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猫ちゃん、この愛すべきもの


「おぉ、いらっしゃい」

「チワ〜っす」
「お店の横に小さいお皿あるじゃない?猫ちゃんでも来るの?」

「そ〜なんですよ。ちょっと前からなんですけど、お店の中をずっと覗いている
猫がいたんで出て行ったら、逃げたりしないでいてくれたんで、お腹減ってる
のかなぁってお店の残りあげたらそれを食べてくれて、それからたまにですけど
来るようになったんです」

「へぇ〜、それは可愛いね」

「何だか情が湧いてきちゃって 笑」

「猫ちゃんって言えば、僕もすごく素敵な経験しててね」

「どんなですか?」

「何年か前、その頃はビル清掃のアルバイトも本業の傍でやってたんだ。
毎週、週一で行くマンションの裏の駐輪場を掃除している時にさ、
その猫ちゃんと出会ったんだよね」

「その猫ちゃん、逃げてったりしないでね、僕の顔をジ〜っと見ているだけ
だった。僕もしゃがみこんでこんにちは〜とか、この辺に住んでいるの?とか、
お腹空いてないかな?とか、会うたびに話しかけてた。
それをいつもずっと聴いててくれてね」
「ホントはご飯持ってきてあげたかったんだけど、清掃に来てる人間が
猫にに食べ物あげてるなんて苦情が出てもいけないし、
すごくもどかしい思いをしてた」

「そんなことがしばらく続いてたんだけど、急に姿を見せなくなって、
ご飯を探せるもっといい場所に移って行ったのかなぁ?なんて思ってたんだ」
「そんなある日ね、久しぶりに駐輪場に出てきてくれたと思ったら、
後ろからピョコピョコ小さい猫ちゃんが2匹ついてくるのが見えたんだ!
えっ?って思ってたら、いつもの猫ちゃんがいつものように僕の顔をジ〜っと
見てくれた」

「その時にさ、ほら、こんな可愛い赤ちゃんが生まれましたって言ってくれた
ような気がしてね。
そう思ったら涙がボロボロ出てさ。だって毎回ご飯をあげてたわけじゃないし、
話しかけてただけで、何のお世話もしてあげてなかったのに、こんなに可愛い
赤ちゃんをわざわざ見せに来てくれたんだからさ」

「本当に可愛いね、無事に生まれて良かったね、見せてくれてありがとうって
何度も何度も猫ちゃんに言ったよ」
「その猫ちゃんとはそれきりでね、赤ちゃんを見せてくれたのが最後だった」

「なんだか、もらい泣きしそうな話ですね」

「猫ちゃんだけでなくて、他の動物だって絶対、人間の言うことを
ちゃんとわかってる、理解してるよね。
それは言葉が通じてるっていうのとは違うかもしれないけどさ」

「わかります。実家で犬飼ってますけど、完全にわかってますよ、人の言うこと」

「僕はさ、小さい頃は品川の下町に住んでてね、外猫ちゃんなんて普通に街中を
歩いてたんだ。いじめる人もいなかったし、どこかでご飯あげる人もいたから、
飢えて痩せ細った猫ちゃんなんていなかった。ご飯あげてもそれを咎めるような
世知辛い街社会じゃなかったんだよ」

「そうですね〜。嫌いな人がいるのは当たり前としても、外猫ちゃん一匹すら
生きられない世の中って決していい世界とは思えないですね」

「そうなんだ。人間は生き物の中で頂点のような顔してこの世界で生きてるけど、そういう生き方が今じゃ、自分たちの住む場所さえ壊してるんだからね」

「生き物達を見てると、色々学ぶこと、反省することが多いですね」

「特に愛情の部分。SNSなんかでもよく見かけるけど、捨てられたり、
虐待を受けたりしたのに、それでも人間を信じて心を開いてくれる生き物達を
見てると、人間として本当に恥ずかしい思いがするばかりだよ」

「うちに来てくれてる猫ちゃんも、精一杯大切にしますね」

「僕からもお願いするよ」

「さ、コーヒー入りましたよ」

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