自発的に望ましい行動を選択するよう促す仕掛けや手法を示す用語として用いられています。)
人道問題に人道的解決無し。人道問題とは政治的問題。政治が正しい選択をすれば解決するのでは。
モントリオールのアート作品の話。ホームレスの人が住むテントがあるが、そこにホームレスの人が入るとモントリオールの時計台?の照明が赤く光る。すべての人たちに対して、ホームレスの存在を忘れないように、という素晴らしい作品。
【02_石巻工房代表 芦沢 啓治氏】
『Social innovation and design』
建築家なのでソーシャルにコミットしているが、イノベーションというと理解が難しい。iPhoneなどデジタルのイノベーションは理解できるが、建築はもっと基本的なものなのであまり想像つかない。自分の仕事を見返してもソーシャルイノベーションとは縁遠いところにいると考えている。
自己紹介:建築家としては異例で、金物工場に2年務めたことがありその経験はとても大きい。
3.11以後、被災直後の石巻でコミュニティをつくりながら、デザインによって復興に対してどういった役割を果たせるか、ということの活動を紹介。ハーマンミラー社と一緒に家具作りのワークショップを行ったりなど、、、
ボランティアは永続的には続かない。それでも被災地の中でクリエイティブな場所があったら、復興に役に立たないだろうか、と考えてワークショップを続けている。またそのための場所「石巻工房」もつくってオープンした。ボランティアではなく、ビジネスとして両立することを目指し実現した。もちろんボランティアからの批判もあったがどうやって収益を得るか。パートナーを地元から集るなどして実現。またベンチを参加者と一緒に作って、というワークショップ多い。石巻の映画館やカフェなどの他、海外へも販売している。
これらの経験を経て得た結論。料理人は素材を買った後に料理を決めるのでは。デザインも同じで素材を見てから考えてもいいのでは。一枚の板でも様々な用途やデザインへ展開できるはず。
石巻工房→
https://ishinomaki-lab.org
【03_カウナス工科大学デザインセンター長 ルータ・ヴァルサイティ氏】
『Design as enabling agent』
カウナス工科大学は、リトアニア・カウナスに位置する大学である。バルト三国で最も大規模な工科大学である。 ソ連期にはカウナス工業大学やカウナス・アンタナス・スニエチクス工業大学と呼ばれていた。
過去の講演のコメントでは「私たちの大学はデザイン学部をもたない工科大学ですが、入学した学生は全員、デザインの単位を取得するのが必須になっています」とのこと。
本日の話は、D-culture:デザイン文化というのが非デザイナーに対してどのように影響するか、という研究について。リトアニアで行った研究。
テクノロジーによって従来の職業が無くなるなど、変化していっているのでは。人間とAIの間を埋める役割が今後重要になってくるのでは。別の見方をすれば線的から循環型の社会への変化ともいえる。
デザイン関連のスキルは分野横断的といえる。以下の3つのスキルが今後より求められるだろう。
1)デザイン思考
2)あえて間違える思考
3)未来志向の原理
2)あえて間違える思考について : Thinking wrong
デザイン思考は今やポピュラーだが、そうでないアプローチも大事。例えば間違えることも大事。もともとデザイン文化というのは3人のデザイン研究家が考えたコンセプト。その中でも特徴的なのは2)のThinking wrong。
不確実な環境、問題に役立つのでは。正しい思考は既知の課題にしか対応できないから。
3)未来志向の原理 : Future thinking principles
MITの伊藤穣一氏によるコンセプト。
これらの原理はデザイナー以外にも重要ではないか。上記3つの人格特性を広く社会に広めるにはどうすればいいか?
デザイン思考は、デザイナーの考え方を他の人に移行するということにフォーカスしていた。一方ビジネスに偏っている、デザイナーのソフト面での習慣はできていない(手法がテクニカルだから)などの批判も多い。
デザイン文化というのはこれらを解決するのに役割を担えるのでは。広く社会にデザイナーの資質を広げられるのでは。
デザイン研究には、統計的な裏付けが必要。それが無ければデザイナー以外の人に説明、説得できない。
デザイナーでは無い人にデザイン文化体験をしてもらった結果をまとめたダイアグラム。
(↑スキルや影響度の把握は、ワークショップ後のインタビューとその他調査によるものとのこと)
【04_NewSchool of Architecture & Design
デザイン学部長 エレナ・パチェンティ氏】
『Across Boarders』
エンツォ・マンジーニの幼馴染みでもある。自分はソーシャルイノベーションの専門家ではなく、デザイン研究者、教育者。ソーシャルイノベーションにはあまり関わったことが無いので最初に定義から始めたい。
ソーシャルイノベーションとは:人々から生まれるイノベーション、テクノロジーから、ではない。トップダウンではなく、ボトムアップデあることが多い。なのでローカルの小さいコミュニティから生まれる事が多く、文脈、ストーリーが重要視される。
デザインとソーシャルイノベーションとの関係とは:私は今カリフォルニア州のサンディエゴに住んでいるが、メキシコの国境から20分程度。メキシコ国境には問題も多いが、解決しようと考える市井の人のエネルギーも多いと感じる。「Quartyyard」というのは空き地を利用した都市型公園とイベント広場。当時の学生が街の活性化をめざしてコンテナなどを用いてつくった。キックスターターなどで資金を集めるなど様々な手段で実現した。ソーシャルイノベーションはとにかく始めてみる、ということが重要。とにかくやってみる。
この「Quartyyard」、非常に成功した、イベントも毎週のように開催され、コミュニティとして機能している。
大きな意味での??イノベーションとは言えないかもしれないが、コミュニティを活性化し、関係性を構築した、という意味ではイノベーションと言えるのでは。
Quartyyard > about
https://quartyardsd.com/about/
他の例、メキシコ国境では、メキシコからアメリカへ人が動き、アメリカからメキシコへゴミが動く。ティファナでそのゴミをリサイクルして作品?建築?をつくった。これもソーシャルイノベーションと言えるのでは。
トランプ大統領の「A big beautiful wall」について
デザイナーとして、二つの国を分ける壁を「美しい」と捉えるのはあり得るのか?
またこうした政治的な発言をきっかけに、多くのデザイナーやアーティストが国境沿いに作品をつくり、社会に対してメッセージを発信している。
こうした事例で言いたいことは、ソーシャルイノベーションとはローカルな課題に対応するもの、ただ時としてグローバルな影響を与える事がある。local context / global issues
またその際には、多様な価値観をもつ人々との協働が重要だと考える。
【05_ペプシコCDO マウロ・ポルチーニ氏】
『The social responsibility of Design』
社会の変化に応じて以下の2点の変化があった
1)ブランドの構築の仕方が変わった
2)イノベーションが必須になった
1)ブランド構築について
大企業についてはトップダウンで行われることが多かった、また大きな資本投下によってマスメディアを通じて広告をうつ、ということが一般的だった。しかし今やその方法では通用しない。テレビからSNSへ主戦場が移ってきている。例えば多言語で各国のSNSヘ展開するなど。
オンラインではなく、「オフライン」が重要。人々が実際の経験していること、生身の人間として話していることが重要になっている。それがコンテンツになる。人々にメッセージを押しつけることができなくなっている、もう人々はだまされない。
対話のプラットフォームが変わってきている。
2)イノベーションの必須化
近年、これまでに比べて比較的簡単に資金を得ることができる。例えばキックスターターなど。テクノロジーのコストも下がってきている。ものを作ることも簡単だし、そのままプラットフォームを通じて販売もできる。このエコシステムはSNSを通じて出来上がっている。
過去、大企業は物流など参入障壁があって、これまで新規企業や小さい会社は参入ができなかったが、その状況が上記のように変わってきている。これは大きい。
参入障壁はもう企業を守ってくれない、大企業であってもイノベーションについて実施することが必須になったといえる。
結論として、人間、人々を中心にすべて考えていかなければならない。会社風土やビジネスモデルなど全て。デザイナーは人が好きですよね、人のためになにかをつくることが好きですよね、その姿勢が大事。
良いデザインとは絶対的菜ものでは無く、ターゲットやユーザーによって異なるもの。相対的なもので見る人によって異なるのは当たり前だと考える。ただモノとして良いだけではなく、背後にあるストーリーが大事なのは変わらない。
ペプシコの具体的な商品を例として紹介。
パッケージのデザインを若いアーティストに任せ、3ヶ月毎に変えることで商品の新しさを陳列時にも出せるようにした商品。少し価格帯は高いが、コーラではなく飲料水を発売。
詳しくはウォールストリートジャーナルのこちらの記事に
https://jp.wsj.com/articles/SB11177354273695693774104582580501749463074
美しさとは
経験を通じてポジティブな気持ちになる、心地よく感じる等ということだと考える。BeautyとはPleasureともたらすものだと考える。なので店舗のデザインを通じて、感情的な快適さを経験してもらうような空間のデザインをしている。
そのためには社会や人々を正しく理解する必要がある。広告代理店や大がかりの調査だけでは、本当に人々を理解できないのでは。デザイナーはそうした隙間を埋めることができるはず。世の中にデザイナー独自の視点で見るということが重要。
大企業なのでイノベーションというのはとても難しい。何億ドルという収益あげないといけないので。
ただブランディングについては様々な実験を繰り返していて、時に非常に短期間での新商品開発なども行っている。例アーユルヴェーダを参考にしたOJASというスナック。(パッケージやWebサイト綺麗)
OJAS STUDIO
https://ojasstudio.com/
NYにある本社のデザイナー数百人は、プラスティックフリーとしてペットボトルの使用をやめた。そのほかリサイクルプラスティックによる商品開発なども進めている。
またデザイナーの多くはファイナンスについて苦手、嫌う場合があるが、持続的なビジネスとして構築することは非常に重要。多くのパートナーやプラットフォームと手を組む必要があるのでは。
最後に
私たちの身の回りのものは全てデザインされている。デザイナーは毎日人々の生活に影響を与えている。世界の人々の生活をつくっていくという意識が重要で、それを原動力として次世代につなげていければ。
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医師や教育者、研究者から企業のデザイン統括まで、多様な立場からソーシャルデザインについてのトークを聞くことができたのはとても貴重な機会でした。
カウナス工科大学デザインセンター長のルータ・ヴァルサイティ氏が提唱する「あえて間違える思考」は、何かを創造するプロセスではとても重要なのではと思います。失敗しても大丈夫!というよりもまずは間違えよう!の方がより挑戦できる土壌になるのかなぁと思いました。
また、ペプシコCEO マウロ・ポルチーニ氏の、大企業でありながら短期間で小さくサイクルを回していくような実例を交えたトークは、エネルギッシュでとても示唆に富むものだったと思います。