クルディスタン・シリア・トルコの地震に関するロジャヴァ国際主義コミューンの声明
原文:https://internationalistcommune.com/statement-from-the-internationalist-commune-of-rojava-on-the-earthquake-in-kurdistan-syria-and-turkey/
原文掲載日:2023年2月8日
自然災害が示す政治との繋がり
ロジャヴァ国際主義コミューンの私達は今回の地震による悲劇にショックを受けています。出自に関わらず、大きな被害に遭った家族の皆さんに私達は思いを寄せています。私達がいるところでも地震を感じたのですが、他の地域が経験しているような大規模な被害はありません。国境は時として架け橋不能な線を示します。しかし、人と人との繋がりは違います。ここシリア北東部/クルディスタン西部(ロジャヴァ)では、何千もの人々が他の地域と、特にトルコ南部/クルディスタン北部(バクル)の人々と強い繋がりを持っています。
感情によって情況を政治的に見れなくなってはならないと思います。現在起こっているのは、社会組織の在り様と無関係な自然現象ではありません。民族を分断しているのはナショナリズムとレイシズムによる断層です。資本主義経済は福祉よりも利益を優先します。国民国家の政策を先導するのは短期主義と選挙至上主義です。今、連帯の感情、普遍主義的価値観をアピールする多くの声が挙がっており、私達もこうしたアピールを支持しますが、こうした出来事が起こっている際の社会-政治文脈を無視するなど受け入れられません。この地域や他の地域の国民国家政治体制に人道主義的ヴィジョンがこれまで一度もなかったからといって、過去の責任・現在の責任・未来の責任を帳消しにすることなどできないのです。主要メディアがこの情況に心を動かされているのは当然ですが、こうしたメディアは、同じ人達が被災前から被っていた苦難には沈黙していました。どのみち数週間もすれば再び沈黙するでしょう。
地理的文脈と政治的文脈
2月5日から6日の夜に起こったマグニチュード7.8の地震によって既に12000人以上が被災しています。残念ですが、数時間後にはこの数字は大幅に増えるでしょう。最大の被災地はトルコ-シリア国境の両側にあるクルド人が多く住む地域です。歴史的には、アンカラに無視され抑圧されてきた地域(例えば、マラシュ)、トルコとイスラム過激派に占領されていたシリア北部の地域(例えば、アフリーン)、アサド政権の残忍な弾圧を受けてきた地域(例えば、アレッポ)であり、現在では、トルコの爆撃下で生活している地域(例えば、テルリファト)です。さらに、数十年にわたりこの地域を不安定にしてきた数々の戦闘から逃れた数千人もの難民がいます。つまり、この大災害は、住民が長期にわたり経験してきた経済的・政治的困難のために、一層深刻なものになっているのです。
主要メディアによる現状の扱い方は、紛れもなく、クルド民族を不可視にする新たなやり方です。震災地域にどの民族が住んでいるのかをわざわざ指摘する報道機関はありません。この自然災害をアイデンティティに基づくものにすべきと述べているのではありません。自然は文化的区別をしないのですから。そうではなく、人間的・歴史的現実に結び付けなければならないと述べているのです。このことだけが、人々が経験している苦難を本当に理解できるようにしてくれます。本物の連帯は、この現実の一部始終を考慮に入れて初めて存在できるのです。
自然災害を遥かに超える怪事
この地域を襲った地震はこれが初めてではありません。この地域には3つの地殻プレートが交差しています。つまり、この場所は地震が起こりやすいのです(例えば、トルコは20世紀にマグニチュード6を超える230回もの地震を経験し、その内12回で千人以上が犠牲になりました)。歴史的に見ても多くの災害があり、直近は1999年で、約2万人が死亡しました。この現実を意識すれば、地震に適合した都市計画のために欧州から貴重な支援を受けているにもかかわらず、現政権が行っていることといえば、この問題に関わる予防政策を全く行っていなかったとはっきり分かります。何年もの間、地震学の専門家が、すぐにでも地殻プレートが危険な動きをする恐れがあると警告してきたのに、政府は何の対応もしなかったのです。
さらに恥ずべきことに、AKP(公正発展党)とエルドアン自身は建設業セクターと密接な繋がりを持ち、エルドアンが権力の座に就いてからさらに多くのファラオ的な(訳註:原文はparaonicだが、pharaonicのタイプミスと思われる)事業が行われてきました。汚職の事例は枚挙にいとまがありません(公的機関/民間の契約という点でも、質が悪く基準不適合の素材の使用という点でも)。こうした事業の反対者や汚職を明るみにしようとした何十人ものジャーナリストは、今も投獄されています。イスタンブールのゲジ公園での抗議行動は、都市のジェントリフィケーション・巨大事業・環境破壊に反対する幅広いセクターが参画した事例です。これらは、消費を増やし、都会化に注力する経済政策の弊害を例示しています。民衆の願望を考慮せずに社会的分断を生み出しているのです。
シリア地方では、長年の戦争による混乱と後遺症が今も続いています。ダマスカスの政権は、アンカラとは別な国際的同盟を持ち、過去十年間で、権力の座に留まるためなら何でも行う用意があると証明してきました。ロジャヴァの自治実験が容認されているとすれば、それは、ロジャヴァが示す強さ・決意・犠牲のために他なりません。
援助の無効と反体制派の声の弾圧
無数の証言が示しているように(ソーシャルメディアで共有されており、トルコ政府のプロパガンダとは真逆です)、多くの地域は運命に見放されています。多くの場所(ガズィアンテップのような)では、震災後12時間という極めて重要な時間に何の援助も届きませんでした。提供された支援が無効なのは、ある程度まで構造的・任意的であり、地政学的背景のためでもあります。今日、トルコのソーシャルネットワーク上に、幼い子どもを含めたクルド人の死に関心がないと訴えるコメントが数多くあるはゾッとします。トルコ政府は既に、取られた措置に対するいかなる批判も反逆行為と見なして弾圧する(こうした「反逆」行為を報告するためのホットラインも設置されている)という歴然たる脅迫を発布しています。反対派の犯罪化は、長年行われてきましたが、自暴自棄になった政権によってさらに増えるでしょう。こうした政権はいわゆる団結の言説を増やしますが、実際には権威主義の深刻化なのです。「批判する人達は私達に敵対している。つまり、国家に敵対しているのだ」というわけです。ほんの数時間前、トルコでツイッターが閉鎖されました。
シリアで最も被災した地域は、トルコ占領下にあり、イスラム教徒傭兵の手中にあります。そのため、現地は混乱し、支援が届きにくくなっています。AANES(北部及び東部シリア自治行政区、ロジャヴァ)は管轄地区に隣接する地域を援助したいと発表しましたが、アサド政権は国際援助を独占したがっています。こうした瞬間にロジャヴァの通商禁止情況を一層実感します。この災害があっても、トルコ軍は停戦協定を守ろうとしていないようです。例えば、地震で被害を受けたテルリファート地方は昨夜(2月7日火曜日)再び爆撃されました。
手段化・不可視化 vs 自己組織化・国際主義化
もちろん、最優先なのは緊急援助です。しかし、この大災害が次の選挙(この5月)でどのように利用されるのか、この大災害からどのような教訓を得られるのか、今から注意しておかねばなりません。このような災害が起こるとメディアは注目しますが、だからといって傷やニーズが消えるわけではありません。生活も家も破壊されています。復興は長期的プロセスです。コンクリートだけでは済まないのです。予防策や、こうした地震に対する地元地域の能力の構築を伴わねばなりません。
エルドアンとアサドは既に、何らかの形で地震を利用しようと画策しています(例えば、国民民主主義党のような野党をさらに違法と見なす)。これは、国民の団結という形で行われるでしょう。こんなものは、民衆の利益を犠牲にして自分達の権力を保持するための見せかけに過ぎません。この最初の兆候は示唆しています。残念ながら、地震のために一時的に止まることはあっても、戦火が和らぐことはなく、体制の抑圧的意図が弱まるわけでもないのです。今日の情況が迅速で一国主義的な反応を求めるなら、この自発的連帯を表明直後に希釈してはなりません。現在甚大な被災に苦しめられている多数の住民の生活に壊滅的影響を及ぼす政策を自由にさせておくことになるからです。
国民国家は地域自治と分権型自主組織の敵です。資本主義は民衆の長期的福祉を追求せず、危機と対立を食い物にします。今回の地震はこれらのパラダイムが持つ有害な効果を様々な形で示していると思います。今、極度に被災している地域は、十年間、本物の民主的政治モデルを断固として構築してきた場所でもあります。このモデルは当局にとって脅威なのです。だからこそ四方八方から攻撃されてきたのです。
今日、私達は、この自治行政区が行っているように、あらゆる場所で具体的な形で連帯が発現されてほしいと思っています。近い将来、感情の昂ぶりが静まり、カメラが立ち去っても、この地域に住む人々を忘れないで下さい。これは私達一人一人にかかっています。これこそ国際主義の本質です。国際主義は私達に内在し、国境など知りません。緊急事態を軽減するために今支援を行わねばなりません。未来のために本物の国際主義連帯の絆を紡がねばならないのです。
ロジャヴァ国際主義コミューン
2023年2月8日
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