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石神井公園の風景(エッセイ3)

まるでお見合い!?のような3時間①


 雨宿りをすることにした二人が、私の小さな赤い傘で半分の肩をびしょびしょに濡らしながら向かったのは、「葉山」という名の喫茶店でした。

 実はその店は、先月8月、私が失恋をした場所でした。その話は、またあとですることにして・・・(苦笑)。

 らせん階段を下りたところにある、喫茶店の扉を開けると、
「雨の中のご来店、ありがとうございます!」
と、黒服の店員さんが迎え、タオルを貸して下さいました。

 クラシック音楽の流れる店内の、奥の方のテーブルに案内されました。

 二人は、メニューを眺めました。

「私は、お腹がすいているので、カレーライスとコーヒーにします。」

(えっ?夕食食べるの?)

「私は寮に帰っても夕食はないので食べますが、気にしないでください。」「でも、お誕生日っておっしゃってたので―――。」

(でも、カレーライスか・・・。口の周りが黄色くなったら恥ずかしいし・・・)

「私は、卵のサンドウィッチと紅茶で。」


「そう言えば、私は、本多といいますが、お名前お聞きしてもいいですか?」
「田中と申します。」

「田中さん。もし差支えなければ、下のお名前も聞いてもいいですか?」
「あ・・・舞(まい)と申します。」
「舞さん、素敵なお名前ですね。」
「ありがとうございます。」

(別に興味は無いけど、聞かれたのだから私も聴くのが礼儀よね…)

「本多さんは、下のお名前は何とおっしゃるのですか?」
「茂男と言います。」
「本多茂男さん」
「はい、そうです!よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

 まるで、お見合いみたいな切り出しでしたが、その明るさと軽やかさに堅苦しさは感じませんでした。

本多: 「私は、出身が山形なので、今は、下井草にある会社の寮に住んでいるんですよ。田中さんは、ご出身はどちらですか?」
田中: 「私は元々、東京です。」
本多: 「東京生まれの東京育ちですか!?凄いですね。じゃあ、江戸っ子ですか~!?」
田中: 「いいえ、親は二人とも奄美大島の出身なので、毎年夏休み40日間は、奄美大島で過ごしていました。」
本多: 「じゃあ、田舎も知っているんですね。」
田中: 「真夏の太陽と青い空と、海は遠浅の白浜で、熱帯魚と一緒に泳いでました。あと、トケイソウという南国の果物が美味しいんですよ!」
本多: 「トケイソウ?聞いたことないですね。」
田中: 「こちらではパッションフルーツって言いますね。」
本多: 「あ、それは聞いたことはありますね。でも、食べたことは無いですね。いや~それにしても、東京より南には行ったことがないので、そんな南国羨ましいですね~!」
田中: 「今は、祖父母も東京に来ているので、奄美に行くことは無くなっちゃったんですけどね・・・。」
本多: 「そうなんですね。」

田中: 「私は逆に、東北には、小学校の林間学校で行った福島県までしか行ったことないんですよ。山形というと、さくらんぼが美味しいんですよね。」
本多: 「そうですね。でも、うちの方は海側なので、さくらんぼは採れないですけど、海に遊びに行くと、サザエとか鮑とかカキとか海の幸が捕れますよ!」
福井: 「へえ~それは、スゴイですね!」
本多: 「夏、お盆で帰ると、親父と叔父さんと弟と一緒に海に潜って捕るんですよ。海も山も川もあって、遊ぶには良いところですよね(笑)。」
田中: 「それは、自然に恵まれた良いところですね~。弟さんもいらっしゃるんですか?」

本多: 「はい。弟は二個下で。あれ?そう言えば、私は今日で22歳になるんですが、田中さん専門学校の2年生っておっしゃってましたよね。弟と同じ学年じゃないかな?」
田中: 「そうなんですね。弟さんは、山形に住んでいるんですか?」
本多: 「はい。弟は、祖母とお袋と一緒に住んでいます。親父は出稼ぎで東京に来ているので、今、葛西に住んでるんですよ。」
田中: 「そうなんですね!じゃあ、お父さんとは時々会うんですか?」
本多: 「そうですね。時々食事します。」
田中: 「それはいいですね!」

(そう言えば、家に電話しなきゃ・・・)

チラッと腕時計を見ると、
本多: 「あ、おうちは大丈夫ですか?」
田中: 「はい。でも、ちょっと電話してきていいですか?」
本多: 「はい。もちろんです。心配するでしょうからね。」
私はお財布だけ持ち、喫茶店の中にある赤い電話ボックスに向かいました。

―――トゥルルルルル、トゥルルルルル、トゥルルルルル・・・
「ママ?私。今荻窪の駅なんだけど・・・」
―――「雨、大丈夫!?」
「雨、凄いよね。傘は持ってるから大丈夫なんだけど、今、友達とバッタリ会って、夕食一緒に食べて帰るから夕食いらない。」
―――「あら、そう。わかったわ。じゃあ、気をつけてね!」

 席に戻ると、カレーライスとサンドウィッチがありました。
本多: 「今、ちょうど来たところですよ。」
田中: 「では、本多さん。お誕生日おめでとうございます!乾杯~☆」
コーヒーと紅茶で乾杯しました。
本多: 「ありがとうございます。今まで東京に来てからは誕生日も一人だったので、今日は、こんな風に祝ってもらって、最高の誕生日です!」
青年の照れながらも心から喜んでいるその笑顔は、片えくぼがとても印象的でした。


(つづく)




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