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事故〜終わらぬ悲しみ


「今そこで、すごい事故あったんだね!」

「あっ!いらっしゃい。そうなんですよ!ものすごい音がして。。」

「バイクと車の右直だな、あれは」

「そんな感じでしたね」

「何よりライダーが無事だといいんだけど。。」

「そう祈りたいですね」

「最近、バイクの事故多いんだよ。特に僕みたいなリターンライダー、
つまり50〜60代で死亡事故にまで至っているのが増えてる」

「バイク人気で、人口も増えてますもんね」

「それもあるな。
でも、リターン組は若い時と同じ走り方をしてしまうんだ、きっと。
年齢とともに反射神経なり筋力量なり、
認知機能だって確実に若い時のそれと比べて衰えてるけど、
それが意識出来てなくて、
結局無理な走り方になってしまってるんだと思う」

「人間、どうしたって歳は取るし、あちこちガタもきてるでしょうしね」

「実はさ、今日の事故とリンクするように、
この前バイク事故に関するあるYoutube動画を観たばっかりなんだよ。
ある時、Cafeに向かって走ってると、
大型バイクに乗った女性が後ろから来てね。
大型で速かったから避けて道を譲ったんだけど、お店に着いたら、
その女性も同じCafe目指してたみたいで、一緒になったんだ。
こちらは誰かなんて知らなかったけど、Youtubeをやってた
その男性ライダーのことを女性は知ってて声をかけてくれたのね。
しばらく話して、そのお店は誕生日のお客さんに、
ケーキのサービスをしてたらしいんだけど、女性がお店のマスターに頼んで、
ケーキを出してもらったりもした。
そんなことがあった後、女性は突然、車との事故で亡くなったんだ。
動画はその事故現場にお花を手向に向かうってものだったんだけど、
現場で手を合わせた後、「人間はみんな死ぬんですよね」って
ポロッと言葉をこぼすんだ。
走りながらそんな出会いの経緯を話すんだけど、
2年経ってようやくこんな動画で話すことが出来るようになりましたって。
ところどころ言葉に詰まって、泣いてるのがわかる。
「人間はみんな死ぬ。。そんなことはよく分かってるんだけど、
ぶつけようのない悔しさばっかりが募って、本当につらそうでさ、
言葉の裏に、命を取るならいっそ俺みたいなものの命を取ればいいのに。。
とすら思ってるのがよくわかった。
会って話したのはたった数時間。
それでも彼女が自分に向けてくれた優しさを決して忘れない。
またここに必ず戻って来るって結んでた」

「悲しい話ですね。事故をしたい人なんて誰もいないけど、
生きていれば避けることの出来ないそんな悲しいことも起こるんですよね」

「あぁ。バイクブームはいい。
おかげで女性ライダーが増えてくれたのもすごく嬉しい。
前にも話したけど、女性モトブロガーの動画なんて今、良く観るんだ。
バイクに乗る人が増えれば必然的に事故も増える。
走りながらの実況、おしゃべりはとても楽しいけど、反面心配にもなる。
喋っていればどうしたってそちらにも意識は向くから不注意になる。
せめて街中だけでもアフレコやテロップを使えないのかな?
なんて思う時もある。やっぱり危ないことには違いないからさ」

「そもそも今は、足なんかギリでも厚底履いて平気で乗っちゃう。
足のつかないバイクに乗るなんて僕の世代では考えられないんだよ。
それがダメだって言ってるんじゃないよ。
足がつきもしないバイクには乗っちゃダメだなんて言ってるんじゃない。
免許を取るのに、絶対このバイク乗るんだって決めて頑張る人もいる。
一目惚れしたバイクがたまたま大型で、足つきが微妙だったなんてことはある。
それは仕方のないことだよ」
「でもさ、でもね。怖さを知らないんだ。コントロールを失う怖さを。
何が一番怖いかって、怖さを知らないことなんだ。」

「怖さ、ですか」

「あぁ。一歩間違えれば死ぬこともある。
他人を傷つけてしまうかもしれないっていう怖さ。
バイクだけじゃない、車だって、自転車だって、
乗る以上はそういうリスクが必ずついて回るってことを知ってほしいんだ」

「そうですね。それは責任でもありますね」

「単独の事故だって、いわゆるもらい事故だって、
不可抗力の避けることの出来ない事故だって、さっきの話のように
どれだけの人がつらく悲しい思いをするのかってことを想像してほしい。
決して自分だけの命、自分だけの人生ではないってことを忘れてはいけない」

「本当ですね、それは」

「さっきマスターは責任って言ったけど、
事故をしないってことは、バイクや車に乗る人間の責任でもある気がするよ」

「事故をなんとか回避する方法ってあるんでしょうか?
うちの凛花ちゃんも心配になってきました」

「あるさ。事故を全くなくすことは出来なくても、
その確率を下げる方法、乗り方や心がけの方法はあるんだ」

次回に続く。。

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