ちっちゃな幸せ物語(1)
ダイニングテーブルまでの15秒間
“チリン、チリーン”
一階からベルの音がした。
我が家は、
お隣さんとの距離があまり無いため、
大きい声で、一階から二階に向けて叫ぶと、
ご近所迷惑…ということで、
「ご飯ですよ~♪」と言う代わりに、
一階の階段脇に置いてある
ベルを鳴らすことになっている。
ちょうど、
私のオンライン講座の仕事が終わった頃、
夫の準備してくれた
『白菜と豚の三枚肉のミルフィーユ鍋』
が始まる時間の合図だった。
「ありがとう~♡」
「いただきま~す♪」
夫と私、
高校三年生になる息子の三人で、
鍋を囲んだ。
私は、ポン酢につけていただく、
このミルフィーユ鍋が大好物。
「美味しいね~」
「おいしいね~!」
と子供と顔を見合わせながら、
笑顔を絶やすことなく、食べ続ける。
そんな感想を聴きながら、
「美味しいか!?」
と、夫も上機嫌で食べ続ける。
土・日のオンライン講座がある日は、
頼まなくても、夫が作ってくれるようになった。
最近の夫は、料理を作ることが趣味のようだ。
と言っても、昔から趣味だったわけではなく、
ある時期をきっかけに、料理が好きになったらしい。
子供がまだ小学校高学年の頃。
義父が他界した後しばらく、
夫は仕事に行かず、
長い期間、家に居たことがあった。
その頃、70代の私の両親は、我が家で同居
しており5人家族だった。その頃から、
小さな家族も一人増えた。
(白いトイプードル一匹)
私たちが仕事や学校に行っている間、
夫の仕事は、子供の弁当作りから始まり、
朝食作り、ゴミ出し、食材の買い物、
夕食作り、子供の塾の送り迎え、
犬の散歩など、家事全般だった。
始めは、義務感で作っていた料理
だったようだが、夫は日中、テレビの
料理番組やインターネットのYou-tube
などで研究していたらしく、だんだん
レパートリーも広がっていった。
仕事から帰ってくる父と母と私は、感謝の
気持ちも込めてややオーバーリアクションで、
「しげさんの料理はいつも美味いな~」
「これ、お店に出せるわよ!」
「しげさんは、料理上手ねー!!」
と、皆、幸せいっぱいの顔で食べていた。
子供からも、
「お父さん、タルタルソース美味しい!」
「お父さんのカレーライス美味しいー!!」
と毎日、皆から褒められているうちに、
いつのまにか料理の腕を上げていったのだ。
まさに、褒められて木に登るタイプ!?
それまで、仕事以外に趣味の無い夫だったが、
その後、再就職する時の夫の履歴書には、
堂々と<趣味:料理>と書かれていた。
夫が作ってくれる時は、
いつも感謝の気持ちでいっぱいだが、
実はもう一つ小さな楽しみがある。
“チリン、チリーン”
二階からトントントンと階段を下りて、
ダイニングテーブルまでの約15秒間。
私は、まるで童心に帰ったような気分になる。
(今日の夕食は何かな~!?)